表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

第22章 誘惑はお勧めする

【ホストに何か問題が?】


「問題があるのは私じゃない、あなたのじゃないかしら」

 レナの表情は測りかねていた。「リオンの件に関して、あなたは私よりリオンの味方なんじゃない?」


【本システムはあくまでホストのために最適化された提案を――全て合理的な判断に基づくものです】


「なら、こんな提案は言わなくていいわ。聞き流すだけだから」

 レナはゲームパネルを閉じた。


 ◆◇◆


変身(へんしん)】は比較的普遍的な能力だ。その名の通り、このスキルを持つプレイヤーは特定の動物の特徴を顕現させた身体へ変貌できる――外見だけでなく、特定の能力値の向上も伴う。


 強調すべき点:同じ動物系統の特化であっても、プレイヤー間で能力は大きく異なる。要するに、各プレイヤーのスキルはユニークであり、せいぜい類似する程度で、完全に同一ということは絶対にない。


 レナの系統【黒猫】でさえ、前世で遭遇した猫系プレイヤーとは完全に別物だった。


 変身形態における【黒猫】は敏捷性(AGI)と反応速度(DEX)を大幅に向上させ、身体制御能力と気配消滅の特性を付与する。しかし代償として筋力(STR)と耐久力(VIT)の上限値が低下する。


 明らかに、これは暗殺者アサシン特化のポジションだ。


 レナはこの能力に若干の苛立ちを覚えた。前世――つまり現在のリオン――の戦闘スタイルは正面突破型だった。相手が絶対的優位に立たない限り、勝利できなくとも無敗を確約できる。そこにリオンの真価が輝く。


 だが彼女が積み重ねてきた戦闘経験は全て正面対決型。この新能力は彼女の専門領域を断ち切り、全く異なる戦闘様式の習得を強いる。明らかな干渉だと彼女は感じていた。


 残念ながら、一度発動した能力は永続的。変更の余地はない。否応なく受け入れるしかなかった。


 レナは一旦オフラインし、思考を整理することに決めた。


 ◆◇◆


 ゲームルームから出ると、リオンが既にリビングで待っていた。レナを見つけると、彼はすぐに声をかけた。

「お前、ゲームに詰まってたのかと思って……」


「プライベートルームで用事を済ませてたのよ」

 レナは微笑みかけると、携帯を取り出して時刻を確認した。


 そろそろ夕食の時間だ。


 このゲームは確かに時間を喰う。だからレナはリオンに一日一試合と制限を設けていた。


 何より今はまだ「崩壊」前夜。世界は崩壊しておらず、この平穏は未来では珍しいものとなる。存分に味わわねば勿体ない。


 ふと息を吐くと、レナは優しく告げた。

「テレビを見るなり休むなりしてて。私が夕食を準備するわ」


 リオンは一瞬沈黙した。「お前が……料理するのか?」


「何か問題でも?」

 レナは首をかしげ、鋭い視線を向ける。


 リオンは口を開き、躊躇ってから首を振った。「……いや」


 ゲーム内で肉を焼くのが趣味だと思っていた。まさか現実でも料理できるとは。


 《レナの手料理? あの『御令嬢ごれいじょう』イメージとは真逆だ》


「そういえば」

 レナがキッチンの入り口で振り返った。「好きな食べ物ある?」


 リオンは慌てて答えた。「何でもいい……」


 嘘だ。


 ――レナは心で嘲笑った。


 彼のわがままぶりは熟知している:

 貝類嫌い、骨付き肉拒否、野菜過多は敵扱い、油っこい料理は不潔認定、ただし薄味も拒絶。しかもリストは増殖中。よくまあ生き延びてきたものだ。


 彼の基準を満たす店を探すのは命がけだった。


 《大学時代を思い出すわ。たった一食のために三つの学食を巡り歩き、やっと許容できる料理を見つけた挙句、その店で一学期過ごそうと本気で計画してたもの》


 残念ながらその店は後期に閉店。リオンは究極の料理を求めて自炊を始める羽目に。


 今でも食のわがままは治っていない。唯一の進歩は料理スキル――新メニューを一週間で習得し理想の配合を見つけ出す才能だ。


 彼はかつて思った:世界が救われたら、料理人への転身も悪くないと。


 無論、彼の料理は常人には無理。リオン専用である。


 そう、まさに今。リオンの舌は絶品料理によって封殺されていた。


 外食では絶対にお代わりしないリオンが、今夜は大盛りご飯を二杯平らげた。人生初の「食べすぎて死にそう」体験である。


 《……マジでうまい》


 大好物ばかり揃っているだけでなく、味付けも火加減も完璧。正気ならレナに食生活を監視されていると疑うところだ。


 《もしかして……これが恋?》


 純真なリオンは、夕食の席で再び心臓を鷲掴みにされた。


 だがレナは――

 ……全く愉快じゃないわ。


 《……私の食事分が足りてるのか?!》


 あのリオンのお陰で、自分の分まで食い尽くされた。

 生まれて初めて、レナは心の底からこう叫びたくなった――

「クソが――」


【ビーッ(検閲音)】


【汚い言葉は禁止です。良家のお嬢様はそんな言葉を使いません】


 黙れこのスーペベ!


【スペースベースです。それにホストは既にシステムを『シズ』と改名済みでは?】

 レナは無視した。


 幸い、リオンに最低限の良心は残っていた。料理を手伝えなかった代わり、食後すぐに自発的に皿洗いを始めた。

 レナも止めなかった。タダの労働力? 拒む理由などない。


 リオンがシンクで忙しそうにしている間、レナは入浴して就寝準備を整えた。だが眠る前に一つ――シズの新規プレイヤー報酬が残っていた。

 この報酬は「最初のミッション」完了後に初めて開封可能となる。ようやくその機会が訪れたのだ。


 正直、システム関連はレナにとっても未知の領域だ。何か問題が起きるかもしれない不安から、部屋の中で開けることにした。何せこの部屋の防音性能は抜群なのだから。


 頭の中でシステムメニューを呼び出し、倉庫バーに保管されていた「初心者パック」が――すでに解禁されているのを確認した。迷わず開封を選択する。


 瞬間、見知らぬエネルギーが全身を駆け巡り、細胞の一つ一つに染み渡った。すると次に、臀部に奇妙な感覚が……まるで身体の一部ではない異物が追加されたような。


 振り返ると――

 細長い黒尾がゆらりと左右に揺れていた。


 同時に、ゲームメニューのような説明が脳裏に浮かぶ:


【固有追加スキル:魅了】


 ■アクティブスキル

 1. 初級治癒術

 2. 究極精神魅惑


 ■パッシブスキル

 1. 初級魅了(所持者の魅力向上/非変身時は効果減衰)

 2. 知覚促進(変身時発動)


「…………」


【ホストは猫耳娘コスプレを推奨。魅了スキル発動により、本体オリジナルの好感度900%上昇が予測されます】


「……またこれ?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ