レベル1からの再出発
「レベル1からとはな……」
いきなり荒野に飛ばされた俺たち二人は、初期ステータスかつ初期装備になっていた。だが詳細を確認すると、確かにドラゴンロードとしての能力は受け継がれているようだ。
ダメージ9999以下の攻撃を無効化するユニークスキル【竜王の鱗】。
発動すれば1秒につき500ポイントずつ相手のHPを削る地形効果【毒竜の玉座】。
その他、ドラゴンロードとしての正体を隠すための様々な効果が付与されていた。
もちろん、ドラゴン形態に変身することもできるようだ。だが、それは最後の手段だな。
「レベル1だとしても、別に気にするようなことではありませんよ」
【バロンヌープ】は何でもないことのように言った。甲冑を纏った女戦士からは、表情は読み取れない。
「また1からやり直せばいいだけです。せいぜい、このゲームを金づるとして利用してやりましょう!」
「あ、あぁ。そうですね」
俺は本気でこのゲームに熱中していたのだが、こいつは投資対象としか見ていないのか。まぁ、これだけの大金が動くゲームなら、そんなユーザがいても不思議ではないが。むしろそっちの方が多数派だろう。
「まずは初心者のふりでもしましょうか。ドラゴンロードとしてのスキルは、奥の手として隠し持っていた方がいい」
「そうですね」
初期装備なので、アラモードに会ったとしても、俺だと分からないだろう。ユーザ名まで勝手に変わっているからな。
「これからよろしくお願いいたします、【レカミエ】さん」
ドラゴンロード【2代目ニズヘグ】になった俺は、【レカミエ】という初心者プレイヤーになりきり、ハッカーを駆除することとなった。
「それにしても、ハッカーなんて運営側で強制退会させられそうなものですけどね」
【デュランティ】はそう疑問を投げかけた。どうやら、【バロンヌープ】のユーザ名も変わっているようだった。
「ニュースを見ていないのですか? AVOID は世界中の決済システムや、金融機関の勘定系システムを破壊している悪質なハッカー集団ですよ? ゲーム会社のサーバーで好き放題するくらい簡単なことです」
「そうだったんですか」
つまり、サイバー攻撃でいくらでも金を盗み放題というわけだ。ならばなぜ、わざわざゲーム内にプレイヤーとして侵入したのだろうか?
金目当てなら、そんな回りくどいことをしなくても済むはずだ。
「何が目的なんでしょうね?」
「金ではない何かのためでしょうね。ですが確かなのは……」
【デュランティ】は両手の拳を突き合わせた。
「私たちの神聖なゲーム空間をチートで汚した以上、必ず成敗されるべきということです!」
「違いない」
こうして、ドラゴンロードの身分を隠したまま、二人旅が始まった。