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【第二章】『第十九話』仮面の下に蠢く嫉妬



「わぁっ!こないだ植えた種にもう芽が出ているわ。やっぱり土がいいと育つのが早いのね」


 時計を確認する針はもうじき正午を示そうとしていた。


「そろそろリグル王子のところへ行く時間だわ」


 土のついた手を洗い、奥のドレッサーに掛けてておいた綺麗なドレスに着替え小屋を出た。

 泥のついた身なりでいくとリグル王子のお付きの方たちの視線が厳しく、真新しい服に着替えてから行くことにしている。とくにメイサさんはリグル王子が赤ん坊の頃からのお世話係だったたらしく過保護な面がある。それにきっと、私のことをあまり良く思ってないように感じる・・・。それは仕草や視線、話し方とか些細なところから滲んでくる。ってそんなこと考えちゃだめよね。ここへきてまだ間もない私に警戒するのは当然のことなんだから。

 でもここ数日は呪いの影響もなく落ち着いて演奏できていて良かった。でも国王陛下の話だと呪いは年齢に関係なく症状が現れるといっていた・・・。それはまだお若いリグル王子さえ呪いは容赦なく襲ってくるということ。


コンコンッ


「失礼します。・・・リグル王子?」


 いつものようにノックしても返事がなかった。もう一度ドアを叩いてみるけれど返事はない。中から人の気配が感じられなかった。ここまで来る途中も今日はなんだか使用人が少なく感じた。

 ドアを開けるとやっぱりリグル王子の姿はない。練習時間になってもいないなんて珍しい。こんなこと今までなかった。なにか用事かしら。でもそれなら昨日のうちに言ってくれるはず。

 そういえば昨日練習が終わって帰るときもなんだか様子がいつもと違っていたような・・・。なにか言いたそうにしていたけれど、なんでもないと言われたからそれ以上は聞かなかったけど。


「今日はリグル王子は練習にはお見えになりません」


 ドアの傍にメイサさんが立っていた。こちらに向けられた敵対心に思わず後退りしてしまった。悪いことなんてしていないのに、この場所にいることに罪悪感を持たざる終えなくなるような圧力を感じた。


「そうだったんですね。なにも聞いていなかったのでいつも通り来てしまいました。すみません。・・・では今日のところは失礼いたします」


 張りつめた空間を少しでも緩めたくて笑ってみたけれど、それすら気に食わないようでメイサさんの表情は更に強張ってしまった。向けていた視線を逃げるように床へ落とした。


「リグル様は明日から来なくていいとおっしゃっておりました」

「えっ?」

「明日からは音楽祭の練習に集中なさりたいとのことで以前同様に一人がいいと」

「私はなにも聞かされていませんけど・・・リグル王子がそんなことを?」

「はい。さようでございます。第三王子のリグル様はお若いながらにも公務もあり大変お忙しいのです。その間に音楽祭の練習をされております。練習する度にいちいちあなたを待っている時間が惜しくなったのしょう」


 スタスタと歩幅の小さい足取りで部屋に入って来ると手際よく窓を開けていく。持っていたほうきで掃除を始めた。掃除はいつもメイドがやっている。お世話係のメイサさんがそんなことをする必要はないはず。

 それにリグル王子が急に来なくていいって一体どういうことなのかしら。


「わかったらお戻りになってくださる?あなたみたいな身分もよくわからない人がこの城にウロウロされていては迷惑です」


 床の木の目に沿ってほうきをせっせと動かしながら、ありもしないほこりを見ているのだろうか。こちらには見向きもしない。

 『よくわからない人』メイサさんが抱く不信感は人として最もな感情。自分以上に大事な方のそばに突然入り込んできた存在を排除したいと思うのが人間だから。ただ毎日顔を合わせることで少しは距離を縮めることができるんじゃないかと期待していたし、そうなりたいと思った。

 けれど人は異端の者を嫌う。それは本能的に働く自己防衛の一種。私はそれを嫌と言うほど見てきた。  

 私はなにも言わずに部屋を後にした。


「はぁ・・・」


 窓の外は水色の透き通る空が高く続いている。不揃いの雲が風にのって窓枠の中から消えて行った。

リグル王子はどこに行ってしまったのかしら。ここにいてもしょうがないし小屋に戻ろうなか。

 廊下にさっきまでいなかった使用人たちが仕事をこなしていた。私に気付いたメイドたちがなにやら驚いた表情を見せた。ちらりとこちらを見るとすぐに視線を泳がせていく。そして少し戸惑いながらも、二人のメイドがぎこちなく声をかけてきた。


「あのクレア様」

「どうしましょう。メイサ様にお叱りを受けるかもしれないわ・・・」

「でも言った方が良いわよね。リグル王子がおっしゃってたんだから」

「そそ、そうよね。まだここにいらっしゃるということはやっぱり聞いていないんだわ」

「そうよ。きっとそう!」


 二人のメイドはお互いを見ながら頷き合った。

 もしかしてこの二人はリグル王子の居場所を知っているのかもしれない。


「リグル王子がどこにいるか知っているんですか?」

「えっと、その・・・今日の鎮魂祭のお話は聞いてますか?」

「鎮魂祭?」

「ほらっやっぱり!知らないんだわ」

「あの・・・鎮魂祭とはなんでしょうか?」

「今日は月に一度の鎮魂祭なのです。リグル王子は鎮魂祭の演奏のために教会へ」

「昨夜、鎮魂祭にクレア様にも同席して頂くようメイサ様にお伝えされていたのですが・・・」

「リグル王子が私を鎮魂祭に?」

「きっとメイサ様のことだからクレア様にお話しされていないんじゃないかと思って。・・・その、あのメイサ様はクレア様のことあまり良く思っていないので。メイサ様はリグル様が幼いころか世話係として立派にお勤めされてきました。常にリグル様のことを第一にお考えなのです。・・・だから最近の明るいリグル様のお姿を見て戸惑ってらっしゃるのだと思います」

「そうです!新しい曲目を演奏されているのも珍しいことなのです。ですからきっとリグル様は今日の鎮魂祭での演奏もクレア様に聞いて欲しいんです」

「・・・だから昨日。教えて頂いてありがとうございます。すぐに協会に行っ―――」


 そのとき、突然外から人の声が聞こえ騒がしくなった。


「うおおぉ……」

「誰か!誰かおらんかぁ!!」


 うめき声と助けを求める声。慌てて外へ出ると、そこには傷を負った神父を抱える兵士が立っていた。

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