第6章 怖がったりしないよね?
黒のビキニが彼女の体を彩り、胸元の小さなレースがレナの肌をのぞかせていた。
ほんの数本の紐で支えられているその衣装は、いつでもほどけそうな危うさをまとっている。その視覚的衝撃はリオンにとってクリティカルヒット同然だった。
ネットで無数の映像を見てきたとはいえ、目の前にいる水着の美少女の存在はまったく別物だ。リオンの頭は一瞬、真っ白になった。
呆然とするリオンを見て、レナは勝ち誇った気分になる。彼が回復するのを待たず、狡猾な笑みを浮かべて近づくと、手を伸ばしてリオンの目の前で指を鳴らした。
「もしもし!」
「わっ!?」
リオンは驚いて数歩後ずさった。「お、お前…なんでそんなもの…?」
「ゲーム用コスチュームよ」
レナは誘うような口調を引っ込め、少し距離を取った。「ゲーム参加特典で100ポイントもらえるの。クローゼットメニューで服の変更やコスチューム作成に使える——もちろんポイント消費するわよ」
「…?」
リオンの混乱は続く。
初心者のリオンの困惑を利用し、レナは予防線を張る情報を差し出した。
「ウチのコネでこのゲームの内報を入手してるから。わからないことがあったら、何でも私に聞いてね」
ゲーム知識の出所を説明する方便だ。
しかしレナが話している間、リオンの視線は依然として彼女の胸元に釘付けだった。おそらく情報の真偽など考える余裕もないまま、ただ時間だけが過ぎているのだろう。
たとえ後で不自然さに気づいても、レナは二人の絆を引き裂けないほどに強固にすると確信していた。その段階に至れば、嘘も真実も関係なくなる。
だが、この男、まったく瞬きすらしない。
「……」
無反応。
レナは軽く咳払いした。「*ごほん*。ワールドステージに今すぐ行く?それとも、ここの機能を試してから?ゲーム内の感覚に慣れるとか?」
レナの声でリオンは我に返った。顔を赤らめてそっぽを向く。
「あっ…すぐに始めよう。慣れる必要なんてない…ここでの感覚は現実とまったく同じだ…」
これがゲームだと知らなければ、リオンは本物の現実だと思い込んだに違いない。この空間にはバーチャルゲームの気配が微塵もない。
キャラクターモデリングも現実と寸分違わず——レンダリングの痕跡すら見当たらない。驚異的な技術力で作られたこの精密モデルを見て、リオンは思わず疑問が湧いた:現代の技術で作れるものなのか?
だから、わざわざ慣れる必要はないと感じたのだ。
「了解。じゃあ、一緒に挑戦してみよう」
レナはうなずくと、突然全身を白い光が包んだ。光が消えた時、彼女の水着は肌をしっかり覆うカジュアル服に変わっていた。
「ふう…」
ようやくリオンは安堵の息をついた。
『神域』は普通のオンラインゲームではない。より正確に言えば、世界を形作る階層化されたダンジョン型ゲームで、主要な難易度モジュールは三つ:『ダークゾーン』、『セーフゾーン』、そして『ウォーゾーン』。
ダークゾーンはゲームの最終段階──レナ(未来のリオン)が戦死した場所だ。この領域は序盤では封印されており、プレイヤー全体の戦力が一定レベルに達して初めて開放される。
セーフゾーンは最も気楽なダンジョンで、一般的に難易度が低い。痛覚比率は現実の10%のみで、クエスト突入時には戦力向上バフも付与される。
しかし報酬は最小限:ミッションクリア後のゲームポイントのみで、追加ボーナスはない。クエスト失敗にもペナルティは発生しない。
ウォーゾーンこそがゲームの心臓部だ。クエスト難易度は概して高く、プレイヤーは突入時に現実の身体能力を継承し、痛覚比率は70%に達する。ウォーゾーンでの死亡は3日間のログイン禁止という罰則が伴う。
だがその報酬は見合っている:クエスト成功時には大規模なゲームポイントに加え、戦利品の外部持ち出しが許可されるのだ。
最も重要なのは、ウォーゾーン初クリア時に固有能力が解放される点──これが強者への礎となる。
前世では、あまりにも多くのプレイヤーがウォーゾーン初挑戦に失敗し、ダークゾーン開放まで進めなかった。結果、初期モンスター侵攻時に有効な抵抗ができず、大規模な犠牲を招いたのだ。
なぜ初挑戦の失敗率が異常に高いのか?
70%という痛覚設定が多くのプレイヤーの耐性を超えていた。この設定こそが将来の実戦への適応訓練となるのに。
このゾーンは臆病者をふるい落とす。死の痛みへの恐怖が、二度目の挑戦を敢行する者を極端に減らすのだ。
とはいえウォーゾーンに踏みとどまるプレイヤーも少なくない。ゲームの運命など知らなくとも、彼らの動機は現実的だ:ゲームポイントは現金化可能という魅力。これこそが人々を誘惑する──懸命に戦えば、ゲームだけで億万長者になれるかもしれないという幻想が。
〈だが本当に金のためだけに戦う者など、結局は少数だった〉
リオンの意識は目の前の選択に集中していた。「まずはセーフゾーンから始めないか?ウォーゾーンの罰則やばそうだし…ウォーゾーン行く前にゲームに慣れたがいいと思う」
「ダメ」
レナの口調は鋼のように硬かった。「高難易度こそ挑戦値がある。低難易度なんて退屈でしかない。──そう思わない?」
〈かつての自分はウォーゾーンの罰則を恐れ、セーフゾーンに長く囚われすぎた。セーフゾーンが戦力を強化しないと気づいてから、ようやく痛みに耐えてウォーゾーンに挑んだのだ〉
同じ過ちをリオンに繰り返させてはならない。痛みは確かに恐ろしいが、それ以上に怖いのは死へのトラウマだ。
自らの経験があれば、リオンが早期に「死亡体験」する事態は防げるとレナは確信していた。
しかしリオンの迷いは晴れなかった。
確かに他のゲームでは最高難易度を選ぶのが常だった。レナの言う通り、高難易度こそがスリルを呼び起こす。だが普通のゲームで死亡時の痛みを感じることはない──キャラがどんな悲惨な最期を迎えようと、傷は残らない。
このゲームは違う。彼らは本物の痛みを味わうのだ。
「これって……本当に大丈夫か?」
「リオン、まさか怖がってるんじゃないでしょうね?」
レナが突然前屈みに近づいた。声にはわざとらしい失望が滲んでいる。
「そんなわけねえだろ!」
その一言がリオンの躊躇を粉砕した。
「よし!ウォーゾーンこそふさわしいぜ!俺は何も恐れねえ!何かあってもお前を守ってやる!」
〈男がゲームで死ぬのを怖がるなんてありえねえ!仮想の死だ!現実の死じゃない!〉
自分に言い聞かせるようなリオンを見て、レナは計算高い目を細めた。
〈やったわ、勝利〉
パーティを組んだ二人はワールドステージのウォーゾーンを選択し、クエスト検索を開始した。
マッチングは瞬時だった。数秒後、白い光が二人を包み込み、初期空間からその姿を消した。
再び白い空間に立つ。
彼ら以外に七、八人の人影がいた。男女ともに現実離れした美貌の持ち者たち──まるで歩く美人コンテストのようだ。
特に目を引いたのは筋肉隆々の巨漢。身長二メートル超の肉体は、一撃で生命を砕け散らせそうな威圧感を放っている。
その男を見て、リオンの表情が硬くなった。「アバターの見た目で身体能力変わるのか?」
「いいえ。ウォーゾーンクエストでは現実の体力値が反映されるわ。巨人化しても強さは同じよ」
レナは筋肉質の男を侮蔑の眼差しで一瞥した。「見た目が足を引っ張るだけ。狭いダンジョンで──フッ」
「そ、そうか……」リオンは少し安堵した。
「心配いらないわ」
突然レナが接近し、吐息が耳朶を掠める距離で囁いた。「クエスト中はプレイヤー間攻撃禁止。違反者は重罰よ。自分のことに集中すればいいの」
「……っ!な、何す──」
またしてもリオンは飛びのいた。
〈近距離接触に弱すぎる……ましてや美少女自称彼女からじゃ……〉