映研カップルの鎹となった駆逐艦三日月
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
交際相手でもある映研の後輩を実家に上げた時、彼女が真っ先に注目したのは棚に飾っていたプラモデルだった。
「へえ…睦月型十番艦の三日月とは渋いですね。あの角張った艦橋は竣工当時の仕様でしょう。」
「樟葉君は詳しいね。艦橋や兵装を一瞥しただけで艦名と時期を正確に当てられるなんて。」
溜め息を漏らしながら感心する僕に、映研の後輩は誇らしげに胸を張るのだった。
「当然ですよ、枚方先輩!何しろ私の父方の御先祖様は帝国海軍主計将校なんですからね。にしても、先輩?1/300スケールで艦底も再現されている三日月のプラモを飾るとは、御先祖様に関係者でも?」
「そういう訳じゃないけど、これは僕にとって思い入れ深いプラモなんだよ。」
そう言って僕は三日月を手に取ると、艦底部分を示したんだ。
「へえ…このプラモ、モーターライズなんですね。」
「小学校の友達に社長令息がいてね。彼の家にはプールがあるから、戦艦や潜水艦のプラモやラジコンで一緒によく遊んだんだ。この三日月も小学校の時に作ったんだ。」
そうして改めて手に取ると、小学校時代の思い出が鮮明に蘇ってくるようだった…
艦船のプラモに興味を抱いた発端は、社長令息の持つ豪華な長門のラジコンに憧れた事だった。
お小遣いを握り締めて模型店へ走ったものの、予算と在庫の都合で古い睦月型のモーターライズを買うのが精一杯だった。
それにもめげず、当時は未発売の三日月に改造出来た時は本当に嬉しかった。
そんな僕の思い出話を、彼女は面白そうに感心しながら聞いてくれたんだ。
「成程、この三日月は先輩の思い出のプラモなのですか…どうです、先輩?これで特撮映画を撮ってみては?メンテ次第では往時の輝きを取り戻すかも知れませんよ。」
「それは良い、樟葉君!」
後輩の提案を、僕は一も二もなく受け入れたんだ。
モーター交換や再塗装で見事に蘇った三日月は、他大学とのコラボで製作した特撮映画で堂々たる復活を遂げた。
怪獣迎撃に赴く機動艦隊の旗艦という華々しい役周りは、脚本の原案を出した樟葉君の提案だった。
子供時代の名残だった三日月のプラモは、やがて僕と樟葉君の交流を育む媒介となっていたんだ。
僕の思い出話を聞きながら、娘の京花は駆逐艦のプラモをしげしげと見つめていた。
「要するに…あの駆逐艦三日月は、お父さんとお母さんの鎹になったんだね。」
そうして笑う娘の小脇には、伊号潜水艦のプラモが大事そうに抱えられていたんだ。