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第49章 照れてるのか?

 リオンの意識が曇り始めた。


 三本の肋骨が折れている――おそらく、自分の上に乗っていたレナのせいだ。一本は内臓を貫いており、致命傷。ステータスバーが限界値を示すのを見た瞬間、彼は諦めかけた。


『レナが離れたら、ゲームからログアウトするだけだ』


 しかし、レナは最後まで踏みとどまった。その忠誠心が彼の胸を打つ。体の傷さえ、痛みを忘れさせるほどに。


 これは明らかにゲームに過ぎない。だが、この瞬間だけは現実のように感じられ、リオンは生と死の別れを心から後悔した。


 ――死ぬのは、自分だ。


『それでも……このぬくもりは本物だ』


 彼は実際の死を経験したことはない。だが、このゲームがシミュレートする感覚は、おそらく本物に近いのだろう。かつて自問したことがあった――死ぬ時、誰かが自分のために泣いてくれるだろうか?


 ―答えはノーだった。


 あの時、痛みが胸を締めつけた。人生の最後に残るものとは?


 ―その疑問は哲学的な領域に陥り、彼は思考を止めた。


 しかし今、彼はかつて憧れた感情を味わっていた。無論、レナは泣いてなどいない。ただ黙って彼の上に座っているだけ。その沈黙こそが、リオンを幸せにした。少なくとも今は確信できた――レナの心の中に、自分の居場所があるのだと。それで十分だった。


 ――その時、突然レナがキスをした。


 彼の下の湿った泥は体温を奪い尽くしていた。意識はさらに遠のく。だがその口づけは、雨上がりの夜空のように、星々を再び露わにした。


 初めての最初キスよりも、はるかに強烈な衝撃だった。


 おそらく、この光景は一生忘れられないだろう。


 キスは長く続いた。


 いや……キスとは呼べないものだった。二人とも未経験者だ。レナは必死にリオンを癒やそうとしているだけ。一方リオンは、無力な状態で流されるがまま、自分に起こっている変化にも気づかなかった。


 傷は驚異的な速さで癒えた。


 出血も、体温の低下も、折れた肋骨さえも――すべてが常識外れの回復速度で治っていく。瞬く間に、動けるほどの体力が戻った。


 その変化を察知したのか、レナは突然立ち上がり、彼から離れた。少し照れたように傍らに立つ。


「もう……治ったよね?」


 リオンは一瞬黙り、やがて――確かに傷は癒えていると気づいた。


 以前蓄積していたネガティブ効果も消えていた。ステータスバーには、たった一つの[衰弱]が残るのみ。


 効果は移動速度と筋力の上限をわずかに下げる程度で、今は全く支障ない。


『もしかして……レナか?』


『さっきのキスで……俺を癒したのか?』


「お前……」立ち上がりながら、奇妙な表情でレナを見つめる。「さっきは……」


「コ゚ホン」レナは足元に落ちた拳銃を拾い、背を向けて歩き出す。「先にユエたちを追おう、まだ遠くへは行ってないはず……」


 下水道唯一の光源は十メートルおきにぶら下がる天井灯だけ。薄暗がりで周囲すら見えづらいのに、リオンはレナが背を向ける直前、彼女の頬にほんのり赤みが差すのを捉えた。


『……照れてるのか?』


 二秒間の沈黙の後、彼は思わず笑みをこぼした。


 彼女がどうやって俺を癒すのかは分からないが、それは重要ではない。誰にだって小さな秘密はある――恋人同士ですら。リオンは支配欲が強い方だが、無理に問い詰めるつもりはない。


 レナが教えてくれる時が来れば、待てばいい。何しろ、得をしたのは自分なのだから。


 今、リオンが興味をそそられたのは……レナが実は照れ屋だということだった。


 あまりに恥ずかしがり屋で、一瞬たりともこっちを見ようとせず、先にいる二人を急いで追いかけていく。


 明らかに、レナのことをより深く知る一歩に近づいたような気がする


 レナはこれまで、支配欲を強く見せつつ、多くのヒントをちらつかせてきた。全く気づいていないわけがない――ただ気づくたびに、劣等感が激しく渦巻くのだ。


 恋愛において、彼の態度は確かに度が過ぎる。悪いことではないが、対応に困ることが多い。


『どう説明すればいいか……「誇らしい」とでも言おうか』


 だが今の様子を見る限り……どうやらレナは見せかけとは違うらしい。もし本当に以前の印象通り「いきなりベッドイン」を狙うタイプなら、さっきの行動など朝飯前だったはず。ここまで赤面するわけがない。


 つまり、バカじゃなければ分かることだ:レナは強がりを演じている。


『なぜ強がるのか?』答えはまだ見えない。


『俺をからかうのが好きなのか?』


 その可能性を想像し、リオンは数秒間固まったまま、ようやく歩き出した。


『……まあいい。表向きは奔放でも、芯は純真な女の子――誰が嫌いになれるというのか?』


『何せ、俺の恋人だ。』


『……どうやら、その姿は俺だけに見せているらしい。』


 またしても、笑いが込み上げそうになった。


 団長とユエは遠くへは行っていなかった。わざと速度を落として、レナとリオンが追いつくのを待っていた。リオンの姿を見た団長は一瞬目を見開いた。


「おい……生きてたのか?」脂汗が首筋を伝うほどの驚き


 リオンは微笑んだ。「驚いたか?」


「当たり前だろ……」団長は数秒間、リオンの全身をじろりと見渡し、やがて眉をひそめた。「治りが早すぎるんじゃねェか?」


 さっきの衝撃は凄まじかった。団長とユエはこの目で見ていた。詳細な傷の状態はわからなくても、あの衝撃からして致命傷だったはず。生きているだけでも奇跡なのに、ましてやこの回復速度――団長の好奇心が爆発しそうだった。


「何か秘薬でも使ったのか?」


 それを聞き、リオンは横にいるレナをチラリと一瞥した。


 少女はうつむき、携帯のナビをいじるふりをして、まるで自分とは無関係のような素振りだ。


 思わず笑みが漏れ、リオンは口元をニヤリと歪めた。「……秘・密・だ」


 団長は呆気に取られ、肩をすくめた。「……オッケー、聞かなかったことにすっか。でも先を急ごうぜ。残り時間あと二時間ちょい。あと十キロ――間に合わねェかもな」


「問題ないわ」レナが静かに応じた。「時間通りでなくても、クエスト達成の別ルートは用意されているはず。五時間の制限時間内に都市を脱出できさえすれば」


 試合前に発表された軍の掃討作戦が、明らかにこのクエストの分岐点だ。制限時間前までは、ゲームは常に逃げ道を用意する。もし遅れたら? 死を待つだけ。


 団長がうなずく。「どっちみち、できりゃ早めにクエストを… ど……」


「――団長」


 リオンが突然足を止め、団長を凝視した。


「今、なんて言った?」


「はァ? 『ど… 早めにクエストを…と……』」団長は無意識に繰り返し、そして凍りついた。


 場の空気が、奇妙な沈黙に張り詰めた。


 *ドカン!*


 銃声が静寂を破る。ユエが硝煙の立つ拳銃を掲げ、数歩後退して団長から距離を取った。レナとリオンも同時に身を引く――三人の警戒の視線が、団長に集中する。


 団長「……」


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