第16話 自由になりたいだけ
エドワウの金色の瞳が、私を見つめる。
強引に腕を掴まれたまま、私は息を呑んだ。
一方で、牢の中のアレクセイは、鉄格子越しに私を見つめていた。
「ミレーユ、お前が本当に自由になりたいなら、俺と来い」
伸ばされた手。
閉ざされた檻の中にいる彼のほうが、私には自由に見えた。
——私は、どうすればいいの?
「ミレーユ、答えろ」
エドワウの声が低く響く。
「お前は王宮に残るのか? それとも——」
「それとも?」
私は、震える声で問いかけた。
エドワウの指が、私の頬を撫でる。
その仕草は優雅で、どこか支配的だった。
「逃げるのか?」
彼の唇が、私の耳元に触れそうな距離まで近づく。
「……っ!」
心臓が、大きく跳ねた。
「ミレーユ、今ならまだ間に合う」
アレクセイの声が、鉄格子の向こうから響く。
「お前がここに残れば、間違いなく陰謀に巻き込まれることになる」
「陰謀?」
私が問い返すと、アレクセイは静かに頷いた。
「俺は、ある情報を掴んだ」
彼は一度言葉を切り、ゆっくりと続けた。
「お前を王宮に迎え入れるのは、エドワウの意思だけじゃない」
「……?」
「裏で動いているのは、王妃だ」
王妃——エドワウの母親?
「どういうこと?」
私が戸惑いながら聞くと、アレクセイは険しい表情を浮かべる。
「王妃は、王宮内での権力をさらに強めようとしている」
「それが、私と何の関係が?」
「お前を、王太子の妃として育て上げることで、王宮内での影響力をさらに増すつもりなのさ」
「……っ」
私は思わず、エドワウの顔を見上げる。
「それは、本当なの?」
彼は表情を崩さず、淡々と答える。
「母上がそう考えていたとしても、関係ない」
「関係ない?」
「私が、お前を選んだ。それだけだ」
彼の言葉は迷いがなく、確信に満ちていた。
「……それでも、私は」
自由になりたかった。
誰かの手の中で操られる人生は、もうごめんだ。
「ミレーユ、お前が王宮を出ると言うなら……俺は手を貸す」
アレクセイの青い瞳が、私を見つめる。
「一緒にここを抜け出そう」
その言葉が、心を大きく揺らした。
「……俺の許可なく、ミレーユを連れ出せると思うな」
エドワウが低く呟く。
その瞬間、彼の手が私の腰を引き寄せた。
「っ!?」
「お前は、私のもとにいればいい」
エドワウの腕の中に閉じ込められ、息が詰まりそうになる。
「ミレーユ、お前はどちらを選ぶ? 」
アレクセイの手。
エドワウの腕。
——そして私は、決断しなければならなかった。
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