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【ライブ感】地味令嬢、無能扱いされたので自由に生きます。【イケメン】  作者: 雪見クレープ
第1部 地味令嬢、無能扱いされたので自由に生きます。
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第10話 弟を救え、家族の真実

 まだ幼い弟が、涙を浮かべながら私のドレスの裾を掴んでいる。


 ——カトリーナと父が、ルイスをどこかにやろうとしている?


「……ルイス、落ち着いて。何があったの?」


 私はしゃがみ込み、弟の肩を優しく抱く。

 彼の小さな体が震えているのを感じ、胸が締めつけられた。


「父上と姉上が、ぼくをどこかの貴族の家に送るって……!」


 ルイスは必死に言葉を紡ぐ。


「ぼく、いやだ! 姉さま、助けて!」


「……っ」


 ルイスはまだ10歳にも満たない子どもだ。

 父とカトリーナがそんな彼をどこかへ送り込もうとしているというのなら、それは養子縁組か、もっと別の取引か——。


「……まさか、借金の肩代わり?」


 私が低く呟くと、父の顔が一瞬引きつった。


「ミレーユ、余計な詮索は——」

「やはり、そうなのですね」


 ルーカス・グレイが冷静に言い放つ。


「アシュフォード家が負った借金の相手が、貴族の家ならば……養子を差し出すことで債務を帳消しにする。これはよくある手法ですね」

「っ……!」


 父はルーカスを睨みつけるが、彼は余裕の笑みを浮かべたままだった。


「……ルイスを、どこにやるつもりなの?」


 私は、真正面から父を見据えた。


「そ、それは……」


 言葉を詰まらせる父を尻目に、カトリーナが優雅に微笑む。


「ミレーユ、誤解しないで。ルイスの未来のためよ?」


「嘘をつかないで」


 私はぴしゃりと言い切った。


「これは未来のためじゃない。ただの家の都合でしょう?」

「そんな言い方しなくてもいいじゃない?」


 カトリーナは肩をすくめるが、唇の端がわずかに引きつっている。


「ルイスはまだ子どもよ。それに、ちゃんとした貴族の家に行けば、今よりも良い暮らしが——」

「そんなの、ルイスが望んでいない!」


 私は怒りを抑えられなかった。


「彼の未来を決める権利は、あなたにはない!」

「ミレーユ、いい加減に——」

「黙りなさい、父上!」


 私は 初めて、父に向かって怒鳴った。


 父が驚いたように目を見開く。

 カトリーナもまた、私がこんなに強く反論するとは思っていなかったのか、唇を噛んでいる。


「さて」


 低く、けれど圧倒的な存在感を持つ声が響いた。

 エドワウが私の後ろから一歩前へ出る。


「ルイス・アシュフォードは私が保護する」

「……は?」


 父とカトリーナが同時に顔を上げる。


「な、何をおっしゃいますか、王太子閣下?」

「私は、妃候補の家族を見捨てるような男ではない」


 エドワウは静かに微笑みながらも、目はまったく笑っていなかった。


「ルイスを無理やり他家へ養子に出すというなら、私はそれを王家への敵対行為とみなす」

「っ……!」


 父の顔から、みるみる血の気が引いていく。


「そんな、王太子殿下にそこまでのご配慮をいただくなんて……!」

「ミレーユの弟だからな。彼もまた私の庇護下にあるということを忘れるな」


 エドワウはルイスの頭に手を乗せ、優しく撫でた。


「ルイス、お前はどこにも行かなくていい」

「……!」


 弟の大きな瞳に、涙が浮かぶ。


「ミレーユと一緒に生きる道を選べ」

「……っ、ありがとう……王太子さま」


 ルイスがかすれた声でそう言った瞬間——


「……納得できないわ」


 カトリーナが低く呟いた。

 その瞳には、はっきりとした敵意が浮かんでいる。


「あなたがいなければ、家はもっと上手く回っていたのに」


 カトリーナの声が、 まるで呪詛のように冷たかった。


「ミレーユ、あなたが全部、壊したのよ」


 ——ああ、やはり、私たちはもう姉妹ではないのだ。


 私は、ゆっくりと目を閉じた。


「……それでもいい」

「え?」

「私は、自分の意志で道を選ぶ。もう誰にも支配されない」


 カトリーナが目を見開く。


「あなたたちは、私を利用しようとした。でも、もう私は誰のものでもない」


 ——私は、自由を取り戻す。


「ルイスを連れて、ここを出ます」


 その言葉に、屋敷の空気が完全に凍りついた。


「……さて、お前の反論は?」


 ライナスが鋭い声を落とす。


「カトリーナ、お前にルイスを引き渡す権利はない」

「……っ」


 カトリーナの美しい顔が、悔しそうに歪む。


「ミレーユ……あなた、いつの間にこんなに強くなったの?」

「それは、あなたが私を追い出してくれたからよ」


 私は静かに微笑んだ。


「もう、この家に未練はない」


 ルイスの手を握ると、彼はぎゅっと握り返した。


「姉さま……」

「一緒に行こう、ルイス」


 父もカトリーナも、何も言えない。


 私は、ルイスとともにアシュフォード家を去った。


 もう二度と、この屋敷へ戻ることはない。


 だけど——


 エドワウが私の隣で低く笑った。


「ミレーユ、お前は 私のものだということを忘れるな」

「……っ!」


 この自由は、もしかすると新たな束縛の始まりかもしれない。

読んでいただきありがとうございます!


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今後ともよろしくお願いします。

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