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2代目【ニズヘグ】襲名

 俺こと宮城紫水は、ゲーム以外には何もない人生を送ってきた。


 勉強や運動は当然やる気になれない。人付き合いやバイトなんて論外だ。


 ゲームだけが俺のやる気を引き出してくれる。


 だから、VRMMO【ドラゴニア・マスカレード】には、この1年間の全てを捧げてきた。高校はサボり、不登校の引きこもりになって、プレイ時間を捻出した。


 親にはとうに見放され、養育放棄されたが、関係ない。【ドラゴニア・マスカレード】はボスキャラを倒す度、賞金が出る。それでどうにか食いつないだ。


 ソロプレイを極め、周りから一目置かれるようになった頃、ようやく仲間ができた。なんでも、27歳にしてプロゲーマーを目指しているらしい。彼は【アラモード】といった。


 俺もゲームで食っていけたらと思っていた頃、ラスボスキャラ、【ドラゴンロード】に関する情報が解禁された。

 

 世界各地の伝説や神話に登場するドラゴンの名を冠するボスキャラが、9体、待ち構えている。倒せば1000万円。やらない手はない。


 攻略法を考えていたとき、アラモードは言った。


「話を聞く限り、俺には倒せない。シスイ、お前がやれ」

 

 仲間の期待を背負い、俺は全力で情報収集に徹した。慣れない人付き合いにも参加した。レベルなど、とっくにカンストしていた。装備もスキルも召喚獣も、全てを完璧に揃えた。


 そして遂に、ドラゴンロードの一角、毒竜【ニズヘグ】討伐予定日が来た。2036年12月1日だった。


「露払いは俺がやる。ニズヘグはお前一人で殺せ」


 アラモードはそんな頼もしいことを言ってくれた。


「俺は二代目ニズヘグになって稼ぎ続ける道を選択する。賞金は受け取らない。だから、お前と会うのはこれで最後だ」


「おうよ、プロゲーマーになるのはお前が一足先ってわけだな。待ってろよ。すぐに追い抜いてやる」


 二人とも、俺が負けることは想定していなかった。


 世界樹ユグドラシルの番兵をアラモードが全て斬り伏せ、俺は無傷でニズヘグの玉座に入った。


「じゃあな。シスイ。楽しかったぜ」


「あぁ、俺もだ。すぐに上がってこいよ」


 そう告げて、俺はボス戦に挑んだ。

 

 ニズヘグの残りHPを示すゲージが10本表示される。10万ポイント削らなければ、第一形態は倒せないというわけだ。


 玉座の間は、毒液と障気で満たされていた。絶えずダメージを削りにかかってくる。並みのプレイヤーなら10秒と持たず即死だ。だがこのときのために備えてきた。


 毒消し草はもとより、毒耐性のある装備、結界術スキル、回復スキル持ちの召喚獣、パッシブの自動回復スキル、状態異常対策魔法を準備した。


 だがそれでも、毒の効果を半減させることしかできなかった。


 だがそれでいい。1分とかけずに終わらせる。


 毒対策を全て発動させた上で、毒消し草を咥え、俺は走り出した。攻撃など、1つとして食らうつもりはない。パリィもしない。全回避で攻撃を当て続ける!


 ニズヘグの鱗は硬く、レア武器も瞬時に耐久値の限界に達し、武器は次々と砕けた。その度に、間髪入れず次の武器を出し、弱点部位への攻撃を続けた。


 40秒で10万ポイント削ったとき、第2形態に変身した。


「遂に来たか。【竜人】!」


 鱗のある人間形態に変身したニズヘグは、恐るべき俊敏さで攻撃を繰り出してきた。


 第三形態もあるかもしれない。だからといって、出し惜しみするつもりはない。


「【ケイローン】! 今をもって契約解除する。自爆しろ!」


 長年連れ添ってきた半人半馬の召喚獣に、俺は無慈悲な命令を出した。


「御意のままに」


 ケイローンはニズヘグに飛びつき、爆散した。

 

 残り3万ポイント。全力で削る!


 もう手持ちの剣も少なくなってきた。弓と槍を使うか。


 どんな優れた矢でも、あの鱗は貫通させられない。だから俺は、スーパーレアの槍を、立て続けに強弓で射った。


 弓の弦は槍二本分しか持たなかったが、どうでもいい。次の弓だ。


 次の弓、次の弓、次の弓。


 次の槍、次の槍、次の槍。


 次の拳、次の拳、次の拳。


 立て続けに拳を叩き込んでいた俺は、ニズヘグがとうに息絶え、第三形態にはならずに死んでいることに気が付かなかった。


 見上げると、祝福のメッセージが浮かんでいた。


「勝ったか」


【賞金を受け取りますか? あるいはドラゴンロードを襲名しますか?】


 俺は迷いなくシステムの問いに答え、このゲームのラスボスとなった。

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