【第三章】『第二十九話』熱を植え付けられた身体は熟すときを待つ
「やっやめてっ・・・くださ……んっ」
するりと肩口に指先がかかると胸のふくらみが出るほど服をずらされていく。慌てて抵抗しようとするも両手を掴まれあっけなく阻止された。ジェラルダ様の唇が胸に近づいて来る。胸元にふぅと息がかかると身体が震えた。だめ・・・このままじゃまた。
「ヒャッ……あっ……ン」
谷間に顔を埋めるとゆっくりと舐め上げられ、その刺激に思わず声が漏れた。胸に歯が当たると強く吸い上げられチクリと痛みが走る。
「やめてっ……どうしてっ、どうしてこんな……んっ!・・・ことばかりするんですか、私は娼婦じゃありません!」
「そんなの決まってるだろう。・・・俺たちに呪いをかけた憎むべき魔女だ。そしてお前が俺を拒むからだ。お前が拒めば拒むほど俺はゾクゾクする。俺たちがウロボロスの呪いで苦しんできたと同じ苦しみを味合わせたくなる・そして奪いたくなるんだよ。お前が抱く希望や望みをな」
「私は『死の魔女』の蘇りなんかじゃなくっんうぐ……」
「どうだかな。関係がないならなんでお前は黒魔術が使える。お前の体液に鎮静の作用があるのは、お前がこの中に使い魔をやどしてるからだろうが」
「んっ・・・ぐぅっ…やっ」
胸元に赤い痕がいくつか付くと、口の中に指を数本ねじ込んで来た。奥まで入れられた指に何度も嗚咽するけど出ていこうとしない。口内を無遠慮に暴れる指先に抗う隙がない。口からたらたらと流れていく唾液。ジェラルダ様の腕を引き離そうと掴んでもなんの抵抗にもならない。あまりの苦しさから右目に涙が溜まっていく。
「それをリグルの一件まで隠していたよな?お前にわかるか?俺たち王家が今までどれだけ苦しんで生きてきたか。こんなもんじゃねーんだよ」
「はぁぅ・・・はぁ・・・やめン…うぐゅ……はぁ」
「そうだ出せっ!お前から放出される全ての体液に使い魔の作用が宿る。それが俺たちの糧になるんだよ。お前はその道具としてここに連れてこられたんだよ」
右目から溜まった涙が頬を伝っていく。苦しさで意識が遠のきそうになる。その時、チッと舌打ちをした。訝しそうな顔をすると乱れた胸元を簡単に直して私から離れて行く。息を整える中なにが起こったのか頭がおいつかない。すると人の声が聞こえてきた。
「ジェラルダ様ー!ジェラルダ様!!こんなところにおいででしたか。探しましたぞ!」
「ったくいいところだったのに。なんだ騒々しいな」
「申し訳ございません。ですが国王陛下がお呼びでしたので」
なにごともなかったようにジェラルダ様はやってきた老兵と話し始めた。
突然開放された身体は一気に酸素を求め呼吸を繰り返した。心臓が脈打つたびにドクドクと身体を揺らしている。唇の感触がまだ耳元に、首筋にぼんやりと熱を帯びさせて残ったまま。前もそうだった・・・。まるで身体に熱を植え付けられているみたいに。こんなの嫌なのに・・・。私は沸いてくる熱を抑え込むように唇を噛み締めた。
「はぁ、仕方ねぇーな。その馬はお前が始末しておけ。もう使い物にならねぇ」
「かしこまりました」
目の前の二人の会話に耳を疑った。余りにも簡単に、余りにも自然になやりとりに私は咄嗟に言葉がでてこなかった。
老兵が馬の手綱を取ろうとすると、馬は頭を左右に振り私の後ろへ隠れた。
「全く手こずらせおって。さっその馬をこちらへ」
「始末って・・・この子をどうするつもりですか」
「言葉の通り殺処分さ。ジェラルダ様がそう仰っているからね」
「そっそんな怪我が治ればまた」
「負傷した馬は戦場ではただの荷物。殺処分してやるのがこいつも本望だろ。これ以上ワシの仕事を増やすさんでください。ジェラルダ様の命令なんだから」
「まっ待ってください!ジェラルダ様!」
私の呼び止めになにも反応することなくジェラルダ様は止ってくれない。駆け足で前に回り込むと、あからさまに面倒そうな顔を見せた。
「怪我が治ればこの馬は走れるようになります!ですから殺処分の命を取り下げてくださいっ」
「無理だな。あいつは足をやられちまっている。治ったとしても、もう二度と走ることはできねぇ」
「そんなことありません!必ず走れるようになります。命をそんなに粗末に扱わないでください」
「お前がやろうとしてることは、あの馬のためだなんだ騒ぐだけでただの自己満足な偽善でしかねぇんだよ。それともなんだ?お前の黒魔術であの馬を治すか?ハッそん余裕があったら死にかけてるお父様にでも使ったらどうだ」
「あなたはそうやって今まで弱い物をいたぶることで呪いの恐怖から逃げてきたんだわ」
「んぁ?なんだと・・・」
「呪いは弱い心に住み着くのよ。呪いと向き合っていないあなたにウロボロスの呪いが解けるはずないわ!」
「こっこら、ジェラルダ様に向かってなんという口の利き方だ!訂正せんか!」
「ふっいい度胸だな。いや馬鹿な女なだけか・・・。いいぜ、お前の言う通りその馬はくれてやるよ。ただしそれに見合う代価は頂く」
「代価?」
「当然だろう?負傷したってその馬は王家の馬なんだぞ。村に持ってけば相当な値段でうれる。それをタダでやるわけねぇだろう」
そのときジェラルダ様はまたあの笑みを浮かべたていた。狡猾なあの笑い方。お母さんを銃で撃ったときの顔。私をいたぶるときの顔。そう、まるで獲物を見つけたとき高揚する獣の顔。
「今夜俺の部屋に来い。そうしたらその馬をお前にくれてやるよ」
「っ!?」
「ただの自己満足の偽善じゃないとお前自身が証明しろ」
喉元でクククと音を立てながらジェラルダ様は城へ向かって行った。
「お主ジェラルダ様に敵対すると命がいくらあってもたりんぞ。ワシは知らんからな」
そう私に忠告すると老兵はジェラルダ様の背中を追いかける。腰を低くしながらなにか話す様子を見ていると、隣にいた馬が私の手に触れた。湿った鼻がくすぐったい。まるで心配してくれているようだった。
「大丈夫よ。あなたが助かるんだもの。大丈夫・・・」




