第41章 この街は明日、爆発する?
男は絶望に飲まれていた。
街で何が起きているのか理解できない。確かなのは、住民全員が狂人と化したことだ。出会う者は皆、容赦なく襲いかかる。車で移動中でさえ、彼らは次々と車体に突っ込んでくる。躊躇なしに。
車内から警察へ通話を試みたが、全ての回線が混雑していた。道路上に警察の姿は微塵もなく、まるで世界が彼を見捨てたかのようだった。特に車が完全に動かなくなった時、暗黒の絶望が彼を包み込んだ。
その時──
ドカン! 遠くから呼ぶ声が響いた。
「おーい!こっちだ!早く!守るから!」
男が振り向くと、研究所の入り口に四人の影。リオンが立ち、団長が必死に手を振りながら遮っている。
暗夜に差す夜明けの光のように、希望が男を襲った。彼は踵を返し、彼らの方へ全速力で走り出した。
一方、レナは周囲を見渡すと、近くのホテルを指さした。
「あそこに行きましょう!」
帰路はまだ遠い。恐るべき存在に包囲された状況で移動するリスクは大きすぎる。何より男の命が最優先だ。安全な避難場所を確保することが絶対条件だった。
そもそもこの街の禍はゾンビウイルスではない。効果は即死的ではない。ホテル選びは合理的な判断だ。
反論する者なく、一同はホテル入口へ走り出した。
レナが建物内部に潜り込み安全を確認する間、リオンら三人は入口で防衛線を張り、男が到着するのを待つ。
その時、十体の感染者が男を追っていた。幸い、周囲に増援はなし。もし増えていれば、三人の武器では防ぎきれなかっただろう。
しかし彼らのうち、射撃に真に熟達しているのはリオンだけ。団長とユエは標的が十分接近するまで発砲を渋り──無駄弾を恐れた。
リオンは意に介さない。彼の射撃技術は研ぎ澄まされている。数発が正確に命中し、感染者を倒した。命中率は三分の二以上。
リオンの銃撃が迫る脅威を一掃し、残りは三人の死の煽動によってようやく鎮められた。
瀕死の男はようやく救助者の姿を認めると、
「ありがとう……ありがとうございます……」
団長が彼の肩をポンと叩く。
「お兄さん、運動不足だろ?体力なさすぎっスよ」
男が反応するより早く、拳銃がこめかみに押し当てられた。
「ケータイ持ってるか!?よこせ!」
「はあ!?」
「なんで遠回しに聞くのよ?」
ユエがより強引に介入した。到着するやいなや、男の体をまさぐる手。団長より獰猛だ。
敏感な部位さえ念入りに二度チェックした。
「見つけた」
ユエがズボンのポケットから携帯電話を引き抜くと、平坦にうなずいた。
「よし、もう殺していいわ」
男:「???」
団長が喉を詰まらせた。
「いや、なぜオメェの方がオレより凶悪なんだよ!?」
「NPCをわざわざ生かしておく必要ある?」
ユエが細目で冷ややかに言い放つ。
『NPC』という単語は理解できなくても、男は悟った──狼の口から虎の口へ飛び込んだのだ。芽吹いたばかりの希望が粉々に砕ける。
「君たち…俺を助けたんじゃないのか!?お金ならやる…」
「お金なんて現実に持って帰れないでしょ?」
ユエの憎悪はまだ渦巻いている。「さっさと始末した方が手間省けるわ」
「そこまでする必要はない」
リオンが遮った。「放せ。やり過ぎだ」
仮にNPCでも、ユエの手法は明らかに越境している。
「はあ?まさかこの男の面倒を見るつもり? 言っとくけど、生き死には知らないからね!」
ユエは即座に距離を取った。
リオンが嫌そうに睨み返す。
「面倒を見るなんて言ってないだろ?」
ちょうどその時、レナが戻ってきた。
「館内は無人。安全。一日ここで待機しましょう。施錠されていれば問題ないはず」
それを聞くと、ユエは読み取れない表情でレナを見つめ、階段へ向き直った。
「勝手にしな。好きにすれば?」
生存者たちは早々に解散。玄関をロックした後、フロントで客室キーを見つけ、男を完全に無視して二階へ向かう。
リオンは男に現在の状況を説明した──形式的に。男の今後の計画? 知ったことではない。
邪魔さえしなければそれで十分。
このホテルは三階建てで階段が二つ。内装のレイアウトは戦略的で脱出路が多く、感染者が侵入しても対応しやすい。
一時的な隠れ家として最適だ。
だが部屋割りで意見が割れた。
団長は四人同室で夜勤制を提案──安全性を主張。ユエは同室には同意したが、一人部屋をう星と彼女言っていた。
困惑が広がる中、リオンは…
レナの方へ振り返った。
「レナはどうする?」
レナが一瞬考え、微笑む。
「私たちで相部屋にする?」
「ああ」
リオンは深く考えず即答。暴君のように団長とユエを指さした。
「お前らは別の部屋を探せ」
ユエが我慢できずに噛みつく。
「ちょっとゲーム中にイチャイチャする必要ある? このゲーム、エッチできるシステムでもあるの?」
リオン:「...」
──気づけば、これがレナとの初めての同室かもしれない。
口にした後、その思考が頭を離れなかった。
しかしレナは疑念もなく微笑んだ。
「ゲーム内で愛情表現するのは別に禁止されていないよね?」
「別にいいわ、私一人で部屋とるから」
ユエは嘲笑い、議論を続けなかった。
「ならせめていま情報共有しましょうよ?」
団長がユエを恨めしげに見つめた。「スマホまだアンタが持ってるだろ?状況確認してないの?」
ユエは一瞬黙り、レナに端末を差し出した。
「頭のいいレナに任せるわ」
レナは抗議せず受け取る。指が画面を舞う。
その端末は実機に似ているが──ブランドも電波マークもない。しかし通信は異常に高速。解析すると不審点が浮上:
ネット接続はウイルス関連ニュースのみ可能
アプリは「地図」と「ニュース」の二つのみ
ニュース記事が恐るべき事実を暴露:
[正体不明の『Xウイルス』。感染経路:不明。潜伏期間:30分~24時間。初期症状:皮膚の異常紅潮+他者への強烈な攻撃衝動。罹患者は視認した最初の人間を襲撃。死亡時:爆発する]
最後の一行が血液を凍らせた。
「爆発⁉ 自爆するってか⁉」
団長の顔が強張る。「それじゃあ…明日には街全体がクレーター化する可能性が…!」
リオンが数秒沈黙し、うなずいた。
「クエストの解決法、理解した気がする」
もし各死亡が爆発を誘発するなら、連鎖反応は彼らの攻撃よりもはるかに壊滅的な大災害を生む。
『…なかなか興味深い』
リオンの唇に戦略的な微笑みが浮かんだ。




