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【第一章】『第十話』黒き呪いは王家を蝕む

「かつて『死の魔女』と惧れられた魔女が存在した」


 重く圧し掛かる沈黙の中でブリオッシュ国王陛下の次の言葉を静かに待った。こちらから声を発することは許されない。

 ブリオッシュ国王陛下は占星術師が掲げている水晶をしばらく見つめていた。そこになにが映っているのだろう。髭を何度かなでていた指先がピタリと止まった。そして重たい口を開いていく。


「百年ほど前、己の欲望のために悪魔に魂を売り黒魔術を手に入れた魔女がおった。黒魔術を手に入れることを引き換えに悪魔の餌である『人の負』を献上した。国を滅ぼし王家を破滅へ導いたあの憎き魔女。それが『死の魔女』だ」

「死の魔女・・・?」


見えない圧力が部屋の中に蔓延っていた。拘束もなく広い場所に立たされているのにまるで狭い箱に押しつめられたような窮屈さ。


「『死の魔女』は『人の負』つまり人の不幸や憎悪、それらの感情を集めることでより強力な黒魔術を得ようとした。あるとき考えたのだ。もっと簡単に『人の負』を集めることはできないかと。そこで目を付けたのが西国シーザスとの戦争だ。まず『死の魔女』はこの国の魔女たちに黒魔術を広めた。そして戦闘で傷つき苦しめらた戦士たちを利用し悪魔儀式を行った。そこで『人の負』を効率的に集めることに成功したのだ。そう西国シーザスとの戦争が激化した裏には『死の魔女』が仕向けたことだったのだ。・・・故にその恐ろしい魔力に気付いた当時の国王は戦争を早急に終息すべく止む負えず魔女狩りを始めた。そうしなければ村がこの国が滅びてしまうからだ。そして黒魔術の根源である『死の魔女』を処刑した。今後二度と黒魔術を使う者が現れぬよう高台に絞首し火を放った・・・」


 私はごくりと唾を呑み込んだ。突然行われた魔女狩り。この国でその話を知らない者はいない。でもその理由は明らかにされていなかった。

 ただ魔女狩りが戦争を終わらせるために行われたというのは本当だったんだわ。その裏で戦争の引き金になった『死の魔女』がいたなんて。

 すると占星術師が掲げていた水晶の中に靄がかかっていく。乳白色だった水晶の中はグルグルと渦を作ると漆黒のインクを垂らしたよう忽ち暗黒色へと変わった。深い深い闇だった。その闇の中で悪魔の笑い声が聞こえてくる。

 すると突如水晶の中が炎に覆われた。赤い炎が燃え盛っている。


「その燃え盛る炎の中で『死の魔女』は呪いの言葉を残して死んでいった」


 ピキッと音が聞こえると、水晶に亀裂が生じていた。


『おのれっ・・・王家ども!私をっ私を騙したな!!クッ・・・呪ってやる。お前らの末柄を呪い殺してやるっ!!百年後私は必ず蘇る!!そのときこの世に残る王家一族は全て消え去るだろうっハハハハ!!それまで悶え苦しむがいい・・・百年後にくたばるのはお前らの方だ!!』


 炎はまるで『死の魔女』に憑依したかのように形を成し巨大な炎の龍へと変貌をした。怨念のような叫びが水晶の中だけでは収まりきらずにこちらの世界にも飛び出てきそうだった。

 火だるまになり皮がはがれ肉体が焼け焦げていく中で甲高く笑う声が途切れることない。

 なんて悲しい叫びなの・・・。胸が押し潰されそうな。悲しみと憎しみに満ちている。

 そして炎の龍は黒煙を上げながら広い高台を旋回していくと、『死の魔女』の身体を呑み込んでいく。絞首台が置かれた丘が溶鉱炉に変わっていた。私は思わず水晶から目を背けた。


「・・・っ」


 なんと恐ろしい人なの。私利私欲のために悪魔に魂を売り村の人々を不幸に導くなんて。それを咎めた王家を逆恨みし百年の呪いをかけるなんて。

 彼女をここまで狂気に駆り立てたものはなに?魔女としての名誉?国を従わせる武力?これが黒魔術を使う者の末路なの?

 だとしても私は違う。私の力が例え黒魔術であったとしても私は人のために使いたい。今までだって私は誰も傷つけたりなんてしていない。これからだって・・・。


「『死の魔女』を処刑した後、当時の国王ヴァチェットはその呪い通りに謎の死を遂げ、王子シャルールもまた時同じくして謎の病で亡くなった。なにも食べることができず、ただ熱い熱いと呻き苦しみながら死んでいったそうだ。その亡骸はまるで焼け焦げたようだったと言われている。結婚したばかりで妻と幼い赤子がおったというのに・・・嘆かわしい限りだ。それ以降、我が王家は『死の魔女』の呪いにより不治の病に侵されることとなった。それを喰い止めるべくして国王ベルナンデスは占星術師の予言に耳を傾けた。『死の魔女』の怒りを鎮魂させるために教会を建て祈りを捧げろと。以来王家はそれを忠実に守って来た…ゴホッゴホ。けど呪いは決して解けることはないゴホゴホッッ!!『死の魔女』の憎悪は百年たった今もなお続いている。ゴホゴホ…ゴホゴホッッ!!」

「国王陛下!」

「大丈夫だ。・・・まだ」


 咳き込むブリッシュ国王陛下に近くにいた兵士が数名駆け寄るが手を上げそれを阻止した。身体を上げると手のひらに血痕が見えた。明らかに先ほどよりも顔色が優れない様子だった。


「そして占星術師は我ら王族にひとつの予言を残した。『百年後死の魔女が蘇り王家が途絶えると時期と同じくし龍の目を宿し黒き術を扱う魔女が現れる』とゴホッ…その者が我らの呪いを解いてくれるだろうと。黒魔術を封じた我々が黒魔術の力に頼らねばならんとは不運なことだ・・・」

「そっそんな・・・お言葉ですがブリオッシュ国王陛下。私は呪いの解き方なんて知りません!『死の魔女』ともなんの関係もありません」

「そう、確かにそうだ。百年前のあの日『死の魔女』の身内も含め関りのある者全て死罪となった。『死の魔女』の血縁関係者は現代には存在しえない。だからワシもこの予言だけはあまりにも信じ難かった。しかしお主は現れたのだ。ワシの前に、その龍の左目を持ってな!」


 口元の血を荒々しく拭った。窪んだ眼窩から眼球が飛び出す勢いで私を睨みつけた。それは長年の仇を見るような復讐心。ブリオッシュ国王陛下の身体が怒りからか震えている。

ねぇおばあちゃん。


あのとき今の私は幸せだと言ったけれど


黒魔術を使うと不幸になるとおばあちゃんは知っていたの?

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