第48章 本当にキスしなきゃダメなの?
崩れ落ちた瓦礫が下水道の穴を塞ぎ、続いて頭上で幾度も衝撃が走った。幸い、地盤はまだ堅く、さらなる崩落は免れた。
この都市下水道の空間は広大で、高さは推定六メートル――いくつかのファンタジーゲームの下水道スタイルに似ていた。
だからこそ彼らは順番に降りることにしたのだ。下にどんな危険が潜んでいるか分からない。六メートルの高さは普通に飛び降りられる安全レベルではない。
しかし、先ほどの状況はレナにゆっくり降りる余裕など与えなかった。生き埋めになりたくなければ、飛び降りるしかなかったのだ。
彼女が飛び降りた時、リオンは壁を半分ほど登ったところだった。結果として、二人の姿勢は非常に奇妙なものになっていた――
リオンはひび割れた地面に仰向けに倒れ、レナは彼の腰の上に座っている。彼女の手はリオンの胸に軽く置かれ、うつむいた顔が彼を見下ろしていた。長い髪は絹のカーテンのように乱れ、優しく彼の顔を撫でる。
――もし周囲に散らばるゴミや廃棄物の山、そして粉々になりかけたリオンの状態を無視すれば、この光景はどこまでもロマンチックな邂逅に見えたかもしれない。
そう、リオンは落ちたのだ……そして骨が折れた。
彼はレナのクッションとなり、彼女よりもはるかに強い衝撃を受けた。ゴミに覆われた地面とはいえ、無防備な状態での落下だった。防御姿勢も取れていなかった。高さは三メートルほどだったが、衝撃はまさに致命的だった。
リオンは理解できなかった。この鼓動の早さは、目の前のレナを見たからか……それとも死の淵を彷徨ったからか。
『でも……どう見たって……マジで……レナって美しいな』
「リオン……大丈夫?」 レナの声は水平線の彼方みたいのようにかすかに聞こえ、次第に近づいてきて、意識が遠のきかけたリオンを現実へ引き戻した。
彼は彼女の顔に深い心配の色が一瞬浮かぶのを捉えた。
その一瞥――ほんの一瞬ではあるが、本気の気遣いが、リオンにこの苦しみが無駄ではなかったと思わせた。
彼は確かに、簡単に満足するタイプだった。
「あ……大丈夫だ」 全身に走る痛みをこらえ、何度か深く息を吸い込んでから、かすれ声で言った。「行けよ……俺のことは心配するな」
『こんな状態じゃ、歩くのも無理だ――立ち上がることすら難しい』
『足手まといになるのはやめよう。みんなが行ったら、自決するか』
『でも正直言って、このゲームの痛覚設定はマジで耐えがたい……』
「旦那、お前……」 団長は諦めたように首を振った。「……もういいや。旦那の功績は忘れねぇよ。安らかに」
「行かなくちゃ」 ユエがせきたてた。「さもないと、手遅れになる」
レナは一瞬沈黙し、それから呟いた。「二人は先に行って。リオンと私は……後から追いつく」
「先に行け?」 ユエが眉をひそめた。「軽率すぎる。ナビもないのに、どこへ進めば?」
「あっちよ」 レナが一方を指さした。「最初の分岐を左、その後は直進」
ユエが遮ろうとしたが、団長が彼女の腕を掴み、鋭い視線を向けた。「了解。俺たちは先に行くぜ」
ユエは声を詰まらせ、渋々団長に従った。
まだ遠くへは行っていない。ユエがこっそりと近づき、声を潜めて囁いた。
「ゆっくり行こう。もしかして、わざと私たちを切り捨てて、一人で逃げるつもりじゃ?」
「ありえねーよ。なんで一人で逃げなきゃなんねぇ? 三人でクリアした方がクエスト報酬大きいだろ?」
団長は嫌そうに彼女を一瞥し、「空気読めよ。今はあの二人が俺たちから離れる時間だ。邪魔するな。少しだけ二人きりで話させてやれ」
「おい…これはただのゲームだ?」
「アイツらにとっては、そうじゃないかもな?」
ユエは沈黙した。
一方、レナは依然としてリオンの上に座ったまま、思考に沈んでいるようだった。
二人の姿が遠ざかったことに気づき、リオンがかすれた声で言った。
「レナ…お前も行けよ…オレをここに置いていけ…」
「待て」 レナが手を挙げ、優しく彼の口を覆った。「方法はあるわ…あなたを治す方法が」
彼女は自分のサキュバスとしての能力、そして持っている回復スキルを決して忘れていなかった。
ただ問題は――その回復スキルの使い方がわからないことだ。通常、プレイヤーがスキルを発動させる時、基本的な使用法が直感的に浮かぶものだ。
今のレナの問題? どこから手をつければいいか、見当すらつかない。
回復スキルに関して、彼女の頭は完全に空白だった。
『全くもって理不尽だ。』
『――おそらく、その領域の知識を消し去ったバグなのだろう。どうせこのサキュバスの力は通常システムの外由来なのだから』
[( ͡°_ʖ ͡°) ホスト、そんな偏見まじりの目でシステムを見ないでください。我々の和を乱しますよ]
『戯言はよせ。どうすれば治せる?』
[ホスト、サキュバスものの作品を読んだことありますか?]
「・・・」
レナは突然、嫌な予感がした。
次なるシズの言葉が、その予感を裏付けた。
[サキュバスそのものが治癒効果を持つ存在です。これは彼女たちの生来の特性なんですよ]
レナはまだ抵抗していた。『回りくどい言い方はやめて。普通の言葉で説明しろ!』
[(눈‸눈)… ストレート過ぎる乙女は可愛さが半減しますよ]
[体液です。唾液、そしてサキュバスのあらゆる分泌液に治癒効果が宿っています。ホストはその液体を対象者に与えるだけで結構です]
「……」
『やっぱりか。』
設定が確かに…「サキュバス」らしい。
『だが…』
『他に方法はないのか?』
[ありません。この治癒効果は受動的かつ純粋なサキュバスの特性です。だからこそ、関連知識のダウンロードに失敗したのです]
レナは沈黙した。
リオンと彼女は長い間見つめ合っていた。レナが一向に口を開かないため、リオンが耐えきれずに不安そうに尋ねた。
「レナ?」
レナは唇を噛んだ。
今、彼女は選択肢を天秤にかけていた。
もし自分の全ての体液に治癒効果があるなら、真っ先に思い浮かぶのは血を与えることだ。だが、今の自分の回復力がどれほどか確信が持てない。
何よりも、この不潔な環境は感染リスクが高い。さらに出血すれば彼女の体力は消耗する──デメリットが明らかに大きすぎる。だから、どう考えても血は最適解ではない。
では次の選択肢は…唾液だ。
「……」
『…ちょっと引く』
『どうやってリオンにこれを納得させる?強引にやるか?』
彼に心理的なトラウマを与えるのが怖かった。
それ以外の方法といえば…『濃密なキス』だ。
「……」 だがこれは受け入れがたい。
以前したキスは軽い触れ合いだけ──それだけで彼女は混乱した。ましてや濃密なキスなど?
もしここでリオンを死なせれば、生き残る手段は彼のポイントを赤めるしか…
『いや、ダメだ──それではこのクエストが完全に無駄になる!何のポイントも得られない。』
『まさか本当にキスしなきゃいけないのか?』
『なぜ私がこんなことを?それに心に一切の罪悪感がないのはなぜ?唯一の後悔が「損した気分」だけだなんて!?』
『こんなこと、断固拒否するべきじゃないのか!?』
『もう完全にこの新しい体に同化してしまったのか!?』
『さらに悲惨なことに──なぜこの事実にまったく嫌悪感を覚えないんだ?これは深刻な問題だ…』
[(┛✧Д✧))┛ むしろ朗報じゃありませんか?]
『黙れ!』
歯を食いしばり、心の葛藤と怒りが一つの決意へと燃え上がった。彼女は突然、身をかがめ、眼下の男へ自らの唇を押し付けた。
*ちゅぱっ*
周囲には──静寂が支配した。




