第54章 肉体同化の影響?
言葉だけでも、リオンは団長の狂喜を感じ取った。
そして嘲りの響き──
『団長:俺様、超絶カッコよかった?! 変異直前の秒読みで飛行機に飛び乗り、バッチリ同化させたんだぜ! 笑!』
『団長:チクショー、マジでサイコーだった! スパルタンになった気分で、誰でも殴りたくなっちゃった。目覚めたらお前が人壁ぶち破って突っ走ってて、俺置き去りじゃねーか! 皆いなくなっちまってた!』
『団長:いやマジでアレはヤバかった、あの時正気じゃなかったから橋までついて行ったんだ、60階以上から転落しそうになった……高所恐怖症なのに!』
『団長:糞〜、俺様マジで凄い、強すぎる。今は嬉しくて眠れねー、あの極限作戦シーンをリスト化する!』
『団長:そう、動画編集してコピー作ればバズるかも? 超大ヒット間違いなし!』
『団長:今すぐ編集すっ!』
リオン「……」
ホテルに漂流したあの日、団長と友達になった瞬間を一瞬だけ後悔した。
しかし返答を考えている最中、新たなメッセージが割り込む──
『ユエ:クエスト攻略完了した?』
『ユエ:私、爆散させられたんだけど???』
『ユエ:ねえ! 死ぬなら皆道連れにするのが仁義でしょ??』
三連のメッセージを一瞥し、リオンは一呼吸置いてから返信を放った──
『リオン:団長がクリアしたと言ってる』
即座に自身の状況を隠蔽した。連中同士で争わせておけ。他に急ぐ用事がある。
『……しかし、なぜレナがまだ現れない?』
『普段ならクエスト後、必ず報告に来る。前回の時みたいに』
沈黙が続く中、リオンの思考は一つの推測に囚われる──
『まさか……照れてるのか? 大いにあり得る』
少し逡巡した後、彼は手を上げてフレンドメニューを開き、リスト最上位の「レナ」を選択。そのまま彼女のパーソナルルームへと足を踏み入れた。
どうやら二人ともファーストユニコムのゲームキャビン機能を利用しているため、オーソリティレベルが極めて高いらしい。ルーム主の許可なく侵入可能だった。
一瞬の浮遊感──
緑の霧が視界を包んだ。レナは森の家前の木製椅子に、入り口へ背を向けて座っている。硬くピンと張った背筋は、まるで深い思いに沈んでいるかのように静止していた。
リオンは彼女の背後で数秒固まり、そっと歩み寄った。手を優しくレナの肩に触れながら、「レナ…」
「はっ⁉」突然の接触にレナは飛び上がらんばかりに驚いた。
素早く振り向き、警戒の眼差しを一瞬で上方へ走らせた。それがリオンだと気づくと、全身の力がふっと抜けた。「…来たのね」
リオンは微かに笑みを浮かべた。「ああ、来たよ」
『やっぱり恥ずかしがってる』
『でも今の反応…めちゃくちゃ可愛い』
まるで爪を立てそうになったビックリ猫のようで、全く脅威を感じさせず、むしろ過剰な警戒心とのギャップが可笑しい。
レナがこんなにも脆い姿を見るのは初めてだった。
『やはり放心状態か?』
『さっきのクエストのことを考えてたのか?』
――実際のところ、レナはクエストの報酬を確認していた。
今の接触であと少しで反射的に殺人兵器が起動するところだった。認めざるを得ない、この転生で彼女の戦闘能力は幾分か衰えている。
全盛期であれば、リオンが触れた瞬間に地面に叩きつけていただろう。レナなら即座に急所を封じ、必殺の一撃を準備するはずだ。
残念ながら、リオンはその愛らしい仕草の裏に潜む殺意の片鱗すら見抜けなかった。
おそらくフィルターが厚すぎるのだ。
「あっ…団長もクエストクリアしたみたいだよ」リオンが沈黙を破ろうとした。「ほぼ完全に感染しかけてたけど、土壇場で突入して、システムがクリアを認定したから…結果的に助かった」
「あ…そう」レナは短く頷いた。「無事で良かった」
再び静寂が流れる。
数秒後、リオンが軽く咳払いした。「…大丈夫か?」
「平気よ」首を微かに振り、かすかな笑みを浮かべて。「もう遅いわ。ログアウトして休んだ方がいい。明日、授業があるんでしょ?」
「うん…そうだな」
結局、ゲームから退出せざるを得なかった。
疑問は山積みだったが、現実世界で話すのは不自然だ。同居しているとはいえ、ゲームの話をリビングでするのは…何とも奇妙だ。
レナも会話を続ける気はないようだった。シャワーを浴びた後、二人はそれぞれ自室のドアへ消えていった。
リオンの部屋はレナの隣。客間とはいえ、広さは主寝室とほぼ同等――学生寮より遥かに快適だった。
ここに泊まるのは二度目の夜。それでも、深い眠りは訪れなかった。
扉の向こうで、レナの部屋から微かな物音が漏れる。リオンは暗闇の中で天井を見つめ、クエストで起きたあの瞬間――レナが自らを盾にした光景を思い返していた。
『週末になったばかりなのに…』
『何日も経ったような気がする…』
『ああ、ゲームの影響か。何時間ものクエストがたった三時間に感じられるなんて、狂ってる』
レナがクエスト記憶消去の説明をしていたが、そのレベルは初期値のままだ。現実とゲームを区別するには低すぎるが、あの細部を脳裏に刻むには十分だった。
瞼を閉じるたび、クエスト崩壊間際の光景──自分の襟を掴み、キスを迫るレナの姿が鮮明に蘇る。
あの時の彼女は静かで、無口で、少しふらついてさえいた。
普段の振る舞いとはまるで別人だ。
疑問が頭をよぎる:どちらが本音なのか?
『そしてあの二度のキス…』
『これがキスの感覚か…』
『──いや、全然違う』
壁の向こうで、レナもまた眠れずにいた。
今回のクエストは彼女の弱点を露呈させた。最も苛立たしいのは、自分が想定以上に脆弱だということだ。
爆弾一発ですべてが危うくなるとは。
それに…二度も境界線を越えてしまった。あの…リオンへのキス。
クエスト潜入前なら絶対にありえなかった行為だ。彼女の性格に反している。しかし混乱するのは、なぜか嫌悪感を覚えないことだった。
『異常だ』
『新たな身体の生物学的適応の影響か?』
【生理学的に性別は存在します。魂に性別はありません。ホストの魂は現在女性身体内にあり、この思考は自然です。同化は発生していません】
『黙れ!』レナは心の中で呟いた。
リオンを救うための行為だと主張することはできる。だが…なぜか嘘くさく感じる。
サキュバスの治癒スキルのこともある…
『あの方法を使わないなら、今後は血を使うしかないのか?』
『いや、痛みは嫌だ。』
【サキュバス治癒スキルには副作用があります。ホストが直接的方法を望まない場合の代替案:対象者の入浴残湯を保管してください】
【ホストの身体と濃密接触があれば、外部体液にも治癒効果が付与されます。ただし効率は劣化します】
レナ「…」
もはや言葉を失った。
窓の外には夜明けの光が差し始めていた──全てをリセットできる朝が、まだ信じられないほど遠く感じられた。




