第20話 逃亡の果てに待つもの
私は震える手でルイスの手を強く握りしめた。
「姉さま……!」
ルイスが、不安げに私を見上げる。
私は 迷ってはいけない。
「行くわ」
そう呟くと、私は振り返ることなく走り続けた。
◆◇◆
東の庭園を抜けると、そこには崩れかけた石壁があった。
「ここから外へ出る」
アレクセイが先に飛び越え、手を差し出す。
「ミレーユ、こっちへ!」
「ルイス、先に行って!」
私は弟を抱え上げ、アレクセイの腕へと預ける。
彼は軽々と受け止めると、そのまま地面へ降ろした。
「姉さま!」
「大丈夫、すぐ行くわ!」
私は石壁に手をかけ、必死に登る。
けれど、その瞬間——
「……っ!?」
背後から、ぞわりと肌が粟立つような鋭い気配を感じた。
「お前は……どこへ行くつもりだ?」
——エドワウ・トールギス。
私は、凍りついたように振り返る。
彼の軍服は乱れ、瞳には静かな怒りと執着を滲ませていた。
剣を握る手には血が滲んでいる。
「エドワウ……!」
「お前は、私から逃げられると思っているのか?」
彼が一歩踏み出す。
その気迫に、思わず息が詰まる。
「……行かせて」
私は震える声で言った。
「私は、私の意志でここを出るの」
「許さない」
彼は ためらいなく言い切った。
「ミレーユ、お前はどこへ逃げても、最終的には私のもとへ戻る」
「……!」
その言葉が、なぜか胸の奥をかき乱す。
怖いはずなのに、心臓がひどく跳ねる。
(どうして……?)
彼は、ただ私を支配したいだけじゃないの?
「ミレーユ!」
アレクセイが 私の腕を掴み、引き寄せた。
「こっちへ!」
「……っ!」
私は最後の力を振り絞り、石壁を越えた。
——その瞬間、 エドワウの腕が私の足を掴もうと伸びてきた。
「っ……!!」
ギリギリのところで私は飛び降り、アレクセイに支えられる。
「行くぞ!」
アレクセイが私とルイスの手を引き、全速力で駆け出した。
背後では、エドワウの低い声が響く。
「必ず、連れ戻す」
◆◇◆
王宮の外に出ると、馬車が用意されていた。
「急げ!」
アレクセイが扉を開け、私とルイスを乗せる。
彼もすぐに飛び乗り、御者に合図を送った。
「出せ!」
馬が勢いよく走り出す。
私は窓から後ろを振り返る。
王宮が遠ざかっていく。
そこには、なおも私を見つめるエドワウの姿があった。
「……ミレーユ」
アレクセイが、私の手を優しく包み込む。
「お前は、自由だ」
「……本当に?」
私は、胸の奥の奇妙なざわめきを振り払おうとする。
(私は本当に、自由を手に入れたの?)
けれど、エドワウの最後の言葉が脳裏から離れなかった。
——必ず、連れ戻す。
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