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【第一章】『第七話』魔女にルージュは似合わない


「入るよ。ごめんね驚かせてしまって。てっきりまで眠っているかと思ったから」

「あっ貴方は・・・」

「私はグレミオン王家、第一王子のローリオ・グレミオン」

「わっ私はクレアと申しますっ」

「昨夜は弟のジェラルダが乱暴な真似をしてすまなかった。どこか痛むところはない?」


 そこには村で見かけたあのローリオ王子の姿があった。ただの村の魔女に優しい口調でかける労う言葉に戸惑うばかりだった。緊張のあまり頷くので精一杯だった。『それなら良かった』と微笑みを向けられ生まれて初めて見惚れてしまっていた。こんな窮地に追いやられているというのに。

 近くで拝見するローリオ王子の存在は村で見かけたとき以上に光彩を放っていた。甘く端正な顔立ちが村の女性たちを虜にしてしまうのも頷ける。

 あのときは誰を見ているのかわからなかったけど、今ははっきりと私を見ている。見つめられるだけで全身に熱が回っていきそうになる。ローリオ王子の存在は私の黒く塗りつぶされた心に明かりを灯してくれていた。


「もうすぐ君の処遇について父から詳しい話がある。その前に朝食を取って支度を済ませておいて欲しい後でメイドが来るから」

「父・・・って、まさか国王陛下から直々に!?あ、あの私は」


 微かに差し込んだ光はすぐに閉ざされた。どうせ殺されるのなら一思いにこの場で殺して欲しい。喉元にナイフを突き付けられたようなままで悠長に朝食なんてとれるわけがない。

 ローリオ王子の腰にある剣に目が止まった。無礼な行為だと承知の上でローリオ王子の剣を引き抜こうとした。しかし思ったように動かない。簡単に阻止されてしまった。

 小刻みに震える私の手の上にローリオ王子がそっと重ねた。上物の白いグローブ越しに人の温もりを感じた。呼吸が浅くなり肩で息をしていると、ローリオ王子は私の背中をさすりながら『大丈夫』と何度か告げた。


「大丈夫。君は殺されはしない。大丈夫だから落ち着いて」

「・・・殺され・・・ない?」

「あぁ。それに君の家族も無事だから安心して」

「そっそれは本当ですか」

「本当さ。全くジェラルダの奴本当に何も伝えずに君を連れて来たんだな。それに死刑対象ならこんな優遇されないさ。・・・ただ、もう村には戻れない。君にはここで暮らしてもらうことになる」

「家に帰れない?それは家族にも会えないということでしょうか」

「そういうことになるね。ここでの生活に慣れるまで不便なこともあるかと思うけれどなにか困ったことがあればメイドや執事に気兼ねなく言ってくれ」


 死刑は免れた・・・?どうして。黒魔術は死罪にあたいするはずじゃ。でもローリオ王子が嘘をついているとは思えない。現にこんな立派な部屋まで宛がわれている。私は本当にここで暮らすの?お母さん、おばあちゃん、アルミス・・・。

 呼吸が元に戻って来るとローリオ王子の手が離れて行く。するとまたなにかに気付いたように首筋に手が伸びてきた。


「ここ、傷になっているね。痛みはない?」


 ローリオ王子が私のチョコレート色の髪を指ですくった。澄み切った空のようなシアンカラーの瞳が真っすぐに落ちる中で髪をゆっくりと背中へ流していく。触れている距離の近さに身体が意識を始めて心臓の奥がぎゅっと握られるような痛みに似た感覚が宿った。でも不思議と嫌ではない。むしろその痛みの奥に甘ささえ感じて妙に心地が良い。傷なんてたいしたことない。痛みはないと伝えようとしたのに、鼓動が鳴る度に溢れる甘い蜜のような感情がそれを阻んだ。この感覚は一体何?


「ヒュ~相変わらず手が早いなぁ~お兄様は」

「ジェラルダ」


 開いていたドアから軽快な口笛と声が入ってきた。そこには狡猾な笑みを見せ、こちらを物色しながら一人の男が立っていた。その人物に静まっていた波紋が大きな波をたてた。昨日お母さんを撃った男ジェラルダ王子だった。中へ入って来るとまるで品定めするように私の姿をつま先から頭のてっぺんまで見た。この人は王子と言えど自分の想い通りにならないとどんな手段を使ってでも成し遂げようとする。人が傷ついてもどうも思わないんだわ・・・。


「これが長年俺たち王家が探していた龍の左目を持つ魔女ね~もっとナイスバディのお姉さまが良かったもんだ。そっちの方が楽しめるだろう」

「ジェラルダ」

「俺は第二王子ジェラルダ・グレミオンだ。覚えとけよ」

「そんな言い方ないだろう。ほら、恐がっているじゃないか」

「俺は兄貴とは違うんだよ。魔女に下手に出ると喉元喰いちぎられるぜ。俺は昨日コイツの黒魔術を見たが・・・肝が冷えるほどの怪奇だった」

「私は・・・そんな」

「クッハハハなんだよ。あんなの普通の魔女じゃできやしねぇ。バケモノだろうが。・・・んぁ?なんか言いてーのか」


 悪びれた様子もない仕草に怒りが更に込み上げてくる。私はジェラルダ王子の発言に唇を噛み締めながら顔を背けた。それが気に食わなかったのか、ジェラルダ王子は私の顎を掴み無理矢理に顔を上げさせた。


「んぅっ」

「言いたいことがあるなら言えよ。バケモン」


 ジェラルダ王子の腕に包帯が巻かれているのに気がついた。『バケモノ』と言われた言葉。ジェラルダ王子の手を払いのけたことをようやく思い出した。

 あんなこと今までなかった。黒魔術は生を戻す禁忌だと思っていた。でも昨日のあれはなに・・・?ジェラルダ王子はわざとらしく眉間にシワが刻むと『たかが魔女風情が生意気な顔をするな』唾を吐くように言い放つ。   

 そして顎を掴んでいた手を強め顔を固定すると突然、唇をふさがれた。その冷たい唇の感触に身体が凍りついた。

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