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第七話 攻略内定


 翌日。


「テオ! 左から来るわ!」

「見えてる! 動きを止める!」


 森の中で声が響く。

 左の木々の奥から爆音と共に巨大なアルマジロが転がってきた。

 カテゴリー6に分類されるモンスター、スラッシュマジロだ。

 体中についている鋭利な棘が、回転の破壊力を倍増させている。

 まともに受け止めれば吹き飛ばされる。

 といって、止めなきゃ手出しができない。

 だから。


『弱撃魔法――レベル2――フラジャル』


 初歩的な弱体化魔法。

 生物以外の構造を少しだけ弱めることができる魔法だ。

 つまり、脆くすることができる。

 しかし、圧倒的魔力を誇る淵王が発動したならいざ知らず、呪印で魔力が制限されているG級付与魔導師のそれでは、本当に多少脆くすることしかできない。

 だから。

 俺は足元の地面にフラジャルを重ね掛けした。それも五回。

 多重発動と呼ばれる〝技術〟だ。そこに魔力の多さはあまり関係ない。どれだけその魔法に理解があるか、発動までに慣れているか。そういうところが大事になってくる。

 それを食らった地面はだいぶ脆くなった。

 突っ込んでくるスラッシュマジロに対して、俺は横に飛ぶ。

 小癪な魔導師を追おうと、スラッシュマジロが方向転換しようとした時。

 その圧に耐え切れなかった地面が陥没した。

 それによってスラッシュマジロの動きが一瞬、止まる。


「今だ!!」

「はぁぁぁっ!!」


 良く通る声と共にリネアがスラッシュマジロのほうに跳躍した。

 スラッシュマジロの頭上に到達すると、リネアは鋭く研がれた細剣を振るう。

 魔法を使わない、純粋な剣術による目にも止まらぬ神速の三連撃。

 硬い外殻に覆われているスラッシュマジロだが、いくつか小さな隙間が存在する。

 動きが止まったとはいえ、そこを寸分たがわず切り裂いた。

 血を吹き出し、スラッシュマジロがその場で大きな音を立てて崩れ落ちる。

 スタリと着地したリネアは、スラッシュマジロが無力化されたことを確認すると、俺にピースサインを向けてきた。


「さすがテオね!!」


 倒したのはリネアだ。

 動きを止めることなんて、ある程度の冒険者なら誰でもできる。

 けど、リネアは快活な笑みを浮かべて、まるで俺しかできないかのように振る舞う。


「さすがなのはそっちだろ? 一撃で仕留められる剣士なんて滅多にいないぞ?」

「テオが動きを止めてくれたからよ」


 あれだけ華麗な動きをされたあとに、褒められると嫌味にも聞こえそうだが、不思議とそういう不快感はない。

 本心からそう思っているというのと、気分が良くなる笑顔のおかげだろう。

 正直、心地よいと感じる。そういう雰囲気を作るのがリネアは上手いのだ。

 そんな会話をしていると、横から大きな音が聞こえてきた。

 今回のクエストは二体のスラッシュマジロの討伐。

 一体は俺たちが倒した。

 もう一体は他の三人の担当だ。


「こっちも終わったよ~」


 呑気な声が気の向こうから聞こえてきた。

 そちらを見ると、全身をしっかりとした鎧で包み、大きな盾まで持った完全装備のガロンがいた。

 そんなガロンの後ろからあくびをしながら、ジャンが現れた。


「楽勝だったな」

「テオの作戦が上手くいったね」

「ああ、二体のスラッシュマジロを相手にするより、分断して足止め役と攻撃役のチームで戦ったほうが時間短縮になる。的確な良い作戦だった。なにより攻撃役が楽なのがいいぜ」

「僕ら足止め役の苦労の上で成り立っているってことを忘れないでね?」

「わかってるっての。そうだ、リネア。仕留めるのにどれくらい手数をかけた?」

「手数? 三かしら」


 リネアの答えを聞き、ジャンはニヤリと笑う。

 そしてドヤ顔を浮かべて。


「俺は……一撃だったぜ!」

「そう、よかったわね」

「反応薄過ぎないか? いくらなんでも。聞こえてたぞ? テオのことはめちゃくちゃ褒めてただろ?」

「テオは作戦も考えてくれたし、的確な足止めだったもの。スラッシュマジロは動いているから厄介なんであって、止まれば大した敵じゃないわ。褒められるべきは足止め役よ。それに……ミシェル。本当のこと教えてもらえる?」

「ほぼ嘘です。最終的に弱ったスラッシュマジロを一撃で沈めましたが、放った矢に関しては五本ですね。ガロンと私で何度も誘導しているのに、仕留めきれないから長引きました」

「おい!? 言うなよ!? それに嘘はついてねぇぞ!?」

「パーティーリーダーに事実を報告しただけです」


 ジャンはミシェルの裏切りに騒ぐが、ミシェルはどこ吹く風だ。

 そんなジャンをガロンが宥める。


「まぁまぁ、討伐できたし、それでいいでしょ」

「良かねぇよ! リネアと俺、どっちが頼りになるかって勝負なんだ!」

「そんな勝負した覚えはないけど……じゃあテオに決めてもらいましょう。テオは、私とジャン、どっちが頼りになる?」


 小さく笑いながらリネアが訊ねてくる。

 少しイタズラめいた笑みだ。

 俺を困らせようという魂胆だろう。

 けど。


「どっちも頼りにしてるよ。そもそも弓と剣で比べても仕方ないだろ?」

「あれ? 上手く躱したわね」

「テオ、面倒なら面倒と言ったほうがいいですよ」

「テオはそんなこと言いませーん」


 ミシェルの発言に対して、リネアは軽く舌を出して反論する。

 ミシェルは冷たい目でリネアを見つめるが、リネアはそんな目から逃れようと、スッと俺の後ろに隠れた。


「はぁ……先が思いやられますね」

「それでも上々の戦果だし、いいんじゃない。最初にしては上出来だ」


 俺の言葉にミシェルも小さく頷く。

 上々の結果にみんな満足気だ。なにせこれはこのパーティーでの初陣だ。いくら幼馴染とはいえ、十年で考え方や実力も大きく変わっている。連携が取れるか不安だったが、結果は問題なかった。

 全員がしっかりと周りのことをわかっている。まるでずっと一緒に戦ってきたかのような連携を見せられた。

 収穫は大きい。

 カテゴリー6モンスター二体の討伐。

 それなりに難易度の高い任務ではあるが、パーティーメンバーの実力を考えればそこまで難しくはない。

 その冒険者を束ねる冒険者ギルドが設定しているランク区分は最下位がG級で、最上位がS級の十段階。

 G級はカテゴリー1のモンスターに対処できるレベルであり、S級はカテゴリー10のモンスターに対処できると設定されている。あくまで目安だが。

 それをそのまま鵜呑みにして、ソロで立ち向かう奴はそうはいない。

 ソロでは不測の事態に対処できないし、モンスターにも個体差がある。だから冒険者はパーティーを組む。

 カテゴリー6モンスター二体の安全な討伐適性は、A級冒険者パーティーとされている。

 それに対して、我がパーティーはリネアがAAA級、ガロン、ジャン、ミシェルがAA級の高位パーティー。

 俺が大きく足を引っ張っているが、俺を除けば四人は現状、デビュタントでは最高位パーティーだ。

 もちろん結成した時点で、迷宮攻略筆頭だ。

 俺さえいなければ。

 足手まといを抱えている評判はデビュタント中に広まっている。

 朝、都市を出るときには相当噂されていた。

 まぁ、他人の言葉なんて気にはしないけれど。

 パーティー全体の評判に影響がなければいいのだけれど。




■■■




「見ろ、リネアのパーティーだ」

「雷撃魔法の天才……煌雷のリネアが迷宮攻略のために集めたパーティーか」

「一人を除いて、全員がAA級以上……」

「とはいえ、あの足手まといの呪印憑きがいるんだぞ?」

「成長の見込めないG級を抱えてちゃ、迷宮攻略は無理だ」


 デビュタントに帰ると、俺たちは注目の的だった。

 突然結成された高ランクパーティー。しかもそこにG級が混じっている。

 噂にしやすいネタではある。


「耳ざわりですね」

「相手にしちゃ駄目だよー」


 ミシェルが冷たい視線を噂話に興じている者に向けるが、ガロンがそれに釘をさす。


「肩書でしか計れない人を相手にしても時間の無駄だよ。ギルドが評価してくれれば、それでいいんだから」

「テオが馬鹿にされて悔しくねぇのかよ?」

「テオが悔しがってないのに、僕らが悔しがっても仕方ないでしょ?」


 ガロンが俺に視線を向けたため、パーティー全員が俺を見る。

 肩を竦めて、告げる。


「事実として俺はG級だし、うるさいなら結果で黙らせるだけかなって思ってる。肩書き以上に強いんだってアピールするよりも、そっちの方が早いだろうし」

「テオは大人ですね」

「そうでもないさ。代わりに怒ってくれてありがとう。ミシェル」

「……私が気に入らなかっただけです」

「ミシェル、もしかして照れてるの?」


 リネアがミシェルの顔を覗き込む。

 ミシェルはリネアに冷たい視線を向ける。

 そして。


「照れてなんていません」

「はい……」


 これ以上はまずいと思ったのか、リネアは肩を落として引き下がる。

 そんなこんなで、俺たちはデビュタント支部に到着した。

 リネアが中に入り、報告へ行く。簡単な報告だ。全員で入る必要もないだろうと思っていたが……。

 なぜかしばらく出てこない。

 四人で話しながら時間をつぶしていると、ようやくリネアが出てきた。

 そして。


「公式発表じゃないけど、私たちは五日後の迷宮攻略に内定だそうよ」

「どういう意味だ? さっさと決まりって言えばいいだけだろ?」

「ほかのパーティーへの配慮だそうよ。参戦できるパーティー数には限りがあるし、ギルドからするとやる気を落としたくないのよ」

「面倒なことだな。でも、決まったなら連携を高めるために、どんどん任務受けようぜ」

「馬鹿ですね。わざわざ内定出したのは、私たちがほかのパーティーの任務まで奪いかねないからです。今回の任務も、こんな短時間で終わる任務じゃないですからね」


 ミシェルの言葉にリネアが頷く。

 ギルドとしては、通常任務も大切だが、迷宮攻略に挑むパーティーの選出が最優先だ。そのために通常任務があるといってもいい。

 それなのに確定的なパーティーがすべての通常任務をこなしてしまったら、ほかのパーティーを選出できない。

 だから俺たちに内定を出したのだ。もう十分、という意味で。


「ってことは、俺たちは任務受けないのか?」

「そういうことね。まぁ、連携面の問題は話し合いで解決しましょ。勝負は五日後。目指すは最短攻略よ!!」


だんだん肩凝ってきた……(´・ω・`)


応援が力になりますので、よろしくお願いしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1つずっと気になってるんですが、なぜ主人公は呪印を付ける必要があるんですか?2話目で、呪印を付けることでパーティーを不自然なく組むとありますが、幼馴染がみんなAA級やAAA級な中一人だ…
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