表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイデンティティ・シンクロニシティ  作者: 伊藤沃雪
function Identity(){ var files=
34/40

scene(9,Ⅰ). getFilesByName("本当の姿");

【塔】全体を襲った次なる異変は、【塔】に関わるエルドグラムが停止したことだった。照明や自動運転システム、ロボット、三次視像、浄水雨などのあらゆる機能が停まり、わずかに動けていた生身の人々と機械たちも、足を止めざるを得なくなった。

 上層階は、普段ほとんど全てを覆い尽くしていた三次視像、香調が消えた。あれほど煌びやかで清潔だった大都市。白壁の角ばった建物だけが延々と並ぶ中に、薬品の異臭が漂った。


「何だあれ? 禍々しい……」「お、終わりだ……」

 特に住人たちが怯えたのは、空の色だ。霊粒子支配(エルドハック)によって地面に寝転がされた住人たちは自然、上空を見上げる形になって、三次視像に隠されていた真の姿を見ていた。


 黒。灰。紫、赤茶、緑、濃く変わって深緑になり、赤になり──禍々しく醜い彩のを刻一刻と変化していく。三次視像で映し出される澄んだ空とは、似ても似つかない。碧天を泥沼が覆いつくしているかのような光景に、皆は絶望した。


「これって、三次視像が消えてるんじゃないのか?」

「警戒用ロボット達も止まってる。軍部で何が起きてるんだ?」

【塔】の真の姿を見て、住人たちの間には疑念が広がっていた。軍部は一体何を隠しているのか。ロボット達に住人を殺させてまで何を追っているのか。



 そんな中、ぽつり、と鳴って地面に刻まれる、雨滴の跡。



「あれ、これ雨……?」

「……SARP(サープ)だ! 浄化システムも停止しているんだ!早く、早く屋内へ逃げろ!」

「動けない! 助けて!」


 人々の間にパニックが広がっていく。普段は三次視像と防護壁、浄化システムによって存在すら忘れ去られているSARPだが、【塔】の外では現役だ。エルドグラムが止まった今、上空を膜のように覆っている防護壁を溶かして、降り注ごうとしていた。



「ユリアス、マズいんじゃないのかい? SARPが……」

「分かってる。だけど堪え時なんだ。霊粒子支配(エルドハック)を解かせる為には、今は動けない」

 ボスと護衛たち、そしてヴァンテは、〈フォロ・ディ・スクラノ〉管理司令部、管制室内にいた。【塔】のシステムは、管制室にあるものがメインシステムだ。ヴァンテは、サティが総督たちを管制室から連れ出し、兵たちが霊粒子支配をされて動けない間に、管理司令部に侵入した。人の命を軽視する総督スクラトフに対して、ヴァンテは【塔】設備全体を人質に取ったのだ。


 このまま放っておけば、人々はSARPの餌食となるだろう。ヴァンテには予感があった。スクラトフは自分自身の〝安全で潤沢な暮らし〟にこだわっている。SARPから逃れるために〈魂〉を消費させているほどだ、SARPに侵された後の【塔】で生きるくらいなら、霊粒子支配を解くことを選ぶはず。サティのもとから管制室に戻るとしても、それなりに時間がかかる。ヴァンテは【塔】のエルドリウムをすぐ復旧できる体制にしたまま、耐えた。


 ヴァンテとスクラトフの根競べだ。


 停止してからしばらく経っても、霊粒子支配は解かれない。上層階の人々の悲鳴が耳に届くたび、ヴァンテの手が震える。本当にすまない、と、心の中で何度も詫びた。総督側がどう出るかと待っている時間は、永劫にも長く感じた。



 上層階全体、また管制室内で倒れていた者たちから騒めきが起きる。兵士達がゆっくりと立ち、動き始めた。霊粒子支配(エルドハック)が解けたのだ。



「動くな!」

 当然ながら、ヴァンテとボスは、管制塔内で倒れていた兵士達に銃を向けられる。ヴァンテはすぐさま【塔】のエルドリウムに干渉して、システムを復旧にかかる。

「少し待って。いま復旧してる」

「手を上げろ!」

「無理だ!」

 ヴァンテは珍しく強く拒否を示して、連れていた支援ロボット二機に威嚇射撃をさせた。兵士は少しだけ驚いた様子を見せたが、状況はどう見てもヴァンテ達が不利だ。臆せず、銃を向けて近付いてくる。


「おい、ユリアス!」

「大丈夫」

 ボスが銃を持ちながら呼びかけたが、ヴァンテは余裕の表情で頷いてきた。

「はあ? 参ったねこりゃ」

 兵士は至近距離まで迫っている。どうしたものか、と肩をすくめてから、兵士を撃った。全く迷いのない判断に、ヴァンテは思わず感心した。


 その時、激しい衝撃音とともに管制室の窓が割られ、何者かが飛び込んできた。今しがた頭に浮かんでいた緑髪の子供──人工魂型人造生命体(マッドマン)だ。


「ご主人様。人工魂型人造生命体(マッドマン)隊、17号到着しました」

「5号到着しました」「8号到着しました」

 ヴァンテ達と兵士の間に割って入るようにして、次々と人工魂型人造生命体(マッドマン)たちが現れ、交戦を開始する。



「起動終わった! キャンベル、逃げよう!」

 ヴァンテが機器から離れ、ボス達を追い越して走っていく。


「あ? おぉ……随分と活き活きしてんじゃねえか……」

 ボスは少々面食らってしまった。あの男、始めてやり取りを交わした時とは見違えて、溌溂としている。護衛たちに車椅子を押させて、ヴァンテを追う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ