ハッカー集団AVOID
格上のモンスターを倒しまくり、俺たちはどうにか10までレベルを上げた。
「結構キツイな」
「これ、一旦ログアウトした方がいいんじゃない?」
今まで毎日平均11時間、雇用後も最低8時間はプレイしてきた俺にとっても、かなり精神が削られる苦行だった。
「そうだな。今日のところは一旦撤退しよう」
「じゃ、また明日」
ようやくVRヘッドギアを外し、俺はベッドから起き上がった。
スマホを確認すると、運営からのメールが来ていた。
『ハッカーを倒し、強制ログアウトに成功した場合は、ボーナスとして8000万円を支払う』
とのことだった。随分な熱の入れようだな。
実際、国際ハッカー集団AVOIDについてネットで調べると、相当な悪党であることが分かった。金融機関はもとより、有名な決済サービスを停止させたこともあるらしい。不可解とされているのが、AVOID 自身は利益を得ようとしていないことらしい。過去のどのハッキング事件においても、電子マネーや金品、金融資産が盗み取られた痕跡はなかったそうだ。つまり、被害ゼロ。
「なんのためにそんなことを?」
俺は思わず呟く。
国際社会から共通の敵と見なされるリスクを犯してまで、何を成し遂げたいのか? まさか、自分のITスキルを誇示するためではないはずだ。
ドラゴニア・マスカレードに、わざわざプレイヤーとして入り込んだ理由も気になる。なぜ、そんな手法を取ったのか?
おそらく、この二者は同じ理由によるものだ。
わざわざオンラインゲームを選び、プレイヤーとして潜伏した理由は、AVOID の真の目的に通じているはずだ。
「なんにせよ、ワクワクしてきたな」
どんなチートを使ってくるのだろうか? ゲーム空間にいる以上は、無茶苦茶なチートはできないはず。それならば、ラスボスの俺たちで十分対抗できる。
サラリーマンゲーマーであることに変わりはないが、退屈な雑魚狩りよりはよっぽど楽しめる。
俺はさらなる冒険に心踊らせ、眠りについた。