表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ライブ感】地味令嬢、無能扱いされたので自由に生きます。【イケメン】  作者: 雪見クレープ
第1部 地味令嬢、無能扱いされたので自由に生きます。
12/22

第12話 王宮の陰謀と舞踏会

 王宮の門が見えてきたとき、私は無意識に息をのんだ。


 豪奢な白亜の城壁が陽光を反射し、どこまでも荘厳な雰囲気を醸し出している。

 ここが、王太子の妃候補として迎えられる場所だという現実が、今さらながらに胸へ重くのしかかる。


(私は、本当にここへ来るべきだったの……?)


 そんな迷いがよぎった瞬間——。


「遅かったな、ミレーユ」


 馬車の扉を開けたエドワウが、金色の瞳を細めて私を見つめた。


「王宮は初めてか?」

「……ええ」


 私が馬車から降り立つと、エドワウは当たり前のように私の腰を引き寄せた。


「っ!? ちょ、ちょっと!」

「お前はこれから王太子の妃候補としてここに住むのだ。そういう態度を取られるのも慣れておけ」

「慣れたくありません……!」

「そうか?」


 彼は楽しそうに私の耳元で囁く。


「私のものになるという自覚を持つべきだ」

「……っ!」


 もう、言葉が出ない。


 近すぎる距離、甘い囁き、そして王太子としての絶対的な自信に、息苦しさすら感じる。


 ——私は、本当にこの人の隣に立つべきなの?


 ◆◇◆


 王宮に入ると、豪華なシャンデリアが輝き、大理石の床がひんやりと冷たかった。


 けれど、それ以上に冷たい視線が私に向けられているのを感じる。


「……ふぅん」


 通路の奥から聞こえたのは、鈴の音のように軽やかな声。

 振り向くと、緋色のドレスを纏った一人の令嬢が、こちらを見下ろしていた。


「あなたが、王太子殿下の新しい玩具かしら?」

「っ……!」

「おい」


 エドワウが一歩前へ出る。


「言葉を慎め、レティシア」


「まあまあ、殿下。これはただのご挨拶よ?」


 レティシアと呼ばれたその令嬢は、にこやかに微笑んでいる。

 けれど、その瞳は氷のように冷たかった。


「私、レティシア・フォン・ルヴァン。王宮の社交界を取り仕切る侯爵令嬢です」


「……ミレーユ・アシュフォードです」


 私が簡潔に名乗ると、彼女はおかしそうに笑った。


「アシュフォード……ああ、あの没落しかけの家ね?」

「……!」

「大変ねぇ。妃候補にならなかったら、あなた今ごろ路頭に迷ってたんじゃない?」


 ——分かりやすい嫌味。


「レティシア、もういい」


 エドワウが低く言う。


「ミレーユは私が選んだ女だ。貴様が何を言おうと関係ない」


 その言葉に、レティシアの笑みが一瞬消えた。

 そして、すぐに取り繕うように微笑む。


「……そう、殿下が選んだ女、ね」


 レティシアの視線が、何かを見透かすように私を見つめた。


「では、せいぜいこの王宮で生き残れるように頑張ることね?」


 彼女の言葉に、私はただ黙っていた。


 ——私の前途が、決して平坦ではないことを悟りながら。


 ◆◇◆


 その夜、王宮では舞踏会が開かれることになっていた。


「王太子の妃候補が王宮に迎えられたのだから、正式なお披露目が必要だ」


 そうエドワウが言い、急遽決まったのだ。


「準備はできたか?」


 私の控え室に現れたのは、ライナスだった。


 彼の瞳が、静かに私を見つめる。


「……お前、無理していないか?」

「ライナス……」


 彼の言葉に、心が少し揺れる。


「私は……大丈夫」

「本当に?」


 彼はゆっくりと私の手を取った。


「お前が望まないなら、今すぐここから連れ出すこともできる」

「っ!」

「ミレーユ、お前が選ぶ道がどんなものであれ、俺はお前を守る」


 彼の低く優しい声が、胸の奥を震わせる。


「だから……無理するな」

「……ありがとう」


 ライナスの手の温もりが、そっと私の指を包み込む。

 その安心感に、涙がこぼれそうになった。


 けれど、その瞬間——。


「随分と仲が良さそうだな?」


 エドワウが、扉の前に立っていた。


 金色の瞳が、鋭く光る。


「……俺の妃候補に、 手を出すつもりか? 」


 ライナスが、ゆっくりと手を離す。


「違う。ただ、ミレーユの選択を尊重するだけだ」

「ふん」


 エドワウは冷笑し、私の手を 強引に引いた。


「ミレーユは“私と踊る”んだ。余計な手出しは無用だ」

「っ!」


 彼の腕の中に引き寄せられ、体温が急に近づく。


「お前は、もう私のものなのだからな」


 心臓が、ひどく跳ねる。


 エドワウの腕の中で、私はこの王宮で何が待っているのかを、改めて思い知らされた——。

読んでいただきありがとうございます!


この作品が面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ