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第4章 彼らの始まり

 その夜、リオンは甘い夢を見ていた。

 彼がレナの想いを受け入れ、二人が恋人になる夢だ。

 海辺のヴィラに連れていったリオンは、ベッドに押し倒すと、ゆっくりと彼女の服を解いていった...ボタンを一つ、また一つ...


「...ブルル!」


 枕元の携帯の振動が夢を破った。

 半覚醒のまま眉をひそめながら受話器を取る。「もし?どちら?」

 稀有な夢は跡形も消えた。似た経験、君にもあるだろうか?


『外で朝食一緒にどう?』

 電話越しに響くレナの声。


 リオンは跳ね起きた。「あっ...了解。今すぐ向かう。待ってて」

『うん。ウェストエンド食堂の入り口で待ってる』


 電話を切ると、時計はまだ八時を指していた。週末。ルームメイトは深い眠りのまま。

 自らの頬を叩いて意識を引き戻し、ベッドから起き上がると...パンツの中に不快な冷たい湿り気を感じた。


「......ああ」


 ▽▽▽


 電話から十分後、レナはまだリオンを待っていた。

 彼は慌てふためいた様子で、服には無造作な皺が寄っている。


「見るに堪えないわね」

 レナは心の中で呟いた。

 どんなに急いでも、女性とのデートでは身だしなみを整えるべきだろう。

 本当にダメ男だな。

 彼女ができぬのも無理はない。

 バカみたい。


 心の中でリオンを罵りながらも、レナは思い出す──あのバカは昔の自分だと。

 仕方なく近づき、彼の襟と服の皺を丁寧に伸ばしながら言った。

「急がなくていいわ。何分でも待ってあげる」


 リオンの身体が瞬時に硬直した。

 レナが...自分の服を整えてくれた?

 人前で?往来の生徒たちの好奇の視線を浴びながら?

 なぜそんな...もしかして昨日の告白は本気だったのか?周囲の風景がぐるぐる回るような感覚に襲われた。


 身だしなみを整え終えると、レナは自然に彼の手を握り、ほのかな笑みを浮かべた。「さ、朝食にしましょう」


 リオンは即座に動揺した。

 これが...手をつなぐことか...

 生まれて初めて...女の子に手を握られて...

 なるほど、女の子の手は本当にこんなにも柔らかいのか...

 頬が熱くなるのを感じた。


 リオン?」

 レナがタイミングよく呼びかけ、彼のぼんやりを断ち切った。


 リオンは慌てて軽く咳払いし、心の動揺を隠した。「えへっ…うん、食べよう…」


 レナは彼に優しく微笑むと──彼の見えない角度でそっと白目を向いた。

 バカ。本当にどうしようもないわ。

 過去の自分って…なんでここまでダサいの?

 もっと豪快にできなかったの?別の店に誘うとか、先にケーキをご馳走とかなさい!

 後でお腹パンパンになっても、最初の一手はカッコよく決めなきゃ!

 馬鹿、ふんっ。

 見れば見るほど腹が立つ。


 この男が将来どれほど傑出するか知っていながらも、無様な若者版を目の前にして、レナは思わず疑った:この「英雄予備軍」の成長度ってどれほどのものなの?

 女に転生するくらいなら、むしろ男友達として生まれ変わった方がマシだったわ!男同士の絆なら気軽に距離を縮められるのに──


【システム推論:同性最高絆結成の場合、本体適合率は宿主に対し87%】

【異性最高絆結成の場合:本体適合率1000%が宿主存続に不可欠】


「…………」

 あのゼロの数、打ち間違いじゃないわよね?


【( ̄‐ ̄)んー、 入力誤差なし】


「どうした?」

 突然固まったレナを見て、リオンが不思議そうに訊ねた。「ラーメン、まずいか?」


 レナは首を少し傾げて彼を見つめ、かすかに首を振った。

「昨日の私の提案のことよ。どう?考えてくれた?」


 リオンは突然の本題に驚き、しばらく沈黙してから覚束ない頷きを見せた。

「ああ…まずは友達関係からで…」


「じゃあ、食べ終わったらすぐに荷物を運びなさい」

「……え?」

「早くあなたに近づきたいの。たとえ友達としてでも」

「……わかった」


 リオンの思考は停止した。

 人生で経験したことのない『直球ラブアタック』──その前には防御など無力だった。


 レナの微笑みが柔らかく広がる。過去の自分すら騙せなかったら、本当に恥ずかしいわね。

 ___


 リオンの荷物運びは時間がかからなかった。パソコンと本以外、彼の所持品は無造作に積まれた質素な衣類だけ──見た目に無頓着な彼の服は、全てが実用一点張りの外出着だった。

 かつてのレナも…そうだった。


 でも今の私はベテランの達人よ。

 彼女は女性をより美しく見せる方法を知っていた。この分野ではかなりの知識を持っている──自身に応用する気はあまりなかったが。


 特筆すべき点:『同居』とはいえ、名家の令嬢であるレナが適当な場所に住むわけにはいかない。

 そのため実家は即座に学園の向かい側の高級住宅街に広大な一軒家を購入──今や億万長者しか住まない区域だった。


 敷地の門前に着いた時、リオンはスーツケースを落としそうになった。

「これが…家?マジで…?」


「父様が買ってくれたの。家賃は要らないわ」

 レナはリオンをぐいっと引き寄せ、ドアを閉めた。「でも一人で住むには…広すぎるの。だからあなたにいてほしい──」


 リオンが凍りつく。「だ、だめだ…噂になる。君の父上も怒るだろう…」


 レナは彼に背を向け、深く息を吸った。

 ……確かに

『優しすぎる選択』が仇となる瞬間だ。

 あそこまで露骨にしたのに

 最も“安全”で最も馬鹿げた道を選ぶなんて

 優しさの形は一つじゃないのに──

 バカ


 心で咂舌しながら振り返ると、レナの手が伸びた…そのままリオンを抱きしめた。「返事がない限り、離さない」

「……」

「『はい』って言うまで永遠にね」


 レナの体温が腕に伝わる。リオンは震えた。「み、見られたら…やめて──」

「構わない」

 レナはさらに腕に力を込めた。

「断るならこのままでいい。飢え死にするまで、永遠にここで抱き続けてあげる」


『これが切り札よ』

 レナは確信していた。この手は彼のような男に必ず効く。何せ──リオンが理想とする恋人像を誰より知っているのは彼女自身なのだから。

 完璧な“理想の彼女”に変身できる。失敗したら?この男が本当に“元の自分”か疑うべきだろう。


 予想通り、リオンは屈服した。「あ…わ、わかった…離して…」

 レナは即座に笑顔で抱擁を解き、スーツケースをひょいと持ち上げた。


「よかった!自分で言ったわね」

「そして撤回なんてなしよ!今日からここに住むんだからやよね?」


 小悪魔的な光を背中にまとう少女を見て、リオンは逆に…微笑んでしまった。

 なぜレナが自分を好きなのか、彼にはわからなかった。取るに足らない存在──ましてやレナはアイリスフィールド財閥の令嬢だ。


 もしかして…本当に僕のことが?

 その考えが頭をよぎり、リオンの唇に笑みが浮かんだ。

「ああ…今日から、ここに住むよ」


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