第1章 少女への転生
ここは虚無の空間だ。
リオンの意識がその中に漂い、方向もなくぼんやりしていた。
「俺、死んだのか?」
間違いない。宇宙戦艦の主力艦砲を直撃されるなんて、生き残れるわけがない。
『でも、なぜ意識がある? これが死後の世界か?』
【システムロード99%...100%】
【システムロード完了】
【…】
【なぜホストは死んだ?】
「……」
混乱するのも無理はない。もし体が感じられたら、リオンは今、大声で笑い転げていただろう。
『何が俺を死なせたんだ?知りたいか?』
こちが聞きたいよ、この役立たずシステムは今まで一体何をしていたんだって。
システムの存在に驚きはしなかった。それは全てが始まる前から、ずっと彼の内に潜んでいたものだ。初めて手に入れた時、小説の主人公のように社会の頂点に立てると考え、希望に満ちて生きてきた。
残念ながら、ロード進度が99%で止まると、システムは永遠に凍りついた。何の変化も起きなかった。結局、彼は自力で頂点を極め、最終局面に立つことに成功した——しかし、守り抜くことはできなかった。
十億に近い魔族の攻撃の中、彼は自らの核兵器を宇宙戦艦の主砲射撃に向けて発射し、己も数十億の魔族もろとも空に散った。
今、死後に再び現れたこのシステム。彼はもうその存在を忘れかけていた。何しろ、今さら何の意味がある? 命は尽きた。蘇るはずがない。
【ホストの生命徴候停止を検知。第二計画を開始】
『は? 第二計画?』
【タイムリワインダーカウントダウン:3、2、1】
『待て、おれは——』
【スタート】
暗黒の空間が、突如眩い光に包まれた。まるで天国への扉が開いたかのように。
ゆっくりと意識が戻ってきた。最初に聞こえたのは、携帯電話の着信音だった。
突然、目が開いた。視界には見知らぬ天井が広がっていた。
【バックトラッキング成功。ホスト、おかえりなさい】
「・・・ちくしょう!」
『マジで戻してきたのか?!』
『それに、誰がまたゼロからやり直したいんだ?!』
『やっと責任から解放されたと思ったのに、同じ地獄を再体験しろってのか?!』
「こんな自虐行為が楽しいか?!」
しかし口を開いた瞬間、彼は凍りついた。
「なに・・・これ、俺の体じゃない」
その声は明らかに女性のもの──柔らかく澄んだ、彼が滅多に聞かない貴重な声質だった。肩にかかった長い髪がなければ、気づかなかったかもしれない。
ベッドから起き上がり、新しい体を見つめた。
ゆったりしたワンピースパジャマに包まれ、開いた襟元からは白い胸元がのぞく。春の光が差し込み、これが夢でないことを悟らせた。
ある場所がひどく物足りない。
無意識に下半身を触った。そこは空っぽだった。男として最も重要な部位が消えている。
「く…*ピー*」
【先の発言は罵倒語に該当します。少女はそのような言葉を使ってはいけません】
【今後、システムがホストの汚い言葉を検閲します】
システムの声が頭に響き、思考を断ち切った。
彼は一瞬沈黙し、やがて冷たい笑みを浮かべた。「この状況を説明してもらおうか?」
【タイムバック。前のプロセスを上書きできず、既存の順序を乱す新たな分岐を作るのみ】
「人間の言葉で説明しろ」
【システムはホストをこの時代の元の身体で戻せません。現在の身分は新規キャラクターです】
システムの説明と同時に、新しい身分情報が脳裏に流れ込んだ。
新たな名前はレナ・アイリスフィールド。スターゲイザー大学の花形。アイリスフィールドグループの令嬢。
「・・・」皮肉な慰めだった。女性になったことで、物質的には前世より優れた立場にいるのだ。
痛みを伴う安堵が彼を襲う。この身分にシステムの補助があれば、今回は生存競争を乗り切り、最終戦争前に倒されずに済むかもしれない。
【注意:システムの測定基準は依然としてホストの元の身体を参照しています。現在の身分はシステムに影響しません。強化には元の身体を見つけることを推奨します】
「はあ?」
【ホストはこの身分での活動では報酬ポイントを獲得できません。ただし元の身体はポイントを受け取れます。宿主様もその恩恵を得られます】
「・・・なに?!」
レナはしばらく呆然とした。「じゃあ、なぜ俺を蘇らせた?」
「お前が直接、元の身体に行って助けるのは無理なのか!?」
【このタイムラインでは、ホストの元の身体には既にシステムが存在し、ロード99%で停止しています】
「じゃあなぜ99%で止まった?!一切動かないのか?!」
【バグ】
レナは何かを殴りたくなる衝動に駆られた。「そんなお前の存在価値は何だ?!
「俺を弄んでるのか?!」
【システムは世界を救うためホストを補助するよう設計されています】
「世界を救う? 俺が世界を救うなら、誰が俺を救う?」
「お前は俺を女にした――補償しても、絶対に――」
【世界救済成功時には想像を超える報酬が与えられます。ホストの全ての犠牲は正当化されるでしょう。今すぐ元の身体を見つけてください】
「……」
レナはなおも疑っていた。「本当か? 嘘じゃないだろうな?」
【事実です。現時点でホストは最優先で元の身体と合流すべきです】
しばし考えた後、レナはシステムの提案通り元の身体の状況を確認することにした。
窓の外を見て、自分が確かに過去に戻ったことを悟った。
「・・・」女性として初めて服を着替える時の気持ちは・・・聞かないでくれ。本当に恥ずかしかった。
付記するが――今日はまさに『奇跡の日』だ。
昨夜明け方、全世界の人々が同時に病から癒された。末期がん患者さえ一夜で回復した。
原因不明のため、今日は奇跡の日と呼ばれる。多くの人が神の祝福と信じている。
だが誰一人、これが全球的災難の始まりだと気づいていない。
転生前、レナの名はリオン――スターゲイザー大学の学生だ。顔は悪くないが、頑固で融通が利かない。
結果、四年間彼女なし。授業以外の趣味はバスケと筋トレだけ。これ以上ない退屈な生活だった。
だから『かつての自分』を見つけるのは簡単だった。
バスケットコートで、レナは見覚えがあるのにどこか違うあの姿に少しも驚かなかった。
初めて第三者視点で自分自身を見る感覚は・・・奇妙だった。
『落ち着け・・・これは強化のためだ・・・』
『昔の自分を相手にするのは簡単なはず』
コート脇の自販機で水を買うと、彼はゆっくりと近づいた。
いくつかのコートではまだバスケの試合が続いていたが、突然誰かが叫んだ。「見ろ! 女神様が来たぞ!?」
一瞬で全てが凍りつき、視線が一点に集中した。
レナの表情は変わらない。十数組の視線を浴びながら、彼女はゆっくりと『過去のリオン』に歩み寄った。
差し出したペットボトルと共に、かすかな微笑みが浮かんだ。
「リオン、ちょっと話があるんだけど、時間ある?お散歩しよう。」