第二十四話 黒龍騎士
『氷滅魔法――レベル10――アブソリュート・ゼロ』
アリスの広範囲氷結魔法によって、周囲のモンスターたちが凍っていく。
そんな凍ったモンスターたちに追い打ちがかけられる。
『衝滅魔法――レベル10――クェイク・インパクト』
アリスのすぐ後に現れたウォルターが地面に拳を打ち込む。
それによって生じた衝撃が氷漬けとなったモンスターたちへと伝わり、モンスターたちは粉々に砕けていく。
それはダークネス・ドラゴンも例外ではない。
唯一、それを回避できたのはアリスの魔法による凍結を回避していた黒龍騎士だけだった。
「固有魔法……!? 迷宮攻略者か!? 何者だ!!」
黒龍騎士は突然、乱入していた二人に対して戦闘態勢を取る。
それに対して、二人は淡々と告げた。
「淵王四駿第二席……グランジェ」
「淵王四駿第四席。セギョール」
二人は自らの姓を名乗った。
名前より、そちらのほうが広まっているからだ。
それに対してリネアたちの反応はない。
二人は認識阻害の魔導具を身に着けているからだ。俺には効果のない物だが、二人には効果がある。
それによって、よくいく宿屋の店員だとはバレない。
まぁ、たとえそれがなかったとしても同一人物とはなかなか思えないだろう。
店員が淵王四駿とは。
「氷結のグランジェに衝撃のセギョール……淵王が誇る四駿のうち、二人も駆けつけるとはな」
黒龍騎士は剣を抜いて、二人に相対する。
そして。
「私の名前はバルリング。龍皇様より加護を授かりし、黒龍騎士だ」
黒龍騎士、バルリングは名乗りを上げた。
しかし、アリスもウォルターもそちらを見ていない。
二人は左右に数歩ずれ、そのまま何もない空間に一礼する。
そこに影が伸びていき、ゆっくりとその影から俺が現れる。
「直々のお越し」
「感謝申し上げます」
「「淵王様」」
二人は頭を下げたままそう言った。
その言葉と同時に俺は完全に影から抜け出した。
チラリと後ろを見ると、冒険者たちが啞然とした表情で俺を見ていた。
まさか側近の四駿だけじゃなくて、淵王が直々に来るとは思わなかったんだろう。
その先頭。
リネアはただ俺を見つめていた。
「ダークネス・ドラゴンに深手を与えるとはやるな? 倒せるとは思わなかったぞ」
「……けど、討てなかったわ……」
「挑むことに意味がある。結果は今の成果に過ぎない。未来の結果は自分次第。無理だと思うその先にこそ、得られる物がある」
そういうと俺は指を弾く。
すると、半透明の影が冒険者たちを覆った。
影の結界だ。
これで冒険者たちの安全は保障された。
「雑魚の相手は任せた。都市の市民はすでに退避させてある。遠慮せず、モンスターを狩れ」
「はっ」
「かしこまりました」
二人はそう言うと移動した。都市内に残るモンスターを掃討しに行ったのだ。
俺も遊んでいて遅れたわけじゃない。
俺はもちろん、アリスたちも都市内で動くには強力すぎる。
だから、市民は影で一か所に移した。
いきなり移動させられて、さぞや不安だろうが、きっとギルドの職員が頑張って落ち着かせているだろう。
だから。
「あまり時間がないんでな。お前の相手は俺がしてやろう」
「淵王……!!」
黒龍騎士バルリングは敵意をむき出しにしてくる。
当然だ。
人類の中で唯一。
明確に龍皇を傷つけられるのが俺だからだ。
「聖龍教団は慌てていたぞ? 黒龍騎士。悪くない計画だったが、詰めを誤ったな? 俺が来る前にすべてを終わらせるべきだった」
「余裕だな……? もう勝ったつもりか?」
「逆に聞くが、勝てると思っているのか?」
俺は龍皇に勝てないまでも、負けなかった。
龍皇から力を与えられた程度の黒龍騎士に負ける理由はない。
その質問にバルリングは笑う。
「貴様が言ったことだ。挑むことに意味がある! 私も限界を超えてみせよう!!」
そう言ってバルリングは策もなく、突っ込んできた。
それじゃあ特攻だろうと思いつつ、俺は影の刃でバルリングを攻撃した。
しかし。
魔法を発動させた瞬間。
バルリングはニヤリと笑った。
そして。
影の刃はバルリングの体に当たる前に、見えない壁に弾かれた。
「はっはっはっ!! 油断したな! 淵王! 私の加護は〝不可侵〟!! 貴様の魔法はもはや私には効かん!!」
高らかに告げるバルリングに対して、俺はため息を吐いた。
龍皇の加護は強力だ。
しかし、万能ではない。
さらにウォルターの魔法は避けていたところを見ると。
「無効化できるのは指定した一つの魔法だけじゃないか?」
「な、に……?」
「だとすれば相手が悪かったな。俺にはあと三つ、固有魔法がある。有名な話だと思うんだが……勉強不足だな? 黒龍騎士」
そう言って俺は右手を天高く掲げたのだった。




