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アイデンティティ・シンクロニシティ  作者: 伊藤沃雪
function Hostility(){ var files=
28/40

scene(7,Ⅰ). getFilesByName("事態は動き出す");

 ヘレンの『自殺病』への処置が終わったとリザから言われた。クロエは手術の様子を遠目で見ていたが、たしかに滞りなく進んでいるようだった。

 

「後は縫合だけだからロボットに任せるよ。安心してな。あ! あとキミさ、結構な感じだったけど、この子とはどういう関係? 彼女?」

 処置用のマスクや手袋を外しながら、リザが下世話に聞いてきた。絶対、さっきのキスについてだろう。キスという行為は、思念通話を開く際のエルドリウム交換のために行う行為でもある。エルゼノアでは特別、重たい意味がある。だからリザが揶揄ってきたのだ。

 誰のせいでこうなってると思ってるんだ。クロエはあからさまに渋い顔を向けたが、リザが揶揄うようにこちらをチラチラ見てきて、悪気が無さそうで頭にくる。


「……今は違うけど、オレにとっては大事な存在だ。あんたが『自殺病』にしなきゃ、見せる必要もなかったよ!」

 苛立ちを隠さずにぶつけると、リザは驚いたように目を見開いた。それから考えるように視線が上方に泳いで、ああ、と呟く。

「そうだよね、ごめん。またやっちゃったか。アタシ、研究バカ(ジャンキー)でさ、よく人のこと怒らせちゃうんだよね。不快にさせるようなこと聞いて悪かった」

 リザは笑みを引っ込めて、ぴしりと立ってから頭を下げてきた。


「ジャンキーって……こんな所に縛られててもか?」

「うん。好きなことをやらせて貰えてたからさ、正直あんまり不満なかったんだ。おかしいよね。本当、悪かったよ」

 本当に悪いと思っていそうな顔だった。クロエは今になって、ヴァンテが彼女のことを〝変人〟と呼んだことを納得していた。悪人ではないが共感能力に欠けているし、好きなことの為に何でもやる奴だ。自覚はあるらしいのが、また厄介だった。


「ねえ、アタシもキミ達の反乱に付いていってもいいかな? 邪魔にはならないよ、こう見えてそこそこ動けるんだ。ここ数百年の軟禁でちょーっと鈍ってるかもだけど!」

「ええ? まあ、いいけど。換装身体、ちゃんと偽造№のやつにしてくれよ?」

「あ、アタシ、生身のままだからいらないんだよね。あっでもI№の情報は差し替えないといけないな、行ってくる!」

 了承するやいなや、リザは急いでサティ達のもとへ駆けだしていく。

 

「生身? ……声が若いけどな。でも数百年って……」

 クロエは首を傾げたが、今は考えずにおく。ヘレンも心配だが、下層階やボスは大丈夫だろうか。湧き出る不安に押し潰されそうだった。ロボットに身体を縫われても眠ったままのヘレンを見る。無事に戻ってきてほしい。そう思わずにはいられなかった。






 同時刻、下層階。

 2回の爆発のあと、下層階西側のスラムエリアで2つの勢力が対峙していた。住民たちは爆発によってロストラエリアに集中しており、巻き込まれる心配はない。

 ボス、アウリス、腕を縛られたまま連れられるアナスタ。1ブロック分の距離を開けて、ノフィア、少数精鋭の軍部隊。両者は睨みあっていた。屈辱に耐えかねたのだろう、アナスタが舌打ちする。


「俺はまだ解放していただけそうにない? それとも、ここで殺す気ですかね?」

「なワケねぇだろ、返すってアタシが言ったんだからよ。まあ、ちょっと待ちな」

 ボスはそう答えてやるが、内心そろそろ限界だな、と思っていた。これは時間稼ぎだ。クロエ達がヴァンテの仲間を救って合図を送ってくるまで、戦いになることを避けるためだった。


(早くしろ……まだか? クロエ)

 ボスが奥歯を噛みしめていたその時、1発の銃声が響いた。どこからか撃ちこまれた銃弾はアナスタを縛る縄を掠り、彼の拘束を解いたのだ。


「あぁ? ……はは!」

 自分が逃げられることに気付いたアナスタは、縄を引きちぎってからボスへ殴りかかろうとし、咄嗟に護衛たちが車椅子ごと引き寄せた。その間にボスが周囲へ視線を巡らせるが、銃弾を撃ったのが誰かはすぐに分かった。

 上層階からの飛行輸送機。スラム上空に留まったその中から、兵士の援軍が降りてきていた。軍部はついに、本腰を上げて仕掛けてきたのだ。

「キャンベル! あの赤眼女のせいで、捕まっちまうとは予想外でしたが、これで思う存分やり合えますねぇ!」

 アナスタはボスを仕留め損ねても気にする風もなく、嬉しそうに言った。ノフィア達のもとまで走って退いていく。


「ちっ、予想外に早まっちまったね! アウリスは家屋を盾にして戦え!」

「了解!」

 護衛達に車椅子ごと引っ張られながら、ボスが指示を飛ばす。アウリスとノフィアの銃撃戦が始まった。






 下層階よりさらに下。地下廃墟層内、研究所。

 ヴァンテもまた上層階からの知らせを待っていた。彼の身は、上層階フォロ・ディ・スクラノ内の研究所に軟禁されている仲間の命により、縛られている。仲間が解放されることが、ヴァンテが自由に行動する絶対条件だ。


『報告、エリア4で発生した火災を対処完了。原因は爆発物への引火。軍部へ報告を上げますか?』

『いや、いい。ご苦労様』

 環境維持ロボットからの伝令に、ヴァンテは頭の中で応える。報告を上げようが上げまいが、総督は自分の反攻に気付くだろう。きっと仕掛けてくるはずだ。


 そのとき、何かが資源分解槽に向かって落下してきて、大きな音を立てた。見覚えのある()()()()。上層階で捕らわれていた仲間たちの使っていた換装身体、これが合図だ。ヴァンテはすぐさま駆け出して、研究所内を全力で走り出した。


『ディー! 分解槽の濃度50%増加! リュアとニンフは遷移エレベータ前で待機。バンシ、戦闘準備。ピグ、下層階エリア6に通じる天井を開口!』

『了解しました』

 走りながらも思念を通じ、廃墟層の支援ロボット達に指示を飛ばす。普段は廃墟層の生活環境保全と研究支援を行っている機械達だが、以前から隠れて何機か命令を書き換えて準備をしていた。指示した通り、廃墟層の天井の一部──つまり下層階の底面が収納されていき、天地が通じる。


『ルフは落下死亡した人間の清掃。あ、もちろん銃火器類は資源分解槽に入れてね。サラはもし助かった兵がいれば収容。ハンはディーと連携してエルドリウム絞っといて。ヴィラ、例の兵団よろしく』

 ヴァンテは指示を投げながら走っていたせいか、一瞬足元が縺れて転げそうになるのを踏み留まった。長年の運動不足が祟ったな、と後悔したが、必死に足を進める。一秒でも早く、上層階へ急がなければ。

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