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第 3 章 これが俺の補償なのか?

 レナは彼を止めなかった。

 自分自身の性質を熟知していたからだ――強く詰め寄れば逆効果になる。相手が令嬢(アイリスフィールド家の令嬢)であろうとも。


 論理性こそリオンの最大の武器だが、時に過剰な理性は狂気へと至る。

 何より、未来が不透明な青春時代に軽率な行動を取った若者など数え切れないのではないか?


 ◇◇◇


 リオンが去った後、レナはその場にうつむき、しばらく顔を覆っていた。

 過去こそ彼らにとって最強の敵だった。かつての自分と対峙すれば、失望は避けられない。


 今の不甲斐ない自分と向き合うたび、過ぎ去った自分を殴りつけたくなる衝動に駆られた。


『落ち着け…あのバカは過去のお前なのだから…』


 それでも心の中でリオンへの罵声を抑えきれなかった。


 感情の高ぶりを鎮めると、レナは深い息をつき、キャンパスを後にした。


 ――そしてその一部始終を目撃した学生たちにより、噂は瞬く間に広がる。


 その夜、リオンは学内で突如有名になった。


【炎上!彼がアイリスフィールド令嬢に“あの行動”を敢行!】

【令嬢の想いが拒絶された!?】

【拒絶後、湖畔で悲痛…涙ながらに顔を覆う令嬢!写真証言あり!】

【関係者情報:容疑者リオンは情報工学科2年生】

【集団糾問中!生中継はこちら→】


 狭い寮室は騒然とした観衆で溢れていた。

 ただ一か所だけ――事件の当事者であるリオンがベッドに沈むように座っている一角だけが異様に静かだ。


「マジかよ!いつから令嬢とあんな関係だったんだよ!?」

「いや…俺はただ――」

「黙れ!令嬢がお前の名前呼んだろ!?しかも先に抱きついてきたんだろ!マジでアイリス嬢と親密なのか!?」

「まあ…」

「令嬢の胸ってCカップだろ?抱かれた時どうだった?柔らかかったか?」

「…………」

「答えろ!!」

「バカ野郎!今の質問誰だ!?ぶっ飛ばせ!!」


 騒動の中心人物であるリオンは、それでも驚くほど平静を保っていた。

 

 ◇◇◇


 レナはスマホの生中継を閉じ、ソファに放り投げて仰向けになった。思考を空っぽにしながら。


 今の彼女――レナという存在は、前世には存在しなかった。

 スターゲイザー大学の過去に、レナ・アイリスフィールドという名も、今のような巨大財閥アイリスフィールドグループも痕跡すらなかった。


 前世では無名に近かった…一時的に脚光を浴びたこともあるが、束の間で、むしろその方が気楽だった。


 だが今生は違う。新たな立場を噛みしめながら思う:

『目立ちすぎる。この先の影響は計り知れない』


 確かなこと――かつての自分であるリオンは、操りやすい相手ではない。


 リオンは常に理屈で動く。たとえ空から金塊が降ってきても、何時間も罠かどうか疑い続けるタイプだ。この性質は幾度も窮地から救ったが、弱点もあった:突然親切にする人間を決して信用しない。


「理想の彼女と幸せに暮らす」という妄想は頻繁に抱いていたが、妄想は妄想だ。仮に現実になっても疑うだろう:「こいつ、下心があるんじゃないか?」

「俺から何を奪おうとしてるんだ?」

 そんな風に。


 つまり、リオンがレナを信じるには長い時間が必要だ。


 もちろん近道はある――思考停止させるほど追い詰めれば、いずれ信じるだろう。


 ふと、レナの脳裏に大学時代の教授の言葉がよみがえった:

「毎日抱かせてくれる女性がいれば、男は依存する」


 あくまで理論だ――教授自身、実証できずに終わったらしい。

 仮に正しくても、レナにそんなことできるはずがない!


『元自分とエッチなんてありえない!』

『想像しただけで吐き気がするわ』


 レナは呟いた:「システム…どうして俺を男のまま転生させなかったの?」


【システム分析による:現ホストの肉体は、元ホストから信頼と愛情を得る確率が最も高いと算出】


 その言葉に一瞬凍りついたレナは、浴室へ向かった。


 彼女の肢体は完璧だった――男言葉を使わなければ、エリート令嬢の気品がにじむ。

 無垢なオーラは天使の輪のように漂い、

 三つのプロポーションは理想的な比率。胸の膨らみも腰のくびれも、全てが淫靡な曲線を描く。


 まさにリオンが妄想していた「理想の彼女」の具現化。この肉体は彼を心理的に屈服させる最終兵器だった。


 だが、リオンの石化した理性はそう簡単には砕けない。


「まったく…昔の俺はなぜそこまで頑固だったのか」

 鏡に映った自分を見つめながら、レナは苦笑を噛みしめた。「盲目の理性の塊め」


 先ほどの再会は、恥ずかしい過去の日記を読み返すような感覚だった――昔はカッコいいと思っていた行動が、今では滑稽で仕方ない。


 リオンの頬を二発ほど叩きたくなる衝動が胸をよぎる。

 人間の成長とは往々にして、過去の自分への失望から始まるものだからだ。


 だが、今の“女性”という立場にはさほど違和感がない。

 何しろ彼女は死を経験し、ミラクルデイ後の世界は一変していた。


 ◇◇◇


 浴槽から上がる――今や皮肉な儀式となったこの行為。

 湯気が肌にまとわりつく中、女性としての本能が自然に働く:長い髪にシャンプーを揉み込む指先、無垢な肌をケアする一連の動作。


 しかし意識の奥底で、男だった頃の自分が叫ぶ:

『お前今自分の胸触ってるのか!?』

『落ち着け!清潔保持だ!』

『でもお前――』

『卑猥な脳みそ!これは俺の身体だ!』


 そんな内なる葛藤は、髪をドライヤーで乾かす頃には収まっていた。

 しなやかな動作でブラシを動かし、鏡の自分を虚ろに見つめて呟く。「…もう完全に慣れたのか」


 レナは屈辱的な出来事を振り切り、核心の問題へ集中することを決めた。


 パソコンを起動し、「神の領域ゴッズ・レルム」を検索する。


 このゲームはミラクルデイ直後にリリースされ、まさに事件発生日からサービス開始した。キャッチコピーは直球――「第二の現実を体験せよ」。

 基本無料+現金稼ぎ可能という戦略で、熱狂的な議論を巻き起こしていた。


 その疑問がレナに前世の記憶を呼び覚ます。


 このゲームの正体?

 それは神々が創りし最終兵器だった。


 当初プレイヤーは娯楽や金稼ぎと割り切り、ゲーム内で超人的な快感を味わった。

 だがやがて、ゲーム内の特殊能力や装備が現実に侵入。

 続いてモンスターや災厄までが現実を侵食し始める。


 その時、人類は悟った――これは単なるゲームではなく、世界を救う最終兵器であり、生き残るための唯一の手段だと。


 無限に湧く魔物の侵攻に対し、人類は最精鋭部隊を結成し、主要なボスを討伐。

 レナもその一員だった。だが遠征中、部隊は魔物の海に飲まれ、彼女もまた仲間と共に葬られた。


 最後の一人となったレナは、絶望の中で全エネルギーを解放し、魔物の海もろとも自爆した。


【選択ミスです。システムロード完了まで待てれば、全ポイントが変換可能でした】

【宿主はその力で最強を極められたでしょうに】


「……今さら言うな!死んだ後に!?」

「なぜ死亡地点で復活させない?」

【不可】


 レナは短く息を吐き、議論を続けなかった。「では、前世で貯めたポイントは?」

【時間遡行=システムリセット。宿主ポイントはゼロ】

「心の中で呪ってもいい?」

【……補償を発動します】


 同時にシステム画面が更新された:

[-初心者パック(初戦域クエストクリア後解放)]

[獲得機能:自動化粧]

[宿主の容貌は常に最状態で維持]


 説明文を三秒間見つめた後、彼女は呟いた:

「これが私への償い?」

【 w( ̄△ ̄;)w! 】


『クソシステムめ!』


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