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第13話 意外とお茶目

 

「シモン侯爵令嬢様、大丈夫ですか?」

「えーと?」

「わたくしはベルトラン伯爵の娘ポーリンでございます」

「ベルトラン伯爵令嬢様、ご心配ありがとう。以前どこかでお会いしましたかしら」


 マリアベルはにっこりとほほ笑んだ。


「ええ。シモン侯爵令嬢様の初めてのお茶会に参加させていただいていましたわ。わたしくは途中でお兄様のシャール様とお庭を散策に席を立ってしまいましたので、あまりお話はできませんでしたけれども」


 それでマリアベルは思い出した。

 あの時シャールが選んで連れて行ったかわいらしい伯爵令嬢は、ポーリンだったのか。


「思い出しましたわ。シャールお兄様は見る目があると思ったのよ。あの意地悪なジラール侯爵令嬢なんかを選ばなくて」

「いえ、わたくしが選ばれたわけではなかったのですよ。シャール様はお庭を見せてくださりながら、ずっとクララベル様のことばかり気にされていましたわ。優しいお兄様ですわね」


 思わずマリアベルは白目を剥く変顔を繰り出してしまった。


「きゃ!シモン侯爵令嬢様!大丈夫ですの?」


 ポーリンが慌てた声を出す。


「あ、ごめんなさい。思わず持病が出てしまいましたわ。シャールお兄様のことを考えると白目を剥いてしまう病気なの…。おほほほ」


 ポーリンは唖然とした表情を見せたが、すぐに気持ちを立て直してくすっと笑った。


「シモン侯爵令嬢様は意外とお茶目ですのね。ご身分が高いので、わたくしなんかが話しかけてはいけないかしらと心配していたのですけれども」

「そんな、全然話しかけてください。嬉しいですわ。それから、わたくしのことはクララベルと呼んでください」

「よろしいのですか?ではわたくしのこともポーリンと」

「ええ、そうさせていただくわ」


 教師が教室にやって来て授業が始まると、二人はおしゃべりをやめた。

 昼休みに一緒に昼食を食べる約束をして、ひとまずは授業に真面目に取り組む。

 お待ちかねの昼食は、中庭で食べることにした。

 二人が中庭へやって来た時、一人の女生徒が地面に落ちたランチボックスを泣きながら拾い集めているところだった。

 クラスは違うが、同じ一年生の様だ。


「まぁ、どうなさったの?」


 マリアベルはすぐさま女生徒のもとに駆け付け、散らばってしまった料理を片付けるのを手伝った。


「すみません…!ありがとうございます」

「いえ、いいのだけれど、どうなさったの?」

「…」

「これでは食べられないでしょうから、わたくしのサンドイッチを一緒に食べませんか?」


 シモン侯爵家のシェフが、心を込めて用意してくれたランチボックスには、ローストビーフのサンドイッチや生ハムとチーズのサンドイッチが多めに入っている。


「そんな、いただくわけには…」

「いいの。たくさんあるから、一人では食べきれないと思っていたのよ。一緒に食べてくれれば残さずに済むし、わたくしも助かります。さ、こちらに座っていただきましょう?」


 マリアベルは近くのベンチに女生徒をいざなった。

 マリアベルとポーリンの間に座り、ポーリンが差し出したハンカチで涙を拭いた。


「ありがとうございます。あの、お名前を聞いても?」

「ええ、わたくしはクララベル・シモンよ」

「わたくしはポーリン・ベルトラン。あなたは、もしかしてゾエさん?」

「はい、そうですが。私のことをご存知なんですか?」

「有名だもの。平民出身の大変優秀な女生徒がいるって。将来は初の女性官吏になるのではと噂されているのよ」


 平民と言っても、ゾエの家は王都で名を馳せている大商会で、財力も影響力も持ち合わせている。


「それほどでもありませんし、官吏になりたいとも思っていません」


 ゾエは暗い顔でそう答えた。

 そんな噂も手伝って、平民出身で優秀なゾエを面白く思わない連中が、からかい半分でランチボックスを奪って放り投げたそうだ。

 それを見ていたクラスメイトたちも、クスクスと笑っているだけで、誰も諫めたりはしてくれなかったらしい。


「信じられないほど低俗な連中がいるのですね。食べ物を粗末に扱うとは、天罰がくだりますわ」


 マリアベルは自分のことのように腹を立てた。

 かつて焼けつくような空腹を経験したからこそであった。


「クラスが違うのでずっと一緒にはいられませんが、こうしてお昼は一緒に食べられますわ。わたくしはこう見えて侯爵令嬢ですから、そうそう周りもわたくしに無礼を働くことはできません。わたくしと友達だと知らしめれば、きっと嫌がらせも減りますわ」


 マリアベルはゾエを励ますように、力強くそう言った、のだが。


 翌日から、クララベルはいくつもの嫌がらせを受け始めた。


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