第21章 コスプレを提案される?
リオンはまだ任務のことを考えていた。「このゲーム、ウォーゾーンに飛び込むのが前提なのか?」
「あんた……平気なの? 女の子って痛いの嫌がるんじゃないの?」
レナは涼しい顔で首を振った。
「お前がそばにいてくれてるなら、怖くないわ」
リオンは一瞬、黙り込んだ。
そんな無防備な言葉に、今もやられてしまうとは。仕方なく「……ああ、それでいいなら」と応じる。
気持ちは少し落ち着いた。
レナの言葉はどこか違和感があると分かっていても、聞けばやはり胸を揺さぶられる。心配する必要なんてないと頭では理解していても、この奇妙な感情だけは抑えきれなかった。
もしかするとレナは何か目的があって近づいているのかもしれない。あるいは――彼女が言うように――ほんの少しの可能性だとしても、レナが本当に自分のことを好いているということは?
何しろ彼もつい最近、初恋の味を知ったばかりだ。それが幻だったなんて、残酷すぎる。
それに……彼自身、かなり得をしている。そう、様々な意味で。
「よし」
レナが彼から離れ、一歩下がってクスクスと笑った。
「最初のクエストはクリアしたわ。さあ、戦利品を確認しましょうか」
リオンは気を紛らわすようにゲームメニューを開いた。
レナは腰を下ろし、システムウィンドウを呼び出した。記憶の複製データを消去するつもりだ。このゲームにはその機能がある――プレイヤーは複製された記憶にぼかしをかける選択ができる。効果を最大にすれば、プレイヤーが感じるのは微かな夢の残り香程度。心理的負担は最小限に抑えられる。
痛みが怖いからではない。ただ、苦しみを覚えていたくなかった。
前世――ゲーム内でも、その後現実世界でも――確かに彼女は繰り返し傷つき、死んできた。だが、痛みに慣れたわけでは決してない。
この世界に、苦しみに本当に「慣れる」ことのできる人間など存在しない、と彼女は思う。
たとえ何度死んでも、死の苦しみは次に訪れる時に一片たりとも和らぐことはない。何度殺されようが、その痛みがどれほど凄まじかろうが――マゾヒストでもない限り――誰もあの灰色の影を好む者はいない。
彼女は今も昔も、痛みを恐れる者だった。ただ、その忍耐力が過去をはるかに凌いでいるだけだ。
だから――クエスト完了のアナウンスが終わるや否や、彼女は即座にログアウトした。
前世で「天を逆らう力」を持てなかったことが、今さら悔やまれる。これからの傷は、きっと前世よりもずっと深くなるのだから。
心のざわめきは一瞬で消えた。
無論、そんなのはただの独り言だ。何せ今のリオンも成長していく。それに……よく考えれば『スペベ』という強力な助っ人がついた。
[スペベではなくスペースベース(宇宙基盤型システム)です]
「いいからスペベ、専用ショップ見せなさいよ」
[( ̄へ ̄凸)……ホストの命令には従いません]
「……わかった。新しい名前を付けてあげる」
「シズと呼ぶ。異論ないでしょ?」
[ホストは案外良い人ですね]
「……」
シズは無言でレナの意識内にポイントショップの画面を開いた。
ゲームのアイテムショップに似ているが、中身はまったく別物。一瞥しただけでレナは舌打ちした。
《チートすぎるわ》
正真正銘のシステム不正だ。
「神域」はプレイヤーに能力を付与するが、成長ルートは用意しない。自力で開拓するしかないのに、シズのショップではレナの能力とリオンの二つのスキルが強化アイテムとして即登録!しかも詳細な使用ガイド付きで販売されていた。
流石は最強システムだ。
「フッ……」
ため息が零れた。前世にこのシステムがあったなら、あんな無様な死にはしなかっただろうに。
[なぜホストは過去の失敗ばかり気にする?単なるシステムバグですよ]
レナは無視した。
今回のクエストでリオンは16キルを記録。クエストクリアの2000ポイントと合わせ、合計4600ポイントをSランク評価で獲得した。
ゲームシステムの恩恵も絶大だった。ベース報酬に加え、インタンスでの二人のパフォーマンスが極めて高かったため、リオンは14,000GP、レナは9,000GPを獲得──インタンスから持ち出したライフルの評価額も含まれている。
「は?」
リオンはゲームの仕様に気づき呆然とした。
「ポイントの現金交換レート10:1?こんなに高いのか!?」
レナが即座に遮った。
「換金はダメ。身体能力ステータスの強化に使いなさい」
「ああ」
リオンは多くを語らず、ただ「うっ……」と呻いた。
レナが真実を明かして以来、彼はこのゲームを単なる娯楽とは見なせなかった。改めて考えればあまりに不自然だ──基本無料モデルなのに現金交換システム、時代を超越した技術……全てが疑わしい。
だが誘惑は現実だ。14,000GPは1,400ドル(約20万円)。生活費一ヶ月分に相当する額だ。
「全GPを身体能力強化に使うのか?」
彼はステータス画面を見つめ、躊躇った。
レナはこっくりうなずいた。「全部使いなさい。全属性に均等に振って、漏れのないように」
身体能力ステータスは以下の通り:
- 耐久力(VIT)
- 筋力(STR)
- 知性(INT)
- 敏捷性(AGI)
- 正確性(DEX)
- 精神耐性(MIND)
- 体力(FOR)
強化にはレベルごとに膨大なGPが必要――まるで底なし沼のようだ。だが十分に高めれば、特別なスキルがなくとも超人的な力を発揮できる。
無論、莫大なGPが消費される。前世では自然災害が起きるまで、これを達成したプレイヤーはごく少数だった。
しかし現段階では、身体能力への全投資が最善策である。
14,000GPを手放すのは惜しいが、リオンは黙って全ステータスを強化した。
終えると、レナは地面から立ち上がった。「一旦休憩。このゲームはかなり消耗する――戦闘ダンジョンは一日一つが限度よ」
返事を待たず、彼女はリオンの個室を後にし、自分の空間へ戻った。
レナの個室はパステルカラーの森――おとぎ話の絵本から抜け出たような不思議の国だった。木々の合間に開けた広場には、丸太小屋がひっそりと佇んでいる。
小屋前の木製ベンチに腰かけ、再びシステムメニューを開いた。
リオンの前では確認したくなかったものがある――彼女のユニークスキルだ。
最初の戦闘ゾーンをクリアすると解放されるこの能力は、生涯にわたってプレイヤーを支える。その強さが運命を左右するため、システムは即座に要約を提示していた。
ステータス欄を開き、レナは「ユニークスキル」の項目へ視線を走らせた:
【変身:黒猫】
「……」
[ホストはこの能力で猫耳コスプレをお勧めします! 本体のホストへの愛情度が300%アップする可能性大です!]
[あっ違う~ホストはコスプレする必要ありません! だってもう本物の雌猫ですからね! ヾ(≧▽≦)ノ]
「…………」