第13話 舞踏会の中心
王宮の大広間は、まばゆい光に満ちていた。
シャンデリアの揺れる灯火が、床の大理石に反射し、貴族たちの華やかな衣装をさらに引き立てている。
舞踏会の中心には、優雅に踊る男女の姿——けれど、今夜の主役は私だった。
そう、私は王太子の妃候補として、今ここにいる。
でも、本当に私は彼に相応しい存在なのだろうか?
「ミレーユ、踊るぞ」
エドワウが手を差し出す。
深紅の軍服をまとった彼の姿はどこまでも気高く、美しい。
けれど、その瞳の奥には、 隠しようのない独占欲 が滲んでいた。
「……仕方ありませんね」
私はため息をつきながら、そっと彼の手を取る。
次の瞬間——ぐいっと強く引かれ、私は彼の腕の中へと閉じ込められた。
「っ!」
「相変わらず、反応が可愛いな」
彼の声が、すぐ耳元で響く。
「そんなに力強く引っ張らなくても、逃げたりしませんよ」
「それはどうかな?」
エドワウは微笑むと、私の腰に手を回し、ゆっくりとステップを踏み始める。
——けれど、それはあまりにも密着しすぎでは!?
「ち、近すぎます!」
「当然だ。お前は私の妃になる女なのだから」
「……まだ決めたわけではありません」
私はじっと彼を見上げて言う。
けれど、エドワウはあくまで余裕の笑みを崩さなかった。
「決めるのは、お前ではなく私だ」
「……!」
この人は、どこまでも強引で、自信家で——。
だけど、それがどこか心を揺さぶるのだから、ずるい。
◆◇◆
「……ふぅん。なかなか息の合ったダンスじゃない?」
舞踏曲が終わった瞬間、冷たい声が割って入った。
振り向くと、緋色のドレスを纏ったレティシア・フォン・ルヴァンが、扇をひらひらと仰いでいる。
「殿下、私とも一曲踊ってくださらない?」
「今夜の主役はミレーユだ。遠慮しておく」
「まあ、つれないわね」
レティシアは微笑んだまま、今度は私に視線を向ける。
「ところで、ミレーユ様」
「……何でしょう?」
「妃候補としてこの王宮で生き抜く覚悟はおあり?」
彼女の言葉に、私は瞬時に警戒した。
——これは、ただの嫌味ではない。
何かの意図がある。
「覚悟なら、ありますよ」
私は真っ直ぐに答えた。
「それなら……この舞踏会の後もあなたがその言葉を貫けるかどうか、楽しみにしていますわ」
レティシアの意味深な笑みが、 私の中に不穏な予感を刻む。
◆◇◆
その夜、舞踏会が終わり、私は王宮の客間に戻っていた。
窓から見える庭園は静かで、花の香りがわずかに漂っている。
けれど、私はなぜか落ち着かなかった。
「……何か、起こる」
そんな予感がした。
すると——コンコンと、扉をノックする音がする。
「どなたですか?」
「私だ」
聞き覚えのある低い声。
扉を開けると、そこにはライナスが立っていた。
「ライナス?」
「少し話せるか?」
「……ええ」
彼を部屋に招き入れると、ライナスは短く息を吐いた。
「お前、このまま王宮に残るつもりか?」
「……そうね」
私は静かに答える。
「私は、自分の未来を見極めたいの」
ライナスは私をじっと見つめると、ゆっくりと私の頬に手を添えた。
「……っ!?」
「ミレーユ、お前がどこへ行こうと、誰を選ぼうと……」
彼の声が低く響く。
「俺は お前を手放すつもりはない」
「……ライナス?」
彼の指先が、そっと私の唇に触れそうになった瞬間——。
「——入るぞ」
扉が強引に開かれる。
「っ!!?」
「おい、ライナス。貴様、何をしている?」
エドワウが、冷え切った目で立っていた。
「……ミレーユと話していただけだ」
ライナスは動じることなく答えるが、エドワウは明らかに怒りを滲ませていた。
「……ミレーユは、私の妃候補だ。不用意に触れるな」
「お前が決めることじゃない」
ライナスはゆっくりと立ち上がり、私を庇うように前に出る。
二人の間に走る、 明らかな火花。
「……お前は、まだ分かっていないようだな」
エドワウがゆっくりと歩み寄り、 私の手を取る。
「ミレーユは、もう俺のものだ」
「っ!」
「王宮で他の男の手に触れられるなど、許すわけがない」
——これは、宣戦布告だ。
私は、これからどうすればいいの……?
エドワウとライナスの睨み合いを前に、 私の心臓は激しく鼓動していた——。
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