第34章 煉瓦を引き抜く
レナはすぐに着替えて外へ出た。ただし、今回選んだ衣装は少々特別だった。
へそとウエストラインを露わにするトップスに、白い肌をかなり大胆に見せるホットパンツ。
その姿にリオンはぴくりと反応した。「お前、その服を選んだのか?」
二日前の服装スタイルとは対照的だった。
「ああ…だって、尻尾がちょっと邪魔でね」レナは複雑な表情で答えた。
彼女の力が目覚めて以来、尾骨から生えた尻尾が伸びていた。全身を覆う服や長ズボンは、この余分な部位を圧迫してしまう。以前、現実世界で力が目覚めた時は、尻尾の一部がズボンに挟まったこともあった。
だから昨日、ゲーム内の能力トレーニングエリアに入った時、彼女はわざわざ後ろに穴を開けた特製ズボンを用意し、尻尾を自由に動かせるようにしていたのだ。
残念なことに、今回のクエストの中は彼女の装備を全て消し飛ばしてしまった。
今、時間をかけてズボンにぴったりの穴を開けるでもしない限り、以前のタイプの服を着ることは快適ではない
「うーん…」他の獣人能力者がどう尻尾の問題を解決しているか、注意して見る必要がありそうだ。
レナの説明を聞いて、リオンは数秒間沈黙した。「は? ああ…なるほど」
リオンはつい忘れていた。レナが今や猫娘だということを。
『猫娘か…』
「さっさと行こう」レナは話題を長引かせなかった。今は準備の時間だ。メインクエストはそろそろ始まると予想される。
ゲームシステムがちょうど、警戒すべき不審な行動を取る数人が街に現れたと通知してきたのだ。
リオンはうなずき、ドアへ急いだ。二人が足を外へ踏み出した瞬間、新しいクエストの通知が目の前に表示された。
【現在のクエスト:地下駐車場へ行き、30番駐車スペースの車両で職場へ向かえ】
「運転できるの?」後ろから続いてきたレナが尋ねた。
リオンは足を止め、うなずいた。「ああ、できる」
高校を卒業してすぐに免許を取っていた。
レナは薄く笑った。「ならお願いね。私は運転できないから」
進んで運転してくれる者がいるなら、断る理由などない。
リオンは多くを語らず、すぐに承諾した。「了解」
『俺に運転を任せるのか? 腕前を見せてやる時が来たな。』
リオンの思考はシンプルだった。
スポットNo.30にはクーペがきちんと停められている。二人が近づくと、車は自動でロックを解除し、ドアを開けた――その技術は現代の車よりもはるかに進んでいた。
運転席に座ったリオンの目の前に、ゲームのインターフェースが表示され、非常にユーザーフレンドリーな二つの運転モードが提供されていた。
一つはリアルモード、もう一つはジョイスティックモード。どうやら後者は運転能力のないプレイヤーのためのオプションらしい。
リオンは一瞬黙り込み、レナの方を見た。「ジョイスティックモードもあるみたいだ。試してみるか?」
腕前を披露できれば格好いいが、面白い機能を見つけたらやはりレナに勧めたかった。何しろ、良いものは彼女に――そう考えたのだ。しかしレナは全く興味を示さない。「結構。さっさと行こうよ」
彼女はリオンをただのリラックスツールにしたいだけだった。正直、専属ドライバーに送迎されるのはとても気持ちがいい。全てを自分でやる必要がなく、これは彼女に特別な満足感を与えた。まるで自分が上司になったような気分だった。
『わ~、私って性格悪いわ』
リオンはやはり気にしない。「ああ、わかった」
こういう些細なことでは、リオンは常にベストな人を巻き込もうとする…いや、彼女に対する時の彼の基準なのだ。つまり、レナは完璧である必要はない――彼が完璧だと思えばそれでいい。結局のところ、その不完全さこそが彼女の独特の魅力なのだ。
まあ…完全には自覚していないかもしれないが、どうやら彼も心の中でレナの存在を受け入れ始めているようだ。これは良い知らせで、次のリオンのメインクエストは彼自身の実質的な価値を証明することになるだろう。
レナの目に映る彼自身の価値を。
おそらくこの段階はすぐに乗り越えられるかもしれない。
二人が車に乗り込むと、センターコンソールの画面に自動的にナビゲーションが表示された。目的地は遠くない――わずか十数キロだ。
リオンは手際よく車を操作し、地下駐車場から出た。
地上に着いて初めて、周囲の環境に気づいた。
高層ビルが密集した大都会が広がっていた。見渡す限りの摩天楼。歩行者はほとんど見えず、道路は車で埋め尽くされていた。当然、彼らも渋滞に巻き込まれた。
彼らの車は特に混雑した地点で身動きが取れなくなった。前の車列の最後尾さえ見えない。
リオンはハンドルに手を置き、一瞬沈黙した。「多分、今Uターンした方がいい」
この混雑度では、30分も動けないかもしれない。
「ダメよ」レナは真っ直ぐ前を見つめた。「これもクエストの一部かもしれない」
ゲーム内のクエストは無駄な指示を出したりしない。プレイヤーを何時間も渋滞に閉じ込めるのには必ず意味がある。
このチュートリアル的な任務のように、プレイヤーがより自然にクエストイベントに参加できるように設計されているのかもしれない。あるいは、クエストの世界観に溶け込むための準備時間なのだろう。
彼女はこうした流れに慣れすぎていた。今の状況では、いくつかの可能性が予想できた。
「前のビルから煙が出ている」
それを聞いて、リオンが視線を走らせると、はるか前方のビルの屋上から黒煙が渦巻いているのが見えた――まるで火災が発生しているかのようだ。
一瞬考えた後、彼はすぐに窓を開けた。
外の音が車内に流れ込んできた。周囲の群衆の喧騒に混じって、遠くからかすかにサイレンの音が漂ってくる。
「消防車が道を塞いでいるのか?」リオンが推測した。
レナは首を振った。「違うわ。前方のビルが問題で、見てごらん――空にヘリコプターが5機飛んでいる」
リオンが思わず上を見上げた。ちょうどその時、軍用ヘリコプターが非常に低い高度で、高層ビルの屋上すれすれを飛んでいるのを目撃した。
これは以前のゲームの【システムアナウンス】を思い出させた。「この街、何かおかしくないか?」
以前はシステムは香油いった『不審な行動を取る市民が数名...』
レナが答えようとするより先に、一台のバイクが突然左の隙間から割り込んできた――
ドガッ!
サイドミラーが粉々に砕け散った。
前方の車のトランクに飛び散るガラスの破片を見て、レナの表情は次第に硬くなった。
この展開...彼女にはあまりにも馴染み深かった。
「ゾンビ映画のオープニングシーンみたいだな...」リオンが呟いた。「降りて直した方がいいか?」
レナは即座に彼の手首を掴んだ。「ダメ! システムの指示なしで外に出るな! すぐに窓を閉めて!」
もちろん彼女もその映画を知っている。オープニングシーンがそっくりだった:バイクが主人公のミラーを破壊し、そして...
突然、警官がリオンの車の隣に近づいてきた。窓を叩きながら、「おたくのサイドミラーが――」
だが、彼の言葉は遮られた。
ぐわあっ!
背後から現れた何者かが彼を乱暴に締め上げ、引きずり出した!
リオンは驚いて、慌てて窓を閉めた。「マジか!? まさかゾンビクエストなのか!?」
「身構えて!」レナはほとんど即座に固特殊能力を発動しかけたが、こらえた――誤って尻尾でリオンを傷つけるかもしれない。「君の特殊能力で武器を作るはできるか?」
「武器?」リオンは一瞬沈黙し、掌を上げた。「試してみる」
煉瓦が一丁、彼の手の中に現れた。
「・・・」




