ウィルヘルミナのラジオ☆オラニエ ~海の向こうからこんばんオラニエ☆~
第二次世界大戦下、ナチスドイツに国を奪われたオランダ女王ウィルヘルミナは、英国に亡命。そこから「ラジオ☆オラニエ」と銘打ったラジオ番組を発信し、レジスタンスたちの精神的支柱であり続けた。今宵もウィルヘルミナの声が電波に乗って海を渡る――。
ハァイ♪ オランダのみんな~! こんばんオラニエ~☆
今夜も始まりました、BBCヨーロッパサービスプレゼンツ「ウィルヘルミナのラジオ☆オラニエ」。
パーソナリティはもちろんこのあたし。あなたの女王ウィルヘルミナ十七歳です!
(構成作家の声。以下(構))おいおい。
はい、ではいつものオープニングナンバーいってみましょ~。
聞いてください、「Merck toch ho sterck」。
(♪曲演奏)
あらためまして、ウィルヘルミナです。
レジスタンスのみんな、元気にしてたかな?
疎開しているみんなは不自由していないかな?
みんなには苦労を掛けるけど、もう少しだけ辛抱してね。
そうそう、今夜はとっておきの初情報が解禁だよ。お楽しみに!
さて、今週も、たっくさんお便りが届いているよ。みんなありがとうね~!
では早速読んでいきましょ~。
では一通目。オラネーム“どいつんだー俺らんだー”さん。
「ウィルヘルミナ様、はじめまして。初投稿です」
わ~、ありがと~。こちらこそ初めまして。
「僕はつい二ヶ月前レジスタンスに参加したばかりの新人です。親元を離れてレジスタンスに参加するのは不安なことだらけで、隊内では先輩達に叱られてばかり。それですっかり落ち込んでいた時に、ウィルヘルミナ様のお声を聴いて、勇気づけられました」
そっか~。何事も慣れないうちは大変だし、自分には向いていないんじゃないかって思っちゃうよね。でも、この番組が“どいつんだー俺らんだー”さんの励みになったのなら、とても嬉しいな。
「これからも、ウィルヘルミナ様のお声を聴くのを楽しみに、毎日頑張ります。ウィルヘルミナ様もお体に気を付けて、お仕事頑張ってください」
はあい、頑張りま~す。
何か初々しくって良いですね。
だんだんリスナーさんが増えていって、その中から初めてお便りをくれる人も現れる、というのはとっても嬉しいですね~。
あたしも頑張りますので、みんなもどしどしお便りお寄せくださいね♡
続いて二通目。オラネーム“禁断のレジスタンス”さん。おや、お馴染みのはがき職人さんですね。いつもありがと~。
「ウィルヘルミナ様、こんばんオラニエ!」
はい、こんばんオラニエ~!
「オランダがナチの手に落ちてからもうすぐ丸四年。ウィルヘルミナ様のご無念、お察しします。」
いやいや、とんでもない! あたしがもっとしっかりしていたら、こんなことにはならなかったわけで。本当、みんなには申し訳ない限りです。
「私もレジスタンスの端くれとして、国土解放のために日々頑張っていますが、最近では武器弾薬もだんだん心許なくなってきて、遣り繰りに追われていました。
でもそんな中、先日連合国からの支援で補給物資が届きました。これで何とかやって行けそうです。
ウィルヘルミナ様は、最近何か困っていたけど無事解決したことはありますか? では、お体に気を付けてノシ」
そっか~。物資が届いたんだね。良かった良かった。
あたしも各方面に働きかけてはいるので、みんなのところにもいっぱい届くといいな♡
それと、困っていたけど解決したこと、かぁ。そーだねー、やっぱり、ナチスの刺客がずっとまわりをウロチョロしていて困ってたんだけど~。
あ、でもみんな心配しなくても大丈夫だよ。英国保安局の腕利きさん達が、がっちり身辺警護してくれるようになったからねっ。だから今は無事解決♡
だから“禁断のレジスタンス”さんも、あたしのことは心配しないで、頑張ってナチスのやつらをやっつけてください。
ウィルヘルミナのお願いだよ♡
ええっと、もう一通読めるかな?
(構)大丈夫です。
はーい、それじゃあもう一通。オラネーム“スケベニンゲン”さん。おおっと、これはアメリカからのお便りですね~。遠いところからどうもありがと~。
「ウィルヘルミナ様、こんばんは」
はい、こんばんは~。
「私はかつてアムステルダムで商売を営んでいたのですが、ナチスに逐われ、家族ともどもアメリカに亡命しました。幸い家族は皆無事でしたが、財産は大部分を失うことになってしまい、将来が不安です。
それでも、海の彼方から電波に乗ってウィルヘルミナ様のお声が届くのを聴いていると、少しだけ元気が出てきます。
今は正義の勝利を信じて、遠くアメリカの地から応援しています。頑張ってください」
う~ん、大変でしたね~。でも、ご家族が無事だったのは不幸中の幸い、と言っていいのかな?
そう、正義は必ず勝ちます! そう信じて、今は頑張りましょう。
平和にさえなれば、財産を取り戻せる日もきっと来ますよ。
オランダ経済だって、先の大戦の時には中立を守っていたのに連合国の対ドイツ経済封鎖に巻き込まれちゃってガタガタになっちゃったけど、あたしが投資で稼いだ資金を元手に、何とか立て直すことができたからねっ♡
だから“スケベニンゲン”さんも……、
(構)いやいやいや、普通はそんな簡単にいきませんから! それと、連合国批判めいたことはちょっと……。
てへぺろっ。
はいまあ、何にしても、“スケベニンゲン”さんもくじけずに頑張ってくださいね。
さぁて、では皆さまお待ちかね。とっておきの情報解禁だよ~。
(♪ドラムロール)
じゃん! 来る六月、いよいよ連合国による大攻勢が開始されます!
もちろん詳細は明かせないんだけど、ナチスの度肝を抜くこと間違いなし!
レジスタンスのみんなは、それを励みに頑張ってね。
そして人類の敵は震えて眠れ~!!
といったところで、そろそろお別れのお時間です。
「ラジオ☆オラニエ」ではみんなからのお便りを募集しているよ!
宛先住所は、郵便番号××× ロンドン~~~。
お間違えのないようにね。
番組中でお便りを採用された方のうち、希望者の方には、特製ノベルティグッズ、番組ロゴ入りパラベラム弾をプレゼントしているよ。
ご希望の方は、はがきに送り先住所と、「ノベルティ希望」と書いて送ってね。
それじゃあみんな、来週もこの周波数帯に合わせてねっ!
お相手は、あなたの女王ウィルヘルミナでした~。
Tot ziens♡
※※※用語解説※※※
●ウィルヘルミナ
オランダ女王。在位1890~1948。1880生まれ~1962逝去。
フルネームはウィルヘルミナ(ヴィルヘルミナ)=ヘレナ=パウリーネ=マリア=ファン=オラニエ=ナッサウ。
ナチスドイツに国を奪われ、英国に亡命中。
「ラジオ・オラニエ」を発信し、オランダ国民の心の支えとなる。
この当時(1940~1944)すでに御年六十代だが、細けえことは気にするな。
自身が投資で稼いだ資金でオランダ経済を立て直した、というのは実話。地味に経済チート持ち。
●ラジオ・オラニエ
ロンドンのオランダ亡命政府がナチスドイツ占領下のオランダに向けて、BBCヨーロッパサービスを通じて放送した、約15分間のラジオ番組。
冒頭で愛国歌「Merck toch ho sterck」(直訳すると「強いことに注意してください」。「彼の強さに傾注せよ」といったところか)を流し、その後ウィルヘルミナ様が演説をする、という構成だった。
ウィルヘルミナ様御自らパーソナリティを務めたりはしていないし、きっちり毎週放送でもなかったのだが、細けえことは以下略。
●アニラジ
「アニメラジオ」の略。
アニメやゲームの宣伝用に企画されたものと、声優個人の持ち番組として企画されたものとがある。
ただし、宣伝用のものでも宣伝そっちのけでひたすら出演声優によるグダグダトークを繰り広げるだけのものもしばしば見られる。
●こんばんオラニエ、オラネーム
番組オリジナルの(気恥ずかしい)挨拶と、ラジオネーム(ペンネーム)のことを〇〇ネームと呼ぶのはアニラジの定番。
●構成作家
「放送作家」とも言う。ドラマ以外のテレビ・ラジオ番組の企画・台本を制作するお仕事。
本来は裏方の仕事だが、パーソナリティに助言したりツッコミを入れたりする声をあえて放送に乗せていくスタイルはアニラジあるある。
●永遠の十七歳
十七歳教に入信すると、名乗ることを許される。
現在は井上喜久子さんが教祖だが、そのルーツはウィルヘルミナ様である。
……というのはもちろん嘘である。本気にしないように。
●どいつんだー俺らんだー
古典的親父ギャグ。ラジオネームにはダダ滑りなものも多いが、本人的には一所懸命考えたものなので、生暖かく見守ってあげよう。
●禁断のレジスタンス
水樹奈々さんのシングル曲名。TVアニメ『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』OPテーマ。
はがき職人がラジオネームにしていたのは単なる偶然。単なる偶然である(大事なことなので二回言いました)。
●はがき職人
インパクトのあるネタや目を引くイラストで、ほぼ毎回のように採用され、パーソナリティにもリスナーにもすっかりラジオネームを覚えられてしまっている常連投稿者のこと。
はがきを製造する技術者のことではない。
昨今では「メール職人」と呼ばれている。
自身の体験談等を語った後、「(パーソナリティの名)さんは〇〇なことありますか?」といった具合にネタ振りするのはお便りの基本。
●英国保安局
通称M.I.5。国外での諜報活動を主任務とする秘密情報部(M.I.6)に対し、国内でのスパイ摘発、対テロ活動等を主任務とする部署。
ウィルヘルミナ様の護衛についていたかどうかさだかではないが、英国としても自国内での謀殺防止のため何らかの護衛をつけてはいた……はず。
●スケベニンゲン
オランダ南部の北海に面したリゾート地。
現地での実際の発音は「スヘーヴェニンゲン」。
何でこれをラジオネームにしようと思ったのか……。
●連合国批判
ウィルヘルミナ様は、ナチスへの勝利を優先するあまりオランダ国民の生命を軽視したような連合国軍の軍事作戦に対しては抗議し、煙たがられることもあったようである。ご苦労が偲ばれる。
もちろん実際には、ラジオでそんなことを口にしたりはしていない(はず)。
●てへぺろ
日笠陽子さんの持ちネタ。
ウィルヘルミナ様がご存じだったかどうかはさだかではない。
●6月の大攻勢
1944年6月の連合国軍によるノルマンディー上陸作戦を指す。
そんなことラジオで告知したりするわけはないが、細けえ以下略
●人類の敵
アドルフ=ヒトラー(1889~1945)を指す。実際にウィルヘルミナ様は、ラジオ・オラニエでの演説の中で彼をこう呼んでいた。
まあ気持ちはわかる。
●ノベルティ
アニラジの中には、お便りを送ってくれた人の中から抽選で何名様、あるいは番組中で採用された人にはもれなく、といった形で、ノベルティグッズをプレゼントしているものもある。普通は栞やステッカーなどだが、戦時下だからね、しかたないね(ヲイ)。
ナチス占領下のレジスタンスにどうやって届けるつもりだ、とか、細以下略。
●パラベラム弾
9×19mmパラベラム弾のこと。元々はドイツで開発された拳銃用実包で、レジスタンスの主兵装だったステンガン(英国製の短機関銃)もこの弾丸を使用した。
●Tot ziens.(トッツィンツ)
オランダ語の別れ際の挨拶。「また会いましょう」の意。
それでは皆様、Tot ziens.