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第18話 不幸になるとは限らない

 

 シャールは単純なマリアベルを見て、くすりと笑った。


「それでどうしようって言うんだい?」

「もちろん、邪魔するに決まっているわ!シャールも手伝ってくれるでしょう?」

「え・・・嫌だよ。人の恋路を邪魔するなんて。それにクララがだれを好きになっても、いいじゃないか」

「よくないわよ。不幸になると分かっていて黙っていられないわよ」

「不幸になるとは限らないだろう?」

「本当にそう思っているの?」

「思っているよ」

「だって相手は王太子なのよ?クララの恋が実るわけないじゃない。もし実ったって、クララが王太子妃になんてなれる?」


 シャールはあきれたようにマリアベルを見た。


「言ってることおかしいよ。実るわけないなら邪魔する必要ないじゃん」


 マリアベルはすねたように唇を尖らせた。


「だって・・・アルフレッドはどうするのよ」


 アルフレッドがもうずいぶん前から妹のクララベルを特別な感情で見ていることはシャールも気が付いていた。

 成人してそろそろ結婚を急かされる年頃になっても、婚約者の選定すら拒否しているのは、クララベルの存在が関係しているのだろう。

 戸籍上は兄妹だが、実際のところは従妹。

 父のシモン侯爵が許可すれば、結婚できないこともない。

 そして、そのアルフレッドをマリアベルが気にしていることも、シャールは敏感に感じ取っていた。


「兄さんは関係ないだろ。クララが誰を好きになろうとクララの自由さ。それは兄さんにも、お前にも止められない」

「でも、」


 何か言いかけようとしたマリアベルをシャールは遮った。


「クララの気持ちはクララのものだよ。マリアの気持ちを押し付けちゃいけない」


 マリアベルは一瞬黙ったが、すぐにキッとシャールを睨み力強く宣言した。


「クララとわたしは一心同体だもの!絶対に王子様との恋なんて許さないんだから!」


 来た時と同じように突然去って行く。

 シャールは無造作に前髪をかき上げ、大きくため息をついた。


「なんなんだよ、もう…」



 ◆◆◆



 クララベルに嫌がらせを行ったのはマノン・ジラールを筆頭に5名で、全員がジラール侯爵家の家門の者だった。

 ヴィクトル・ジラール侯爵はシモン侯爵家から正式な抗議文が届く前に謝罪に訪れた。


「娘が大変申し訳ないことをしました。クララベル嬢に怪我はなかっただろうか。心痛で倒れたと聞いたが、その後いかがか。娘をわがままに育ててしまった私の責任だ。申し訳ない」


 そう言って頭を下げた。

 彼の前には、マクシム・シモン侯爵が厳めしい顔で座っている。

 もともとジラール家とシモン家は対立しているわけではなかった。

 武のジラール家と文のシモン家は、付かず離れず、程よい距離で付き合いながら共に王家を支えてきた歴史がある。

 ここで甘い顔をすればなめられてしまうが、かといって関係を悪化させるつもりもない。


「ヴィクトル殿、謝罪は受けよう。しかし、無条件で許すことはできない。今後またクララベルに危害を加えられては困る。二度と娘にかかわらないと約束してほしい」

「もちろんだ。二度とクララベル嬢に危害を加えることがないようにする。それはマノンだけでなく、うちの家門すべての者たちについてもだ」

「信用してもいいのかな」

「厚かましい願いだが信用していただきたい」


 ヴィクトルはせめてもの誠意の表れとして相応の慰謝料も提示した。


「そちらに瑕疵があったことの証明のために、慰謝料は受け取らせてもらうよ」

「ああ、そうしてくれ」

「両家の間で解決済みということをこちらから王家に知らせておこう」

「温情に感謝する」


 ヴィクトルは深々と頭を下げてシモン侯爵邸を辞した。

 結果としてシモン家に借りを作る形で、マノンは退学を免れた。

 しかし、取り巻きの下位貴族の令嬢たちは退学し修道院へ送られることになった。

 身分が上の者への暴力行為ということで、厳しい結果となってしまった。

 令嬢たちが罰を受けなければ、王族への偽証罪で家自体が降格となるか、下手をすれば取り潰しである。

 一家の主たちは、すぐさま娘を修道院へ送ることを決断し、家を守ったのだった。


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