第五話 パーティー集結
ギルドでの騒動のあと、俺たちは憩いの泉亭に場所を移した。
あそこでは目立ちすぎて、とても感動の再会とはいかなかったからだ。
「さて……とりあえず、久しぶり。ジャン、ガロン、ミシェル」
「久しぶり……じゃねぇよ! そんな簡単に済ませるな!」
赤髪の青年、ジャンが大きな声を上げる。
そして両手を広げて俺に抱き着いてきた。
「会いたかったぜ! テオ!!」
「大げさだな、ジャンは。相変わらず」
「僕も会いたかったよ、テオ」
「俺も会えてうれしいよ、ガロン」
俺は熊のような青年、ガロンにそう返しつつ、水色の髪の少女、ミシェルのほうへ目をやる。
無表情な彼女は、ジャンとは正反対。
感動の再会とは無縁の存在。
それでも。
「……元気そうでなによりです」
「うん、ミシェルも」
ミシェルなりに最大限の表現なんだろう。
昔から感情を出すのが苦手だったし、それは今でも変わってないらしい。
「というわけで、これで全員集合ね」
リネアは言いながら、俺を抱きしめ、感動に浸っているジャンを引きはがす。
「おい!? 感動の再会を邪魔するな!」
「テオが迷惑してるでしょ?」
「親友との十年ぶりの再会だ! 迷惑くらいがちょうどいいんだよ!」
「それは駄目じゃないかなぁ」
ジャンの主張に対して、ガロンがやんわりと否定する。
元々、俺たちは二つのグループだった。
一つはジャンとガロンのグループ。街でも有名な悪ガキだったジャンを筆頭に、子供だけの自警団を作っていた。
もう一つはリネアのグループ。貴族の娘だったリネアと、そのお付き兼親友だったミシェル。そしてリネアに連れまわされる俺。
最初はリネアとジャンの大喧嘩から始まった。
街のガキ大将を決める喧嘩だった。
死闘の末、リネアが勝ち、ジャンたち自警団はリネアの傘下に入った。
そうしてその自警団の中心人物、俺たち五人の幼馴染の繋がりは生まれたのだ。
「リネアの案内に従ってついてきたけど……いいの? お店の人は迷惑じゃない?」
ミシェルが疑問を口にする。
そんなミシェルの疑問に答えるようにして、アリスが厨房から出てきた。
「テオさんのお友達なら大歓迎ですよ! さぁ! 座ってください! 料理をお出しします! ただ、二階の宿は空きがないので、泊まることはできません!」
アリスは笑みを浮かべながら、全員分の飲み物を机に並べる。
そんなアリスを見て、ガロンとミシェルは目を見開く。
「うわぁ……すごい美人だね」
「そうですね……」
その反応は正常だろう。
アリスは本当に美人だ。滅多にお目にかかれないレベルの。
まぁ、容姿の美しさでいえばリネアも同等だろうけど、幼馴染というフィルターがない分、アリスの美貌への驚きはひとしおだったようだ。
ただ、二人は驚いただけ。
しかし、ジャンは違った。
「――美しいお嬢さん……お名前を聞いてもいいですか? 俺はジャン、冒険者をやっている弓使いです」
ジャンは流れるような動きで、アリスの前で膝をつき、そっと右手を取る。
あまりの鮮やかに止める気にもならなかった。
「いつから女好きに?」
「修行中に外界との接触を断ってたから、その反動で……美人を見かけると口説くようになっちゃったんだよ」
「それはそれは……うん? でも、リネアとミシェルは口説かなかったけど?」
「幼馴染は家族扱いだからね。姉や妹を口説かないでしょ?」
「納得」
ガロンのほうに近づき、事情を聞く。
激しい修行の代償ということか。
まぁ、気持ちはわからんでもないけど。
よりによってアリスを口説くとは。
「えっと……アリスといいます」
「アリスさん……なんて綺麗な響きだ……俺の心は今、感動で満ちています。幼馴染と再会できたばかりか、あなたのような美しい女性と出会えたからです」
「そう、ですか……」
「どうでしょう? 今夜、一緒にお食事で、も!?」
「やめなさい!」
軽くリネアに叩かれ、ジャンは現実に引き戻される。
「何すんだ!?」
「テオがお世話になってるお店の人に迷惑かけないで!」
「迷惑!? お前、それは偏見だぞ!? 迷惑でしたか?」
「それなりに。お料理を運ぶので、失礼しますね」
すたすたとアリスは厨房へと戻っていく。
振られたジャンは固まっている。
まさかこんなにあっさり振られると思わなかったんだろう。
「な、なんてことだ……」
「諦めて座りなさい」
「す、す、す」
「す?」
「素敵だ……!」
「十年という歳月は残酷ですね」
俺とガロンは同時にため息を吐き、その横でミシェルが冷たい目でそんなことを言う。
傍にいたリネアは心ここにあらずというジャンを机まで引っ張ってきて、座らせる。
「相変わらずトラブルメーカーね」
「テオを馬鹿にされたからといって、剣を抜こうとしていたリネアが言っても説得力はありませんよ」
「あれは! その……だって……」
ミシェルに痛いところを突かれてリネアが口を開けたり、閉じたりする。
上手い反論が思い浮かばないんだろう。
それからしばらく楽しい時間は続いた。
なにせ十年ぶりの再会だ。
話題は尽きず、夜はあっという間に更けていったのだった。