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結局のところ僕は人を殺したくてたまらない奴だった。感情的でカッとしやすく思いつめやすい。過剰に倫理的でこれしかないと思い込んだら人にそれを押し付ける。しかもなまじ環境に恵まれたために正しさを装うことも得意だった。少なくとも、「僕は何か間違っていますか」と言えるだけの理論武装を備えることは幼くもぜったいにかかさなかった。しかし翻ってみればそれは間違った時にとことん破綻してしまう人生だったということだ。
いまはこんな文章を書いて、書き連ねて、被害者の帰宅しないことを訝しんだ家族や友人によって捜査機関がこの家を発見されることを座して待つ心持である。
まあいくら我らが国の捜査機関が優秀とはいっても、エスパーじゃないのだからこの文章を書ききるくらいの時間はあるだろう。もし書ききれなかったら、その時は仕方がない。潔く筆を折るしかない。案外そのあと機会が訪れるかもしれないしね。獄中作を書く時間は、たっぷりあるに決まっている。