第14話 ごたごたに巻き込まれる
「ミレーユは、もう俺のものだ」
エドワウが私の手を強く引き、鋭い視線をライナスに向ける。
対するライナスも、まったく怯むことなくエドワウを睨み返していた。
——空気が張りつめている。
「……お前のものかどうかは、ミレーユが決めることだ」
「黙れ」
エドワウが低く呟いた瞬間、彼の腕が私の肩をぐっと引き寄せる。
「っ……!」
突然の距離の近さに、思わず息をのむ。
金色の瞳が真っ直ぐに私だけを射抜いていた。
「ミレーユ、お前は私の妃候補だ。他の男に触れられるのを見過ごすわけにはいかない」
「そ、それは……」
言葉を探す私の唇に、彼の指がそっと触れた。
「……お前は、誰のものになりたい?」
耳元で囁かれるその言葉に、心臓が大きく跳ねる。
「……決めるのはミレーユだと言ったはずだ」
ライナスの声が、いつもより低く響いた。
彼はゆっくりと私の腕を掴み、エドワウの手から引き離す。
「俺は……お前が誰のものでもなく、自由でいてほしい」
——その言葉が、一番心に刺さる。
私は誰のものでもない。
誰かに決められるのではなく、自分の未来は自分で選びたい。
「……私は……」
私が思いを言いかけた、そのとき。
「ミレーユ様? 王太子殿下?」
——不意に、扉の向こうから女の声がした。
この声は……レティシア・フォン・ルヴァン。
私は嫌な予感を覚えながら、ゆっくりと扉を開ける。
「……どうされましたか?」
「少し、お話がありまして」
レティシアはにこやかに微笑むと、ちらりとライナスとエドワウを見た。
「随分と お二人に愛されている のですね」
「………………」
「ですが……いつまでも妃候補の立場にいられると思わないことですわ」
その言葉に、私は思わず息をのむ。
——何か、仕掛けてくる?
「どういう意味?」
私が問いかけると、レティシアはゆっくりと微笑んだ。
「明日の夜、王宮で特別な晩餐会が開かれますわ。そこに、あるお客様がいらっしゃるのです」
「……お客様?」
「ええ。それは——」
レティシアは扇を閉じ、はっきりと言う。
「王太子殿下の"元"婚約者ですわ」
——その瞬間、部屋の空気が一変した。
「……どういうこと?」
私が静かに問いかけると、エドワウの表情がわずかに曇る。
「……王族の政略結婚は、珍しくない」
「でも…… 元婚約者って?」
「正式には婚約破棄しているが……まだ、向こうの家は諦めていないらしい」
エドワウの表情が、少し険しくなる。
「お前が妃候補になったことで、向こうも動き出したのだろう」
「つまり、私は邪魔者になった……?」
私が言うと、レティシアは嬉しそうに微笑んだ。
「さすがね、ミレーユ様。賢いわ」
——つまり、私は この王宮にいられなくなる可能性がある。
「お前が妃候補の座にいる限り、 敵は増え続ける だろう」
エドワウが静かに言った。
「だからこそ、私はお前を守る」
彼は私の手を取り、指先を絡める。
「何があっても、お前を手放すつもりはない」
「……エドワウ」
「だが、ミレーユ」
ライナスが、ゆっくりと私の肩に手を置いた。
「今なら……ここを出る選択肢もある」
「……!」
「お前が王宮に残るなら、間違いなく宮廷の陰謀に巻き込まれることになる」
ライナスの言葉に、私は唇を噛んだ。
選ばなければならない。
このまま王宮に残るのか。
それともここから逃げるのか。
けれど——。
「私は……」
そう言いかけた瞬間——ゴンッ!
「え?」
突然、扉が乱暴に叩かれる音が響いた。
「……何だ?」
エドワウが怪訝そうに扉を開けた瞬間、外から王宮の兵士が駆け込んできた。
「エドワウ殿下! 重大な報告がございます!」
「何があった?」
「王宮の地下倉庫で侵入者が捕まりました!」
「……何?」
「そして…… 捕まった者は、ミレーユ・アシュフォードの名前を!」
——私の名前!?
「どういうこと……?」
私は、急に冷たい汗が背筋を伝うのを感じた。
私を狙う何者かが、すでに王宮へ入り込んでいる?
「……ミレーユ、今夜はまだ終わらなさそうだ」
エドワウが低く呟く。
「俺のものになるかどうかは、もう関係ない」
彼はゆっくりと私を抱き寄せ、 耳元で囁く。
「お前はもう王宮の一員になっているんだよ」
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