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【第三章】『第三十五話』霧中に見え隠れする心理


「んっ」

「ほら」


 柔らかな果肉が私の唇に押し当てられた。けれど恥ずかしさから口を開けることができない。冷やされていたメロンは唇の熱が伝わり生温くなっていく。根競べしていると更に強く押しつけられた。落ちそうになる果肉と滴り落ちる果汁に、あっと声を上げるとその隙に唇の間を割って入ってきた。舌の上に乗った途端その甘さが口の中に広がり溶けていった。


「おいひい」

「ふっ気に入ったか?ンじゃもっと喰え。お前は細すぎる」

「あの自分で食べ・・・」


 ジェラルダ様はまたメロンをフォークに差すと私の口へ運んでくる。この行為をまるで遊びのように面白がっている。私がいくら拒否したところで、強要されるのが目に見えた。でもメロンは美味しい。城に来て唯一良かったと思うのはどの料理も美味しいということだった。


 顔にかかる髪の毛を耳にかけ何度目かのメロンを口に入れた。すると、背中に添えられていたジェラルダ様の手が背骨を伝い下降してきた。時間をかけて腰まで下りてくると、厚みのある大きな手にゆっくりとなでまわされていく。くすぐったいような感覚が走り身をよじらせていた。


「あっ・・・」


 触れられる感覚から逃れたかった。声が漏れると口の中にある果汁が溢れそうになる。布越しに触れられる手と指先によって身体が徐々に熱を帯びていくのがわかった。やめて、と小さく懇願するとジェラルダ様は持っていたフォークをテーブルに並ぶ肉に突き刺した。

 口元に滲む果汁を親指で拭うと自身の口へ運んでいく。一連の動作が妖艶で、そう思っている自分がより恥ずかしい気持ちになっていた。

 背中をなでる手を止めて欲しくて腕を掴むけれどびくともしない。ジェラルダ様の顔がこちらに近づけてくる。またキスをされると頭の中で過った。昨日までだったらすぐに拒絶していたのに、身体が受け入れようとしていることに驚いた。受け入れる、ではなくてあきらめと言う方が近いのかもしれない。抵抗をしてもこの人は欲望のまま進むような人だ・・・。

 ジェラルダ様の唇が私の唇に触れかけた。


「お前が望むまで、もうキスをするのはやめておいてやるよ」


 肩口に触れた唇が動いた。ちゅっ、と音を立てるとつねられたような微かな痛みが走る。


「ふぁンッ……の、望むまでって…私はそんなこと絶対に望んだりしません」


 私の言葉を鼻であしらうと、肩口から首筋を唇が動いていく。飲んでいるワインの香りのせいでこちらまで酔いそう。両手が腰に添えられて動くことができない。するとスカートとシャツの間から手が侵入してきた。冷たい手が直接肌に触れて、びくんと上下に身体が跳ねあがった。天井を仰ぐとシャンデリアについているガラスが眩く思わず目を細めた。近くにはメイドや執事もいるのに・・・こんなこと。


「あっ……ヤッ、ヤダ・・・。止めて」

「キスしない分、涙でも流してもらわねぇーとな」

「んぅ…ふぁ」

「呪いが疼いてしかたねぇーんだよ。癒してくれるんだろう?」


 『呪い』その言葉に鈍りかけた思考が反応した。


―――お前にわかるか。俺たち王家が今までどれだけ苦しんで生きてきたか。

僕はこの手が憎い。呪いが憎い。憎くて恐ろしい。


―――私たちを救うことができるのはクレア、君だけなんだ。


 私の体液に治癒の効果があるのは使い魔が宿るからだ。もしその使い魔を操れるようになれば呪いを解く方法につながるんだろうか。


「いっ痛みは・・・触れるだけでも和らぐんでしょうか?」

「和らぐわけねぇだろう。効果があるのは使い魔と融合したお前の体液だけだ」

「だっだったら、どうしてこんなこと・・・」

「そんなのおもしれーからに決まってるだろう」

「私はっ…ンッ…面白くなんてありませんっ」

「お前の意見なんて知るかよ。そもそも凝りもせずにノコノコ来るんだから、俺はてっきり期待してるのかと思ったけどな。・・・ほら、最初に触ったときよりもずいぶんと反応に色気が出てきてるしな」

「ひゃっ」


 耳元に生暖かい息をかけられるとピンと反るように背筋が伸びた。背中に入ってきた手が脇腹に触れながら胸の横に到達しようとしている。与えられる感覚に脱力しそうになる。

 だめ!このまま流されたら昨日と同じことになってしまう。私はそんなことをされるためにここにいるわけじゃない・・・。


「わっ私が今日来たのは馬を助けてくれたお礼が言いたくて、殺処分せずにしてくれたお礼を・・・。それとあの子の名前を教えてもらいたくてっ」

「なんだそれ。そんなことのためにわざわざきたのか」

「私は昨日ジェラルダ様の話を聞いてもっと、もっとジェラルダ様のことを知りたいと思いました。ウロボロスの呪いと向き合い解きたいと。だからここへ来たんです」


 必死で言葉を紡いでいく。こんな言い方ではジェラルダ様になにが伝わっているのかわからない。感覚から逃れるように仰け反ると左目が霞んでいる。逃げれないように身体に楔を打ち付けられてるように刺激が私を支配していく。だけどこのまま流されることだけは阻止しないといけない。


「だったらこの痛みを俺から消すことができるか。この呪いから俺たちを開放することが・・・」


 耳の奥に熱がこもってジェラルダ様の声がくぐもって聞こえてる。


「お前に救えるか・・・俺たちを」

「必ずウロボロスの呪いをといてみせます」


 私の言葉にジェラルダ様の手が止まった。静まり返る部屋。外は既に暗くこれから夜を向かえようとしている。赤い瞳がこちらに向けられている。微かに振れた瞳孔。


「私もこの力から使い魔から逃れる術を知りたいです。もしかしたらそれは呪いを解くことにつながるかもしれないんです。未知の物から解放されたいという気持ちは同じです。だからもう少しだ時間をください・・・」


 真直ぐに見つめられた視線。私は眼帯のない目で真直ぐに見つめ返した。

 目は口ほどに物を言う、さっきジェラルダ様はそう言っていた。だから、少しでも伝わるように。彼を真直ぐに見つめた。


ジェラルダ様なら一番に呪いを解かれるべきは自分だとそう考える人だと思っていた。

だからローリオ王子の名前を出されたのが意外に感じてしまった。けど実の兄であり、行く行くはブリオッシュ国王陛下を継ぎこの国を守る方。最初に名前を出しても不思議ではない。

その時はただそう思っていた・・・。

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