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【第一章】『第六話』そのカリギュラは裁きを待つ

 自分の中にある一番古い記憶は戸棚からビンを取り出そうとして落としたときのこと。背伸びをしながらビンに手を伸ばしたら床に落ちてしまった。その飛び散った破片が足に刺さり血が流れた。不思議と恐さはなかった。そこを舐めると傷口はふさがり元に戻った。私は最初から知っていた。自分が黒魔術を使えることを・・・。


 そう、あれは確かアルミスをつれて森へ遊びに出かけていたときだった。絵本に出てきたキツネが見たいというから二人で探しに行った。

 高い木が聳え立つ先を見上げると、緑色の葉っぱからキラキラと木漏れ日が注いでくる。その木漏れ日が湖に反射するとまるで太陽の欠片が落ちているように美しく神秘的な光景だった。私はそれを見るのが好きだった。美しいものを見て美しいと思えることに安心していた。


「お姉ちゃんこっち!!こっちにきて!」

「アルミスー?どこなのアルミス」


 湖の畔で薬草を積んでいるとアルミスが慌てた様子で私の名前を繰り返し呼んだ。枯れ枝や葉を踏みしめ木々を分けながら駆け寄るとアルミスの姿を見つけた。きっと珍しい虫でも見つけて驚かそうとしているんだわ。そう思いアルミスの横に並んだ。

 そこには茶色い柔らかな土の上に横たわる野ウサギがいた。それが視界に入った瞬間に異臭を感じた。腐敗しかけていたのだ。ハエがたかり始めている。思わず目を逸らしアルミスの肩を掴もうとすると私の手を離れ横たわるウサギを抱えようとした。『汚いから触っちゃだめ!』そう思ったとき、自分の中のなにかがそれを止めた。小さなアルミスの手は汚れたウサギを何度も撫でた。彼の中ではまだウサギは生きている。数時間前まで生きていたに違いない。私はなぜ『汚い』と思ってしまったのか。自分を恥じた。そしてアルミスの横に同じように屈むとハエが数匹散っていった。


「このウサギさん元気がないの。全然動かないしどうしたのかな・・・。お母さんなら治せるかな」

「無理よ・・・この子は死んでしまっているから」

「えっ?死んじゃったの?まだこんなに小さいのに?まだ温かいんだよ。ほら、お姉ちゃんも触ってみて」


 アルミスの憐れむ顔に私はなんと答えればいいのかわからなかった。アルミスの悲しそうな顔を見たくない、そう思った。そして『汚い』と思ってしまったことへの罪悪感から私は逃れたかった。


「アルミス、誰にも言わないって約束してくれる?約束してくれたらお姉ちゃんがこの子を治してあげる」

「本当?ボク約束する!!絶対絶対誰にも言わない!!」


 森へ元気に帰っていった野ウサギと嬉しそうに隣で手を振るアルミスに私はこれで良かったと充足感に満ちていた。


□□□


「っ・・・ここは?」


 目が覚めると見慣れない天井があった。幾何学模様の六角形が隣同士に重なり合い大きな六角形を作っている。ターコイズブルーの縁に魔よけの赤い花のような模様。どこだろう・・・ぼんやりとする思考の中で身体を起こそうとすると、白い絹のネグリジェに着替えているのに気がついた。肌触りがとてもいい。スベスベとしていて身体のラインに沿って流れている。

 ベッドから下りようと動くとスプリンクが大袈裟に上下に揺れる。囲まれているレースを開け床に足をつくと指先が埋もれるほどの絨毯が敷かれていた。

 それにしても大きな部屋・・・私どこに連れて来られたのかしら。部屋は見渡すほど広い部屋だった。奥にはまだ部屋があるのかドアがあった。

 もしかして異国の地に売られたの?脳裏をかすめた予想にぶるりと身体が震えた。でもそれほど日は経っていないはず。窓から外を見ると見慣れた村が遠くに見えて少しだけ安堵した。もう少し先に森が見える。あの森は私が暮らしていた森だわ。だとする方角的にとここはお城の中?

 それは窓越しに一羽の黒い烏が横切ったときだった。向けられた銃口から弾丸が飛んできた光景が一枚の写真のように静止画で眼前に広がった。振り返ると胸から血を流すお母さんの姿。その断片的な静止画が次々と細切れとなり脳裏に繰り返されていく。暗闇の中で馬たちの目がこちらを傍観している。その中のひとつが弓のように細めてこちらをみている。

 思わず顔を覆った。息を深く吸い込みもう一度窓の外を見た。私はこの後どうなるのだろう・・・。黒魔術を使った者は本当に死罪なんだろうか。その時ドアの向こう側から声が聞こえてきた。


「まだ眠っているのかい?」

「おそらくは起きている様子はありませんので」

「参ったな。そろそろ時間だ」


 コンコンとドアを叩く音にどこか隠れる場所はないかと探した。ここにいたら殺される。昨日のあのジェラルダ王子がお母さんにしたように。窓を開けようとしても鍵が高い場所にあり手が届きそうにない。近くにあった椅子を持ち上げようとするととても重い。またドアを叩く音がした。そしてドアがゆっくりと開かれていく。もう逃げることはできない。そう思ったときドアの向こうにいた人物に私は驚いた。

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