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序章

 わたし、ゾンビになっちゃった。


 取れかけの腕をくっつけながら、血溜まりの中に立ち尽くして、どこか冷静な頭で三峰(みつみね)(あさひ)はそう思った。


***


 ――旭が通うのは初等部から大学院までエスカレータ式の名門、私立氷鷹学園<ひだかがくえん>だった。そこで旭はつまらない初等部生活を送っていた。クラスメイトに、自分と同等、或いはそれ以上に頭のいい人間が存在しなかったのである。授業で出される問題も解き終わるのは一番早いのは旭だったし、クラス全員が解き終わるのを待つ時間は退屈だった。勝手に教科書を先取りして設問を解いたりして時間を潰していたが。


 同じような日々、旭にしてみれば私立でも公立でも変わらないのではないかと思ってしまうような授業レベル。よく誘われるドッジボール? をやったところで旭より運動神経が優れている人は居なかったから結局最後にぽつんと取り残されているのは旭だった。誘っておいてなんだよ、少しさみしいじゃないか。みんなわたし以下なのだ。ドッジボールを楽しくやっている同級生たちも幼く見えて仕方がない。同じ言語レベルで会話ができた試しがない。


 少しでもこの退屈な日常を面白くしようと、五年生になった旭は生徒会に入ることにした。放課後に残って雑務をこなす日々。ああ、やっぱり変わらないかもしれない。そう思っていたが、今日この日から旭の学園生活はがらりと刺激的なものとなる。


 きっかけは、生徒会の雑務を生徒会長と二人でこなしながらの些細な雑談だった。

「自分より賢いひとが居なくて学校がつまらないんですよね」

 ホチキスで紙をまとめる。すると、先輩はこともなげに言った。

「大丈夫ですよ、あなたが僕より賢くなることはないと思うので」

 パチパチ、と見開く瞳の中で火花が散ったようだった。自分よりも秀でた傲慢さに痺れた。旭はそのたった一言で彼に対して強烈に恋と憧れを抱き、叶うなら一生側に居たいとまで思った。彼の名前は月岡静夜(つきおかせいや)。一学年年上の先輩である。黒髪に眼鏡がよく似合っている、ひょろりと背の高い少年だ。


 この人なら、わたしと同じ言語で会話してくれるかもしれない。


 生徒会業務が終わって、先輩とは帰る方向が同じだったので一緒に帰った。その間も変なことは言わないようにしようとずっと心臓がどきどきしていた。


 叶うならこの人に自分のことを好きになってほしいと願った。


「ただいま」

「おかえり、旭」

「お父さんもう起きてるの?」

 出迎えてくれたのは旭の父親であった。彼は児童書の職業小説家だったので生活リズムが一般人と逆転している。下手をすれば一日会わないこともあった。

 制服の帽子を衣類掛けに引っ掛けて、艶のある黒いツインテールを揺らして旭は父親に今日のトップニュースを伝えた。

「あのね、今日は学校が楽しかったよ」

「本当? それは良かったね」

「面白い先輩が居たの」

「へえ、どんな人?」

「わたしより頭がいい人」

 そう言うと父親は笑った。

「そうかそうか、やっとそういう人と出会ったんだね」

 次に先輩と二人になるのは一週間後の水曜日だ。今からその日が待ち遠しかった。

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