第40章 この娘、明らかに善人じゃない
事実が証明した──巨躯にはやはり利点がある。例えば今この状況、団長の体格は平均的な一般人を遥かに上回っていた。
打撃が致命傷でないとはいえ、団長の顔には即座に青黒い痣が浮かんだ。
一撃で倒せなかったのを見て、女性研究員は素早く立ち上がる。数歩後退すると、再び突進の構えを取った。
しかし団長は殴られて大人しくしているタイプではない。彼の拳が瞬時に振りかぶられ、唸りながら襲いかかる女性研究員を正確に狙い定めた。
「クソったれ! サンダー!」
*ゴゴゴッ!*
閉鎖空間に突然、雷鳴が轟いた。眩い閃光に全員が思わず目を瞑る。
光が収まった時、半ば闇に沈んだ廊下は焦げ跡だらけだった。闇の縁に立つ団長は荒い息を吐きながら、声を詰まらせて言う。
「オレの力…強すぎた…ぐったりだぜ、旦那…助けてくれ…」
リオン「……」
彼は今、団長の能力を理解した。やはりか、雷帝。恐ろしい威力だ。
レナが近づき、焦げ跡の中からIDカードを探す。ようやく炭のように黒く焦げた身分証明カードを見つけた。
ユエが歩み寄り、その黒こげの物体を驚きの眼差しで見つめる。「団長の固有スキル、なかなか強力ね…でもこれ、完全に焦げちゃってる。まだ使えるの?」
(用語変更:特殊能力から固有スキルへ)
「答えは試してみれば分かるわ」レナは扉へ歩み、カードをスキャナーエリアに押し当てた。
インジケーターランプが緑色に変わる。ロックされた扉がゆっくりと開いた。
「まだ機能するなんて? ずいぶんと高品質ね」ユエは感嘆を禁じ得ない。
「いいから、さっさと中に入って回収しようぜ」団長の顔が曇る。「嫌な予感がするんだ」
「まさか…感染したんじゃない?」ユエが鋭い視線を向ける。「可能性はあるわよね、だって今、殴られたばかりでしょう?」
「…攻撃されたら即感染だと誰が決めた? デタラメ言って人を惑わすなよ」
団長はリオンの背中をポンと叩く。「行くぜ、旦那」
リオンはうなずき、彼と共に足を踏み入れた。
レナが続く。中に入って目に入ったのは、がらんとした空間だけだった。
その部屋はSF映画を思わせる雰囲気。四つの壁面にデータのプロジェクションが映し出され、一見すると壮観だ。しかし最も重要なもの──中央のラックに置かれているはずのワクチンは、なぜか消えていた。
「ワクチンはどこだ?」団長は目を見開いた。「最新研究のワクチンはどうなった?」
レナが室内をくまなく調べ、隅の机に置かれた通知を見つける。それを手に取り、目を通すと状況を悟った。
「薬剤は移送されたわ」
「は?」団長が固まる。「またトラブルかよ? どこへ行ったんだ?」
「ここに書いてある:『南ショッピングセンターへ輸送、実地試験実施のため』」レナは通知を順に他の者に渡す。「問題は、私たち、南ショッピングセンターの場所を知らないことね」
これがこのゲームの特徴だった――最初から予想すべきだった。クエストにおけるプレイヤーの命運を決めるアイテムやイベントには、常に一定の難易度が設定されている。簡単に手に入るワクチンなど、存在するはずがない。
これが最初のクエストだったら、ここまでのストレスはなかったのに……
「完全に時間の無駄じゃない?」ユエが呆れたように口を挟む。「最初から知ってたら、安全な場所に隠れてた方が良くない? ふ〜ん」
「そういえば」彼女は急にレナに向き直った。「アンタ、自分の家、覚えてる?」
「ええ、覚えてるわ」レナはうなずき、すぐに付け加えた。「でも、家に二日間隠れてるだけでクエストをクリアできると思う? 甘すぎるわ」
「ワクチンが消えたとはいえ、まずはこの街の地図を手に入れる必要がある」
プレイヤーはゲーム開始時に私物を持ち込めない――携帯電話や電子機器も例外ではない。
車にはナビが装備されていたが、残念ながら持ち運びはできない。車から離れた彼らは、この街でほぼ迷子同然だった。
しかしレナの地図の提案に、リオンが閃いた。「店に行って、スマホを何台か強奪する? 地図アプリは入ってるはずだ」
「じゃあ何を待ってるの? 急ごうぜ!」最も焦ったのは団長だった。拳銃を握りしめ、さっさと外へ駆け出そうとする。
リオンとレナが後を追おうとしたその時、ユエが背後からそっと二人の腕を掴んだ。声を潜めて囁く。
「ねえ、正直言って……さっきのアレ、どう思う? ……まあいいわ」
「でも彼、感染してるかもしれないでしょ? さっき攻撃されたじゃない? このまま連れて行くの?」
リオンは一瞬、沈黙した。
レナが探るような視線を向ける。優しいが、どこか試すような口調で言った。「じゃあ、あなたの提案は?」
「三人だけで行かない? デブはほっといて。彼も武器は持ってるし? 本当に感染してたら、私たちにとって危険よ」ユエが唆すように言った。
リオンがレナの方を振り返った。
どうやら最近のリオンは、常にレナの意見や同意を求めているようだ。たとえ自分なりの考えがあっても、彼女の感情を優先させている。
これがいわゆる上司への忖度だろう。だがそう思いつつも、彼はレナが最後まで頼れる人間だと信じていた。
レナは涼しい顔で言った。「それなら、リオンにお任せするわ」
それを聞いて、リオンはまた呆然とした。
「俺が決める?」
普段の言い回しだったが、これはレナが自分に依存しているのと同じだ。
『頼られる……』
『へへっ……』
「ねえ、どうするのよ?」ユエの声が現実に引き戻した。
リオンは慌てて咳払いした。「団長は現実世界の友人だ。放っておけると思うか?」
「ただのゲームでしょ? 邪魔されるの好きなの?」ユエは呆れたように呟く。
「ゲームだと?」リオンは目を細めた。「ならなぜ君は必死なんだ? 感染したなんて、どうして分かる?」
「それに、仮に感染してもワクチンは取り戻せる。終わりじゃない」
「ソロで行きたいならどうぞ。君だって武器は持ってるだろ?」
ユエ「……」
「ふん~」
リオンはもう構わない。くるりと背を向け、足を踏み出した。「レ…レナ、行こう。早く場所を見つけよう」そう言いながら手を差し伸べた。
その宣言を聞いて、レナはわずかに眉を上げた。
『ふん、なかなかやるじゃない』
てっきり彼がいつものように見て見ぬふりをすると思っていた。
団長はずっと前で待っていた。遅れて出てきた彼らを見て、我慢できずに聞いた。「遅いぞ、どうした?」
「中に貴重品が落ちてないか確認してた」
リオンは涼しい顔で答え、話題を変えた。「この近くの携帯ショップ、場所覚えてるか?」
「覚えるかよ!」団長が周囲の道路を見回し、苛立った口調で言う。「クエスト内のモール設計、現実と全然違う。どこの店の看板だ? 6Gの広告まで出てるし。おかしくないか?」
「じゃあどうする? 看板探しながら一つずつ回る?」ユエが口を挟む。
その言葉が終わらないうちに、前方で突然助けを求める叫びが炸裂した。「助けてくれーーーッ!!!」
四人が振り返る。道の上でへし曲がった車から、一人の男がはいずり出てきた。四体の感染者が即座に襲いかかり、狂ったように攻撃を浴びせる。
次の瞬間、男は必死に叫びながら走り出した。
「プレイヤーか?」リオンが男を疑わしげに見つめる。
「違うわ」ユエが首を振る。「こんな顔、記憶にない」
「助けられるわ」レナがほのかに笑った。「地元の住民なら、スマホを持ってるでしょ?」
ユエ「……」
彼女はただ思った――この娘、明らかに善人じゃない。




