第4話 逃げた先にも、貴公子
私はただ静かに生きたかった。
それなのに、気づけば 王太子・騎士団長・商会長の三人から求婚され、どこへ行こうとしても逃がす気配がない。
……そんなの、私の求める自由とはちょっと違う!
◆◇◆
「ミレーユ、どこへ向かうつもりだ?」
馬車の窓を開けると、並走する黒馬の上で王太子エドワウが優雅に微笑んでいた。
——なぜついてくるのですか!?
「お、お一人で王宮にお戻りになられては?」
「それはできないな。君を妃にすると決めたからには、しっかり見届ける必要がある」
さらりと言い放つ王太子。
いやいや、見届けなくていいです! そもそも私は妃になるなんて言ってません!
「では、私はどうする?」
今度は反対側から 騎士団長ライナスの低い声が聞こえた。
漆黒の軍馬に乗り、頼れる大剣を背負う姿は、まさに「王国最強の騎士」の風格。
「お前は危なっかしい。だから俺が守る」
「いえ、私、もう追放されたので守られる必要も……」
「いや、必要だ」
「………………」
何、この圧倒的な強引さ。
「では、私は?」
今度は馬車の扉が優雅に開き、ふわりとした香りとともに 商会長セバスティアンが現れる。
赤い外套をひるがえしながら、にこやかに微笑んでいる。
「私は君に商才があると見込んでいる。君が自由を望むなら、私の商会で働かないか?」
「……!」
それは少し、心が揺れた。
確かに、私は財政管理や経営の知識がある。
でも、だからって——
「やっぱり、一人になりたいんです!」
私は御者に早く行くようにお願いする。
「ミレーユ!」
三人の声が重なる。
でも私は、誰にも捕まらない!
◆◇◆
馬車を走らせること数時間。
森を抜け、小さな町にたどり着いた私は、ようやく息をついた。
「……ふぅ、やっと静かに——」
「やぁ、ミレーユ嬢」
「え?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには 深い紺色のローブを纏った男性 が立っていた。
知的な微笑みと、銀縁の眼鏡。
「……ルーカス?」
彼はルーカス・グレイ。
ライナスの兄であり、王国の財務監査官を務める人物。
「まさか、こんな場所でお会いできるとは。偶然ですね」
「……絶対、偶然じゃないですよね?」
「ふふ、勘が鋭い」
ルーカスはクスクスと笑う。
「さて、私も君に興味があるのですが——」
「おい、ルーカス!」
森の奥から響く、怒気を含んだ声。
見れば、エドワウ・ライナス・セバスティアンの三人がこちらへ向かってきていた。
(……どうして追いついてくるんですか!?)
「これはこれは、皆さん揃って」
ルーカスは微笑むと、私に向き直る。
「さて、ミレーユ嬢。あなたの旅は、ここでどうなるのでしょうね?」
彼の瞳が意味深に光る。
……もしかして、私は さらに厄介な存在に捕まったのでは!?
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