第33章 これは隠しR-18ゲームか?
リオンの言葉は明快だった。
レナは彼の恋愛観を痛いほど理解していた。この男は未だに独善的な観念に囚われているかもしれないが、根は善人なのだ。
しかし今、振り返って考えてみると、その行動は実に滑稽に思えた。
恋に落ちる定石は、知り合い、理解し、そして関係を結ぶ――という順序だ。
けれど、一目惚れというものもあるだろう?
「単なる欲望だ」と嘲笑する者もいるが、否定できない――それも一つの愛の形なのだ。
最終的に互いを想い合うのなら、順序など重要だろうか?
肝心なのは、その想いではないのか?
数十億の人間の中から、二人が同じ時空間で出会い、視線を交わす確率は、おそらく0.0001%にも満たない。
『知り、理解してから決断しろだと?』
『誰がそんなに長いプロセスを待てるというんだ?』
『それこそが甘いってものだ』
もしアイリスフィールド家の令嬢がこの男に想いを寄せたなら、その鈍感さに身を焦がすことだろう。
『そして、後悔するかどうか――なぜ相手の気持ちばかり慮る必要がある?』
『私は大人だ。自分の決断に責任を持つのは当然だろう?』
『何より私が仕掛けたのだ。もし後悔するなら、それは私を失望させたリオンが無責任な男だった証だ』
――残酷に聞こえるかもしれないが、それが現実だ。
だから今、彼女はリオンを心底馬鹿だと思った。だがおそらく、リオンは一度死なないとそのことに気づかないだろう。
残念ながら、リオンは彼女ではないのだ(元の自分)。
『はぁ~』
『レナを恋人として、何かをしたいか? もちろんだ。これが毎晩の俺の願いだ』
しかし、彼には踏み込めなかった。
自信が粉々に砕けていた。
二人の身分の差は深淵の如し――レナは富める一族の令嬢、自分はただの学生に過ぎない。
レナが自分のどこに価値を見出したのか。この二日間の幸福を味わった後だからこそ、レナが去ってしまうのではと恐れていた――甘い夢が終わることを。
故に、自らの価値を見いだすまでは、リオンは無意識に安全圏を保とうとしていた。今の関係を維持したいのだ。
レナに触れないことも、その戦略の一環だった。
「だったら…時間をくれないか? 俺が…少し慣れるまで…」
彼は目を閉じ、その視線の影響から逃れようとし、胸のざわめきを押し殺した。声はかすれている。
「努力はする…けど、ゲームが始まる。まずクエストを片付けよう?」
レナは動きを止めた。彼女は腰を下ろすと、リオンの視界から外れた場所で、ふんっと不満げに唇を尖らせた。
「…わかったわ」
レナはリオンの言葉を一言も信じていなかった。彼女はこの男の“勇気のなさ”を熟知していた――リオンの脳内で妄想する内容と、実際に行動に移すことの間には、越えられない溝があるのだ。
『でもその反応、可愛いわ』
『ふふっ』
――ただしレナは、この瞬間だけは二人の身分の差を忘れていた。そしてその後――リオンが己の価値を見出した時にどう変貌するかも、全く考慮していなかった。
もし考えていたなら、ここまでリオンを挑発しなかったかもしれない。何せ彼女は理解していた――火山は噴火する時、蓄積した圧力を一気に解放するのだということを。
圧力が大きければ大きいほど、その爆発は凄まじい。これは彼女の「女の子」という立場にも関連する話だった。
それを全て理解していたのはシステムだけだった。
そしてシステムは沈黙を選んだ。
その処理ロジックによれば、リオンのレナへの好感度上昇は現時点で吉報だった。たとえ将来的に負の反動が来ようとも、それすらもシステムにとっては利益となる。ゆえに、わざわざ漏らす必要はなかった。
沈黙していたが、システムの機嫌は上々だった。それはボーナスクエストの発動となって現れた:
[ボーナスクエスト:クエスト評価Sを達成し、ガチャチケットを獲得せよ]
クローゼットで着替えを選んでいたレナに通知が届く。心の中で問うた。「クエストって全部こんな評価システムあるの?」
[気分次第]
「何の気分よ?」
[このシステムの気分]
「じゃあ機嫌いい時は『一歩歩くごとに10000ポイント獲得』クエストとかくれない?」
[(눈‸눈)・・・無理。クエスト難易度と報酬は均衡してる。発動数も基本ルールに準拠]
「そのルール、誰が決めたの?」
レナの好奇心が燃えた――システムの正体も含めて。あの「神域」と関係が?
【―アクセス拒否―】
今回はシステムの声が機械的で感情を排していた。レナは詮索をやめた。
どうやらセンシティブな質問には特別な反応が起動するようだ・・・機密保持機構?
強行した場合の結末はわからないが、今は慎重に振る舞うのが賢明だろう。
クローゼットは機能性重視のスポーツウェアで埋まっていた――ゲームはこの点で意地悪はしなかった。
問題はただ一つ:着替えのタイミングだ。
パジャマの下には、文字通り「糸一本」すら纏っていない。
レナは選んだ服を握りしめ、リオンを凝視した――長すぎるほどに。
我に返ったリオンは男物の上下を掴むと、寝室から弾丸のように飛び出した。「俺、外で着替える!」
ドアが閉じると同時に、レナは一瞬呆然とした。近づき、カチリと鍵をかけた。
ここで明らかになった:レナの度胸はあくまで表向きだけだ。本当にその局面に直面したら、彼女にそんな勇気はない。
『違う、違うわ・・・これは度胸の問題じゃない。もし私とリオンの立場が逆なら、きっと・・・できたはず』
残念ながら、人生に「もしも」は存在しない。
ドアの外のリオンは鍵の音をはっきり聞いた。彼は足を止め、理由もなく苦笑を浮かべた。
確かに自分は腰抜けだが、馬鹿ではない。
レナが後から鍵をかけたということは――彼に体を見られるのをまだ恥じている証拠だ。
『だとするとさっきの行動・・・ただのハッタリだったのか?』
その可能性を思い浮かべ、リオンの笑みが深まった。
『だがどちらにせよ――女の子に迫られて逃げる男って、情けないな』
『・・・本当に情けないのか?』
『はぁ・・・このゲーム、マジでそんなこと許してるのか?』
『プレイヤー同士でイチャイチャできる仕様なのか?』
彼はヘルプメニューを開き、関連ルールを精査した。
そしてリオンは発見した・・・このゲームには確かに制限が存在しない。親密な行為は文字通り可能であり、禁止事項は一つもない。
『こ・・・これは隠れエロゲだったのか?』




