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第12章 荒くれプレイヤー

 レナはこのシステムの正体を何度疑っただろう。

 文句も言わず、淡々と任務をこなす。「クエストの対象はリオンだけ? それとも私も?」


【ホストは元の身体の任務達成をアシスト可能です】


「……ふむ」肉を切り分けながら、ナイフの血を拭う。


 レナが顔を上げると、遠くに乾いた薪を抱えて歩くリオンの姿が見えた。『最後の質問』囁くように問う。「あんた、名前持ってる?」


【ゲーム内ステータスメニューの呼称もシステムの一部です。区別がない場合、システムとステータスメニューの混同リスクが生じます】

【システムに名称がない場合、ホストが命名可能です】


 突然、システムが応答した──


【システムコードネームは『スペースベースド』。ホストはこれでシステムを呼称して下さい】


「スペベ?」


【(눈‸눈) 訂正:スペースベースドです】


「スペベ、いい名前じゃん」


【( ̄へ  ̄ 凸) ……ホストには小学校の語学授業の再受講をお勧めします】


 レナは無視した。

 リオンが到着する。


「おかえり。どうしてそんなに大量に? 肉焼くのにこんな薪いらないよ」

 即座に立ち上がり、荷物を分担する姿は、夫の帰宅を迎える妻のようだった。


 リオンは苦労が報われた気がした。「大丈夫、残りは今夜の焚き火に使えるから……」

 笑みがこぼれる。


 レナは軽くリオンの肩を揉み、洞窟へ引っ張り込んだ。「座って休んで。肉焼くの私に任せて」


「いいよ、疲れてない。一緒にやろう」リオンが立ち上がろうとする。


 パン!

 レナは彼を座らせ直した。「大人しくして! 私の料理の腕前、採点してよ。前にも焼いたことあるんだから」


 レナはリオンに肉を焼かせるのが怖かった。

 調味料なしの野生肉は忍耐の試練──その素の味は喉を通らない。

 成否は肉質と火加減の均衡にかかっている。焦げすぎれば樹皮のような食感になるのだ。


 食べられないわけじゃないが、美味いに越したことはない。


 リオンの目には、このレナの行動が気遣いに映った。明るい笑みを浮かべ、「わかった、腕前に期待してるよ」

(美人が俺のために料理……)

(夢みたいな話だ)


 夕闇はすっかり夜に変わっていた。暗い森の奥で、彼らの焚き火が不自然に目立つ。通りかかる者があれば、必ず気づく明るさだ。

 幸い、洞窟が身を隠してくれた。


 だが、不運いつか来るなんて誰も知らない。


「動くな!手を上げろ!」

 闇の茂みから荒々しい声が飛んだ。紛れもない威嚇のトーンだ。


 振り向くと、二人の人影が視界に入る。

 炎の光がその顔を照らす──レナはすぐにプレイヤーだと認識した。


 両者とも拳銃を握りしめている。一人は巨大なリュックを背負い、中は物資で膨れ上がっていた。


「ヨーヨーヨー、楽しそうな宴だな」

 先ほど叫んだ男が嗤う。目端を効かせて周囲を見回し、レナが焼いていた肉に視線を止めた。

「おっ?食いもんがあるじゃねえか。おいコラ!交渉は無しだ──生きたいなら命令に従え!ここは俺たちの縄張りだ」


 レナが反応するより早く、リオンが彼女を遮るように前に出た。重い口調で言う。

「同じプレイヤーだろう。こんなことする必要あるのか?」


「何でないんだ?ここは協力ゲームじゃねえぞ、兄貴」

 男は嫌らしく笑った。「腹減ってんだ。食い物をよこせ、それで命は助けてやるかもな」


 その言葉と同時に、二人目の男がリオンの腰の銃に目を留める。

「お前も銃持ってやがる?いいぞ、置いて行け。持ってるだけ無駄だぜ」


 二丁の拳銃が確固としてリオンを狙う。敵意はもはや明白だった。


 リオンは仕方なく両手を上げ、二歩下がった。「そこまでしなくても──このゲームではプレイヤー同士で傷つけ合えないんじゃないか?ペナルティがあるだろ」

 諦め混じりの声でそう言うと、


 男が「反抗しようものなら──」と言いかけたその時、


 バン!バン!


 二発の銃声が夜を切り裂いた。二人の男は膝を折り、苦悶の叫びと共に言葉を遮られた。


 リオンが凍りつく。


 彼が理解するより早く、二人の男は光と共に消え──残されたのは銃と物資だけだった。


 リオンが驚いて振り向くと、炎の向こうでレナが構えを解いていた。彼女の手にある大型リボルバーから、ゆらりと煙が立ち上っている。


「フン、救いようのないバカども」

 レナが呟きながら銃を収め、立ち上がって服の埃を払う。薄く笑みを浮かべて言った。

「信じてあげるわ……さっき私を守ろうとした行動、なかなか英雄的だったわね、『ヒーロー様』?」


 内心ではリオンの対処法が甘いと呆れつつも──彼に戦う能力があるとは最初から期待していなかった。

 二人の侵入者を倒すのは彼女にとって容易い。だが近道が目の前にあるなら、拒む理由はない。


 リオンはまだ混乱していた。「プレイヤーを傷つけるとペナルティが……お前、大丈夫なのか?」

「ええ」

 レナは肉をひっくり返しながら頷いた。

「ペナルティは状況によるの。ガイドラインにきちんと書いてあるわ」

「残念なことに──多くのプレイヤーは最後まで規則を読まないのよね」


 彼女自身、かつてはそうだった。昔の癖:ゲームを適当に始め、ルールを無視し、プレイしながら学び、難しいメカニズムを何度も試す。

 普通のゲームならこれで通用した。数回プレイすればパターンがわかる。


 だがこのゲームは違う。

 ルールは複雑で、境界線は曖昧。完全に理解するには追加の労力が必要だ。

 しかし一度飲み込めば、このゲームの規則には逆に活用できる抜け穴が数多く潜んでいる。


 例えば、プレイヤー間の損傷判定は状況によって細分化される:


 第一に、主観的意識に基づき二つに分類:

 1. 能動的侵害 (Active Injury)

 2. 受動的防御 (Passive Defense)


 能動的侵害は理解しやすい:プレイヤー同士が戦闘中のダメージ。

 ペナルティは最重度──システムが加害者のクエストポイントを損傷レベルに応じて削除。死亡させた場合、『レッドネーム』メカニズムが発動する。


 プレイヤー殺害者は『レッドネーム』となる。ルール保護を喪失し、誰からも攻撃可能になる。レッドネームを倒せばゲームポイント報酬も得られるのだ。


 レッドネーム者は合理的範囲で自己防衛が可能。ただしプレイヤー殺害を重ねるとペナルティが累積する。三回以上? クエスト報酬はゼロに収束する。


 一方、受動的防御の基準はより複雑だ。核心は:プレイヤーが強奪・脅迫・他プレイヤーからの能動的攻撃に直面した場合──

 または

 自身の生命が他プレイヤーによって脅かされると合理的に判断できる特定状況下において、限定された反撃が許可される点だ。


 範囲の制御が必須──原則として殺害は許されない。

 とはいえ反撃であっても、プレイヤーには軽減済みペナルティが適用される。ただし耐容範囲内の低減値だ。


 その他、過失損傷といった特殊判定カテゴリも存在する。

 悪意なく他プレイヤーを負傷させた場合でも、状況に応じた異なる評価が下される。


 ルールは複雑だが、深く理解すれば逆に己の利益に利用できる。

『例えば今──私は二人を傷つけただけ』


 彼女は意図的にふくらはぎを狙った。銃撃の損傷レベルは軽くないが、致命傷からは程遠い。

 彼らが即座に消えた理由? ゲームからの緊急ログアウトだ。


『…ええ、クエスト中でもプレイヤーは退出可能。何せこの序盤には通常ゲームですから』


 痛覚70%で足を撃たれる体験が軽いわけがない。苦しみに耐えるより一時撤退が賢明だろう。


 これは彼女なりのウィンウィン──レナたちは物資を即入手し、あの二人は現実世界の快適さを享受できる。

 まさに完璧な解決策だ

( ̄ω ̄)ニヤリ


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