天叢雲剣
エリアボスを討伐したことで、密室は崩れ去った。デュランティは【八束の顎】をすぐにしまったが、俺は明らかな異変を感じた。
雑魚モンスターどもがどんどん逃げていくのだ。エリアボスを倒したくらいで、普通こんなことにはならない。何の予兆だ?
すると、眼前にメッセージが表示された。
【我をヨルムンガンドと知っての狼藉であれば、他のドラゴンロードとて容赦しない】
「これは……」
「まずいな。確かドラゴンロード間では不可侵条約が結ばれているとのゲーム内設定があった。さっきの【八束の顎】が、ヨルムンガンド領への侵攻と見なされたのかもしれない」
「何それ! そんなユニークシナリオ解除しときなさいよ!」
確かに。運営は何を考えているのだろうか? ドラゴンロードが襲名されたときのための、とっておきの設定だったのか?
「ヨルムンガンドが報復措置をしてくる。俺たちがドラゴンロードだとバレる前に、他の領内に逃げないとまずいな」
「じゃあさっさと行きますか。左隣のファフニール領が近い!」
デュランティの提案を合図に、俺たちは走り出した。
見ると、天を衝くほどの巨人が、四方八方からこちらへ向けて行進してきていた。これが報復措置か。それにここは平坦な道ではない。崖や丘、山脈が立ち塞がっている、早くしないと逃げ場がなくなる。
「もうどうせスキル隠しても仕方ないでしょ。ここでは」
「それもそうだ。ハッカーはここにはいないようだしな」
「じゃあ私が道を開く。スキル【天叢雲剣】!」
デュランティが合掌すると、間に光剣が形成された。
「ぶっ壊れろ!」
そう叫んで剣を振るうと、オブジェクトにすぎない山や丘はたちどころに消し飛ばされ、大穴が穿たれた。
「モンスターやプレイヤーにはダメージを与えられない代わり、その他オブジェクトなら好きなだけ破壊できるスキルよ」
「すごいな。もはやマップ改変も可能じゃないか」
ヤマタノオロチのスキル、有能過ぎだろ。
俺たちは生み出された一本道を駆け抜け、どうにかファフニール領内に逃げ込んだ。宿屋でセーブし、俺たちはようやくログアウトできた。