【第三章】『第三十四話』スコーピオンの心臓は闇夜で赤く輝く
「うぁああ!ジェッジェラルダ隊長!!」
「ジェラルダ様・・・?」
「そこでなにをしてンのか聞いてんだよ」
口から出た言葉は温度がなくいつも以上に冷徹に聞こえた。そして冷ややかな視線で二人を見ている。
男たちは私から手を離し慌てて姿勢を正すとジェラルダ様に向かい敬礼をした。
「こっこの女と、その・・・なっなぁ?」
「なぁってなんだよ!俺は別に・・・あっその」
「この女は俺のだ。次に手を出したら殺すぞ」
男二人は顔を見合わせながら私の方を見た。そしてまた顔を見合わせた。
「「えっええええ!!??ジェッジェラルダ隊長の女!!??もっ申し訳ございません!!」」
「そうとは知らずに我々とんだご無礼をっ」
「どうか、どうかお許しくださいっ!!」
カタカタと震え出す大柄の男たち。その場で跪きジェラルダ様に許しを請うように地面に額をつけている。近衛隊隊長だとは知っていた。けれどこれほどまでに部下に脅威を与え、畏れられている存在だとは思っていなかった。
「わかったらとっとと失せろ」
「「はぃぃいいい!!」」
走り去っていく男たち。慌ててその場から立ち去って行く。その途中、酒を飲んでいた男が足が絡まり転倒していた。・・・なんだかよくわからないけど、とりあえずは助かったんだわ。
張りつめていた緊張感から解放されると一気に身体から力が抜けていきその場に座り込んだ。するとジェラルダ様が私の顔を覗き込んだ。
「グレイマンはどうした」
「えっ・・・」
「グレイマンに言伝を頼んだ」
「あ、はい・・・グレイマンさんから聞いて来たんですが」
「なんで一緒じゃねーんだ」
「グレイマンさんは別用があって・・・私が一人で行くと言ったんです。だから」
暗闇の中で赤い瞳が浮かんでいる。昼間はあまり気にならなかった。夜になると映えるその色はまるでスコーピオンの心臓、アンタレスのように美しく感じた。
「東館の近くには近衛隊の宿舎があるんだ。中にはああいう連中もいるから気をつけろ」
「えっ・・・あっはい。助けていただいてありがとうございます」
「別に・・・行くぞ」
ジェラルダ様の言葉に驚きを隠せなかった。気をつけろなんて言われると思ってなかった。歩いていく後を追いかけようとしたけれど、腰が抜けて身体にまだ力が入らなかった。
「なにしてる。早く来い」
「すっすみません・・・。その腰が抜けちゃって」
「はぁ?使い魔持ってる魔女があれくらいでビビるわけねぇだろ。とっとと歩け」
「そんなほいほい使い魔を出せるわけじゃないんです!それにさっきのは本当にびっくりして・・・怖くて」
「ったく・・・」
いかにも面倒くさそうな顔を見せながら私の方へ近づいて来た。てっきり肩を貸してくれるのかと見上げると、ひょいと身体が宙に浮かんだ。簡単に抱きかかえられると得意げに笑みを浮かべるジェラルダ様。昨日までの狡猾な笑みではない。こういった顔もするのかと意外だった。ただ、この抱き方はいくらなんでも恥ずかしいような・・・。絵本で見た王子様がお姫様を抱っこしていたときと同じだ。
「あっあの、これはさすがに」
「俺に指図するな。黙ってろ。あぁそれから・・・」
「えっ」
するりと眼帯が外された。左目の視界が広がっていく。
「あっ・・・」
「俺の前ではこれはするな」
「でも誰かに見られたら」
「こっちの棟は貴族共は出入りしない。見られて困る奴はいねぇよ」
「でも、どうして」
「隠しごとをされているみてぇで気に食わないからだ。目は口ほどに物を言うつーだろ」
なんだか落ち着かない。私の目はこの人にどう映っているんだろうか・・・。こんな目をしていたら恐いと思ったり気持ち悪がられるに決まっている。
「恐くはないですか・・・それに気持ち悪いでしょう」
「俺に恐いものはない。ウロボロスの呪いも権力も死さえも恐れたことはない」
「・・・そうですか」
この人に常識的な感覚は通用しないのかもしれない。
ジェラルダ様の部屋の前につくと執事がドアを開けた。人前でこの格好は恥ずかしいので降りようとしたけれどあっけなく拒否されてしまった。執事もメイドも驚く様子はなくいたって普通な対応をしてくれている。
「おかえりなさいませ。ジェラルダ様。夕食のご準備が整っております」
テーブルの上にはずらりと食べ物が並んでいた。ようやく降ろしてもらえる、そう思ったがジェラルダ様は私を抱えたままソファに座った。
「おい。こっちに持って来い」
「かしこまりました」
ジェラルダ様の一言に食卓はメイドたちは素早く料理をソファの前まで運び直した。
美味しそうな匂いが近づく。並んでいる食事を見ると肉料理とチェリーパイ、スイーツなどとバランスに偏りがあるメニューだった。
そういえばこの城に来たときにローリオ王子がジェラルダ様は甘い物が好きだと話していた。
「お前も飯はまだだろう?」
「はい。直ぐに来るように言われたので」
「よし、お前も食え」
「ありがとうございます。あの、でもこのままでは食べれないので降ろしてもらえませんか?」
「ばーか。それじゃ愉しくねぇだろ」
愉しい?とはどういうことなんだろう。ジェラルダ様はフォークを手に取り、綺麗に盛り付けされたメロンを乱雑に刺した。そして私の口元に持ってきた。メロンの芳醇な香りが漂ってくる。
「口を開けろ」
「えっ」
「昨日はお前に世話になったからな。今日は俺が奉仕してやるよ。たまには飴も必要だろう?」
「飴って・・・えと」
「いいから食え」
ジェラルダ様は悪戯に口角を上げて私の反応を伺っている。




