第11章 推奨手順
レナが見つけた場所は、確かに洞窟だった。内部は意外に広く、岩壁が外側に傾斜して雨水を自然に集める窪みを形成している。
ここは夜営地として理想的だ。
闇に潜む敵が現れた場合、洞口の生い茂った灌木や雑草が隠れ蓑となる。追い詰められた時には、脱出路としても機能する。
リスクはあるものの、広々とした平原で野宿するより遥かに安全だ。
休息場所を確保したら、次は夕食の準備だ。
マテリアルボックスにはサバイバル装備が揃っているが、食料は自力で調達しなければならない。
レナにとって、これは難しいことではなかった。以前の狩猟経験と装備の充実ぶりが功を奏し、素早く行動できた。ほんの少しの幸運――すぐに彼女は獲物(野生の山羊)を仕留めて戻ってきた。
後ろから付いて来たリオンの顔には、狩りの全過程を通じて困惑の色が濃く浮かんでいた。
『森林サバイバル』がミッションテーマと知った時、これは自分が活躍する番だと確信していた。
森林サバイバル番組を熱心に視聴し、軍事マニアとして今は実銃を手にしている。狩猟経験も豊富だ――その大半がゲームシミュレーションではあったが。獲物の急所に関する知識も持っている。
例えばヘッドショットは狩猟のタブー――一般の認識とは逆に、動物にとって心臓や肺への攻撃こそ致命傷となる。足跡追跡の技術だって学んだ。
どう見ても、これは自分のために用意された舞台であるはずだ。
だがレナが先に山羊の痕跡を発見した。レナが素早く獲物の動きを追跡した。リオンが銃を構える間もなく、レナが大口径拳銃を直感的に撃ち込んだのだ。
『ってことは……レナって、こんなに凄かったのか?』
レナはリオンの瞳に敗北感の渦を読み取った。彼が何を考えているか理解できた。
リオンは実力を披露したかった。しかしベテラン狩人であるレナの前では、太刀打ちできなかったのだ。
レナは彼の望みを理解していた――好意を寄せる女性の前でカッコよく見せたい、誰だってそうしたいだろう?
だが今はリオンが輝く時ではない。わずかな油断が命取りになりかねない。レナは手加減できなかった。
ただ……安全に彼が実力を示せる機会があれば、喜んで場を譲るつもりだ。
「リオン、この獲物を運ぶのを手伝って?」
レナは首をかしげて彼を見つめ、ほのかな微笑みを浮かべた。「それとも二人で運びする?」
「い、いや!一人で大丈夫だ!」
失望を押し殺すと、リオンは拳銃をホルスターに収め、獲物の死骸を担ぎ上げた。「まだ余裕だぜ――うっ!やべえ…」
彼が思ったより重い。
よろめく彼を見て、レナが心配そうに声をかける。「平気?一部分だけでも手伝おうか?」
「必要ない!」リオンはうめき声を押し殺し、無理やり背中に死骸を固定した。「行くぞ!こうやって担いだ方が楽だ!」
「……わかった」
『好きにしなさい。強がり屋め。どうしようもない頑固者』
幸い洞窟は近かった。特に問題もなく到着した。
到着後は薪集めと夕食の準備だ。
「リオン、周辺の枯れ枝を集めてきてくれる?私は肉の処理を」
レナはサバイバルナイフを取り出し、作業に取りかかろうとする。
「解体は俺に任せろ?」リオンが申し出た。「君は休んでていい」
「……血の匂いがする作業のよ?平気か?普通の女性は怖がるもののはすだ」
「問題ない。昔、お父様が海外に連れて行ってくれて、サバイバル技術を教わった」
「このナイフで野生山羊を処理するなんて、私にとって朝飯前」
レナは万能な"伝説の父"という方便を使いこなした。
リオンはうつむき、「……ああ、わかった」
彼はふと気づいた――レナは自分が想像していた女性像とは違うと。
最初は優雅で、使用人に大切にされるお嬢様だと思っていた。だが今や……どうやらそう単純ではないらしい。
リオンが離れたのを確認すると、レナは俯いてナイフを握りしめた。
貴族の令嬢としては不自然な行動だと自覚していた。だが"父"の存在が唯一の免罪符だ。父の伝説は彼女が用意した完璧なシナリオだった。
もしリオンが「依存型の甘えん坊彼女」を好むなら――
自分を「運命の人」と崇める可憐な少女像を望むなら――
レナも愛嬌を振りまくことはできる。だがその仮面を永遠に維持するのは不可能だ。
正直言って、"可憐なお姫様"タイプはこの過酷なゲームで生き残れない。
彼女たちは大抵「重荷」か「災いの誘因」、あるいはその両方になる。
終盤のフェーズで勝ち残るのは自力で戦える者だけだ。
最も信頼できる味方にさえ、命を預けるのは愚かである――
人格は信頼できても、その実力は保証できないのだ。
遅かれ早かれリオンはこの真実を理解する。彼の現実的な性格なら、
「戦力にならない要素」を側に置き続けるはずがない。
レナは今、自らの力を証明しなければならない――
後々、置き去りにされぬために。
もう一つの理由:彼女は新しい身体に適応する必要があった。
女性としての身体は、能力の限界を再定義することを強いる。
諺にある通り、逃げれば逃げるほど追い詰められる。
油断は許されない。安穏に慣れれば、
かつて死んだことのある者にとって――
技術は永遠に鈍るだろう。
だが……能力を全て見せつけるのも賢明ではない。幾つかは隠しておくべきかもしれない。
『……リオンはどんな女性を好むんだろう?』
正直、自分でも確信が持てなかった。
前世で恋愛経験はなかったが、彼はよく知っていた……
かつての自分は「弱い女」を嫌悪したが、「強すぎる女」も同様に拒絶する性質だということを。
「ふむ……」
【提案:ホストは元の身体との交配を提供可。元人格がホスト身体で欲求を満たせば、貴女を見捨てないでしょう】
「……」
【ゲーム内性行為は100%リアル再現!】
「つまり私の身体をリオンの性欲処理道具にしろと?」
レナが山羊の胴体を一刀で切断する音が、凍りついた空気を切り裂いた。
【(◞‸◟;)……お嬢様にふさわしくない汚い言葉です】
「だったらリオンの『扱い方』なんて提案するな。えっちなことなんて絶対にしない」
【なぜ拒否する?】
【交わりは人類最古の歓びでは?】
『それならお前のシステムをリオンの身体でクラッシュさせて、自らやってみれば?』
【( ̄‐ ̄)・・・不可能です】
「じゃあ黙れ!」
一呼吸置いて、レナは作業を再開した。「ところで、最初のクエストが始まってるんだろ?
何も表示する気ないのか?」
【……( ͡°_ʖ ͡°)】
>【クエスト加点:保護協会メンバー1人殺害ごとに+100P】
>【メインクエスト:サバイバルミッション完了で3000P】
>【特典:Sランク達成でガチャチケット】
三つの通知が同時表示され、レナは無言で睨みつけた。
「言わなきゃ永久に出さないつもりだったな?」
【w( ̄△ ̄;)w!……システムラグは自然現象です】




