第15章 男を見つける
だからこそレナは彼女を日和見主義者と呼んだのだ。それだけではない。この娘は狡猾な裏切り者でもあった。
前世では、多くの人々が彼女の偽りの無垢さに騙された。結果として、自分たちの命がどう奪われたかすら気づかなかった。
しかし今は…この段階の彼女は、まだ前世ほど悪質ではないはずだ。少なくとも、ゲーム初期のルールは守っている。生死に関わらない限り、過度に警戒する必要はない。
それでも、本性は徐々に露わになっていた。
例えば今の発言。その意図は明らかだった──彼女は今、何も持っていない。特に、自衛のための武器が欠落している。
二日目に入り、ミッションは終盤へ向かう。難易度は確実に上昇する。この重要な局面で武器なしでは、ミッション達成の可能性はほぼ絶望的だ。
だから機会があれば、他のプレイヤーの陰に隠れ、武器を入手するのが最善策だ。少なくとも少しは安全を確保できる。
何より、レナとリオンが仮のパートナーに過ぎないなら、ユエの「ボスはどちら?」という問いは、彼らの間に亀裂を生む可能性を秘めている。あるいは単なる軽い質問かもしれない。
しかし、ゲームと現実の両方で欺瞞に満ちたこの世界での前世の経験から、レナは無意識に警戒を続けていた。
ゆえに、ユエを仲間に加えるつもりはなかった。
「足手まといはごめんだ」
彼女はゆっくりとユエの前にしゃがみ込み、囁くように言った。「支援として武器を二丁と弾薬を渡そう。ただしこの支援はタダじゃない」
「このミッションを成功させたら、脱出後、報酬ゲームポイントの半分を要求する」
ユエは一瞬も考えずに頷いた。「ええ!全く問題ないございます!」
「では、まずはフレンド登録を」
レナがフレンドリクエストを送信すると、リュックから武器二丁とマガジン数個を取り出してユエに渡した。
「使い方を教える必要はないですよね?」
「ううん、自分で覚えるよ」ユエは空虚な笑いを漏らすと、レナが気を変える前に急いで拳銃をしまった。
「あなたみたいな善人には天のご加護がありますように!もう行ってもいいかな?」
「どうぞどうぞ」
ユエは背を向けると、すぐに全力で走り去った。
レナはしばらく彼女の後姿を立ち尽くして見つめ、その表情は読み取れないものだった。
神域で最初のゲームに彼女が現れるとは予想外だった。
もしレナが早期にリクルートできれば──たとえこの裏切り娘が後に牙をむくとしても──ユエは強力な戦力になる。初期投資は決して無駄にはならないだろう。
だが今ではない。
ユエはまだ神域に触れたばかり。ゲームのルールすら完全には理解していないはずだ。
同行させれば重荷になるだけ。リオン一人でも手一杯のレナに、もう一人加える余裕などない。ましてや彼女が優れた先生でもない。
さらに言えば、バタフライ効果は厄介だ。レナがユエの成長を妨げれば、他者の運命を別の道へ逸らす可能性もある。
特に今は。最初のミッションは全プレイヤーにとって極めて重要だ──他人の態度はどうあれ、このゲームへの没入度は大抵「初体験」で決まる。
最初のミッションはプレイヤーが最も脆弱な段階でもある:経験もなければ、サポートスキルもない。
ここで死亡し、70%の痛覚を味わったら…ゲームそのものを憎むかもしれない。能力がどれほど高くても、初期起動がなければ無意味だ。
せいぜいレナにできるのは、ユエの最初のクエストを手助けすることぐらい。その後までは面倒を見切れない。
今の主眼は自分とリオンの能力覚醒だ。それが達成できれば、残りは何とでもなるだろう。
◇
ユエの後姿を見送りながら、リオンはまだ混乱していた。「なぜあの子をパーティーに入れなかったんだ?」
レナは視線をそらし、イライラした口調で返した。「他の女の子を連れ歩きたいの?」
まるで一夜の情事の後に男に捨てられた若い女性そのものだった。
──特にこの件に関しては、その比喩が痛いほど当たっていた。何しろリオンは昨夜、レナの腕の中で眠り、しかも彼はかなり「甘えて」いたのだ。
一瞬にしてリオンは罪悪感に襲われた。「いや…その…俺は別に彼女とパーティーを組みたいわけじゃ…」
レナは突然笑みを戻した。「よしよし、冗談よ。まだ朝早いから、朝食を準備するね」
『この人ってば…』
「クスクス」
心の中で呆れながらも、レナのその笑い声を聞いたリオンはまたもや感動していた。彼はレナが自分が他の女性に興味を示さないことで安堵のため息をついたのだと勘違いした。
『朝食の準備…優しい…』
人生で初めて、目覚めた後に女性が朝食を作ってくれる経験をした。
『これが…天国の味というものか』
朝食は昨夜の残りの野獣の肉。レナは今日の分をいくらか取り分けて保存していた。特に美味というわけではないが、空腹を満たすには十分だった。
神域のクエストは今日が決着日。終了後は全てのデバフが解除される。今の少々の不快感は我慢できる。
朝食を終える頃、外は薄明かりに包まれていた。太陽はまだ昇らず、森は薄闇に沈んでいる。
ゲームの説明によれば、このクエストの舞台は「荒野サバイバルリアリティ番組(24時間限定)」。ならばクライマックスは正午過ぎになるはずだ。
標準的な流れに従えば、最終直前に最大の難関が現れる。今こそ決戦準備の時間である。
レナが目指すのは保護協会本部──敵狩りに向かうためだ。
無論、実働はリオンに任せるつもりだった。システムが明かしたミッション対象は彼に向けられているのだから。
そして狩りの話を聞けば、リオンは間違いなく興奮する。
これこそゲーム最大の見せ場! 森の銃撃戦は現実世界のヴァロラントより刺激的だ。昨夜から続く「生きている実感」の高揚感にさらに拍車がかかる。
が、その時──突然レナが彼を地面に押し倒した!
「ッ……!?」
レナの体の下に敷かれ、リオンは硬直する。
『なっ……?!』
『レナ何して……!?』
『押さえつける力が……強い……』
「あんたたち何やってんの!?」 女性の声がリオンの妄想を遮った。
反射的に振り向くと──ピンクのユニフォームを着た数人の女性が長銃を構え、藪から現れている。胸には大きな文字で《小肉球》とハートマークが刻まれていた。
不意打ちだったが、リオンは危機を察知した。馬鹿ではない。即座に状況を理解する──彼らが先に発見されたのだ。
レナは素早く体勢を反転させ、リオンの腰に跨りながら首を絞め上げた。
「野生のオスを見つけたんだよ!」
「こいつは私の獲物! お姉さんたちは他のを探してね!」 レナが叫ぶ。
リオン、石化。「…………」