第21話 新たなる自由
王宮を抜け出してから数時間。
馬車は闇夜を駆け抜け、私たちはようやく安全な距離を確保していた。
「ミレーユ、大丈夫か?」
ふと、アレクセイの声がした。
馬車の中、彼は私の隣に座り、優しく手を握っていた。
その体温は、確かに私を安心させるはずだった。
「ええ……」
「本当にそうか?」
彼の青い瞳が、静かに私を見つめる。
(——私の思い、アレクセイは気づいている?)
私が、まだ迷っていることを。
「王宮を出られたんだ。もう何も怖がることはない」
アレクセイは私の手をぎゅっと握りしめる。
「お前は自由だ。もうエドワウに囚われる必要はない」
(——本当にそうなの?)
私は唇を噛んだ。
確かに私は王宮の陰謀から抜け出した。
王妃に利用されることも、エドワウに囲われることもない。
でも……
(それなのに、どうして胸がこんなに締め付けられるの?)
「……ミレーユ」
アレクセイの声が優しく響く。
「もし、お前がまだエドワウのことを考えているのなら——」
「考えてないわ!」
思わず声を荒げた。
「……っ」
馬車の中が静まり返る。
ルイスが心配そうに私を見上げていた。
「……ごめんなさい」
私は息を整え、ゆっくりと続ける。
「ただ、急なことだったから……まだ、気持ちが整理できていないだけ」
「……そうか」
アレクセイはそれ以上は何も言わず、ただ私の手を優しく包み込んだ。
「お前の選んだ道を、俺は尊重する」
その言葉が どこまでも優しすぎて、逆に苦しくなった。
◆◇◆
夜が明けるころ、馬車は小さな町に辿り着いた。
「ここならしばらく身を隠せる」
アレクセイが用意していた宿に入ると、私はようやく息をつく。
「疲れたろう、少し休め」
彼はそう言うと、私をベッドへ座らせた。
「ええ……ありがとう」
ルイスはすでに隣の部屋で寝息を立てている。
私はふと、窓から外を見つめた。
(本当に……これでよかったの?)
その瞬間——
「——ようやく見つけたぞ、ミレーユ」
——心臓が止まりそうになった。
「っ……!?」
声の方向を振り向くと、そこには……
エドワウ・トールギスがいた。
「……どうして、ここが?」
私は震える声で尋ねた。
エドワウは、窓際の影から静かに現れ、 まっすぐに私を見つめる。
「お前がどこにいようと、俺が見つけ出すのは当然だろう」
彼の瞳は、夜明けの光を受けて、まるで黄金の炎のように輝いていた。
「エドワウ……」
私が名前を呼ぶと、彼は私の頬をそっと撫でた。
「……お前は、俺のものだ」
低く囁かれた瞬間——
私は全身に鳥肌が立つほどの緊張を覚えた。
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