第二十三話 対ドラゴン
試しにタイトル変えてみましたm(__)m
『雷撃魔法――レベル8――雷迅一閃』
リネアの一撃。
それを受けて、ダークネス・ドラゴンは少しよろける。
分厚い鱗を切り裂くまではいかない。
そのことにリネアは顔をしかめながら、一気に距離を取った。
相手はドラゴン。
油断すれば一瞬でやられる。
「リネア! みんな揃ってから戦うべきです!」
「そんな時間ないわ! せめて注意を引かないと!」
パーティーが揃っていても勝てるかわからない相手に、ソロで勝てるわけがない。
後ろに回復役のミシェルがいるとはいえ、限界がある。
しかし、リネアは状況を的確に把握していた。
「都市内にモンスターが溢れてる! このドラゴンを放置したら、そのモンスターにも対処できないわ!」
冒険者たちが続々とモンスターに対処しているが、最も目立つのがこのドラゴン。
それに気を取られていては、ほかのモンスターへ対処できない。
だからこそ、リネアが引き受けているということを見せなければいけない。
とはいえ。
「リネア!!??」
「っっ!!??」
ダークネス・ドラゴンは当面の敵をリネアに定めたようで、大きく体を回して尻尾を振るう。
長い尻尾が家屋を破壊しながらリネアへと迫った。
跳躍してリネアは避けようとするが、間に合わない。
咄嗟に剣でガードするが、尻尾による攻撃がリネアに掠った。
しかし、それだけでリネアは大きく吹き飛ばされてしまった。
「リネア!!」
ミシェルはリネアが吹き飛ばされた方向へと走っていく。
「うっ……」
「リネア!!」
半壊した家。
そこでリネアは倒れていた。
全身に小さな傷があり、体も強く打ったのか動くのも辛そうだ。
とにかく治癒魔法をかける。
すると、リネアがしゃべりだした。
「とにかく……動けるようにして……」
「無茶を言わないでください! 動けるようになったら下がりましょう!」
「私の……代わりはいないわ……」
「でも!」
「ここで死ぬなら……それまでよ……」
体を癒してもらったリネアは立ち上がる。
傷は癒えた。しかし、体へのダメージは消えてない。
体力は大きく消耗している。
それでもリネアはダークネス・ドラゴンを睨む。
「リネア!?」
「退いたところで安全な場所なんてないわ……隠れても何も得られない……何も守れない……ここで一秒でも時間を稼げば、都市内のモンスターをほかの冒険者が倒すわ……そうすれば……ほかの人は逃げられる……」
「死ぬ気ですか……?」
「あの日から……ずっと死ぬ気よ……死んだらそこまで……たとえ無理でも無茶でも……私は逃げない……あんなドラゴン相手に逃げてたら……龍皇を討つなんて夢のまた夢だわ……私にその資格があるなら……私は死なない……!!」
そう言ってリネアは剣を構える。
その決意を見て、ミシェルはリネアの隣に立った。
「それなら……付き合いましょう」
「いつもごめんね……」
「いいんです。あなたはいつも言い出したら聞かないから」
そう言うと、リネアとミシェルは走り出す。
ダークネス・ドラゴンはそれを見て、咆哮を上げた。
それだけで二人の足が少し鈍る。
ドラゴンの咆哮は人にとっては毒に等しい。
絶対的な生物としての差を思い知らされ、足が竦む。
それでも二人の足は止まらない。
ただ、ダークネス・ドラゴンを見つめ、走る。
その不遜さに対して、ダークネス・ドラゴンは攻撃を仕掛けた。
尻尾による攻撃ではない。
全身の鱗を発射するという攻撃だ。
予想外の攻撃。
隠れる場所もない。
咄嗟にミシェルを庇おうとするリネアだが。
「任せて!!」
『地撃魔法――レベル5――ロックウォール』
巨大な岩の壁が地面からせり出してくる。
しかも三つも。
それは鱗による攻撃によって削られるが、三重の壁だったため、その攻撃を耐え抜いた。
「ガロン!」
「チャンスだ! 行こう!」
「あいつの鱗は手薄だぜ!!」
鱗を発射したことで、ダークネス・ドラゴンの前面の鱗が減少していた。
驚異的な早さで鱗が生えてきているが、防御力は落ちている。
それを指摘しながら、ジャンがそこめがけて矢を放つ。
ダークネス・ドラゴンはその矢を腕で受けた。
「ジャン!」
「見ろ! 嫌がってる! 今しかねぇ!!」
「うん!」
リネアは返事をして、勢いよく飛び出す。
そんなリネアを援護するため、ミシェルは足を止めて魔法を唱えた。
『光撃魔法――レベル3――オーラ』
光の球による攻撃。
大した威力はない。
人に効く程度の攻撃では、ドラゴンには無力だ。
しかし、ミシェルはそれを目くらましに使った。
いくつも放たれた光の球は、ドラゴンの顔の前で炸裂する。
ドラゴンとて生物だ。
光は眩しい。
その隙に今度はジャンが援護攻撃を仕掛けた。
矢による攻撃。もちろん鱗が薄い部分。
それをドラゴンは再度、腕で払った。鱗さえあれば、その矢の攻撃は脅威ではない。
ただし、その間にガロンとリネアが接近していた。
すでにリネアの間合い。
それを察したダークネス・ドラゴンは防御より、攻撃に出た。
鱗を再度発射したのだ。
ガロンがそれを防御するが、距離が近い分、威力も大きい。
防御が突破され、ガロン自身が盾で鱗を受け止める。
しかし、盾で隠しきれない部分で傷が増える。
だが、それも後ろからミシェルが治癒魔法で瞬時に治していく。
「……行くんだ!!」
血だらけになりながら、ガロンは告げる。
その声に押され、リネアは跳躍する。
すでに攻撃準備は整っている。
これが効かなきゃおしまい。
覚悟をもって、リネアは渾身の一撃を放った。
『雷撃魔法――レベル10――煌雷一閃』
鞘から剣を引き抜き、雷と共に突撃する。
狙うは鱗がない部分。
だが、刃が当たった瞬間。
リネアは察した。
威力が足りない、と。
鱗がなかろうと、ドラゴンの体は頑丈だ。
傷を与えることができても、致命傷は与えられない。
だからリネアは完全に剣を振り抜かず、傷を与えるにとどめて、再度、剣を鞘に収めた。
それは賭けだった。
どちらが速いかの賭け。
目の前にはドラゴンの傷口。
ここに全力を叩きこめば、さすがに攻撃は通る。
だが、それを許すほどドラゴンも甘くはない。
腕が振り下ろされた。
すでに限界近いリネアにそれを避ける力はない。
はずだった。
「これは……!?」
突然、リネアの体が軽くなった。
咄嗟に跳躍し、リネアはドラゴンの腕に飛び移ることで、一撃を回避した。
そして。
「さすが、テオね」
強化された自身の体を感じながら、再度、全力の一撃を放った。
『雷撃魔法――レベル10――煌雷一閃』
傷口へ向かっての突撃。
雷を纏ったその一閃をドラゴンは止められず、リネアによって腹部を貫かれたのだった。
ドラゴンの背面に飛び出したリネアは、そのまま倒れるドラゴンから離れる。
「はぁはぁはぁ……」
できる最善の攻撃。
それをやった。
これで致命傷でなければ次はない。
そんな風に思っているリネアの下に、空から黒い騎士が降り立った。
「たかがAAAランクの冒険者と甘く見すぎたか」
「……黒龍騎士ってやつかしら?」
見た目は全身を鎧で固めた騎士。
けれど、その威圧感はダークネス・ドラゴンを上回る。
傍にいるだけで息が詰まる。
それでもリネアは立ち上がって、剣を騎士へと向けた。
そんなリネアの下にミシェルたちも集う。
「勝てない相手とわからないほど未熟ではあるまい?」
「勝てない相手だとしても……私たちは逃げない」
「死に急ぎとは珍しいな?」
「舐めんな……こっちはてめぇらの親玉が目当てなんだ」
「龍皇の下僕相手に逃げていたら」
「龍皇なんて倒せません」
ジャンとガロン、そしてミシェルは強い言葉を放ち、黒龍騎士に対峙する。
それによって自らを奮い立たせたのだ。
そして。
「私たちは龍皇を討つ……手始めはあなたよ」
「舐められたものだ。ダークネス・ドラゴンすら仕留めきれないのに、私を倒そうとは」
そう言った瞬間。
倒れたダークネス・ドラゴンが起き上がった。
ダメージはある。
しかし、まだ健在だ。
そして周囲に続々とモンスターも集まり始めた。
「さぁ、絶望しろ」
黒龍騎士はリネアたちにそう告げた。
しかし、リネアたちの目から戦意が消えることはない。
文字通り、絶体絶命。
それでも。
「舐められたものね……この程度で私たちが絶望すると思っているの? 私たちは龍皇を討つ気なの。こんなところで絶望する程度なら……とうの昔に絶望してるわ」
「そうか。では、死ね。そういう危険分子を排除するのが我々の仕事だからな」
そう黒龍騎士が言った瞬間。
周囲に影が広がった。
そして影から続々と冒険者たちが現れた。
「なんだ!? ここどこだ!?」
「さっきまで戦ってたはずじゃ……」
「どうなってる!?」
冒険者たちも理解できない中、突然、都市の冒険者たちが一か所に集められた。
そして。
『氷滅魔法――レベル10――アブソリュート・ゼロ』
空から現れた大鎌を持った女性によって。
周囲にいたすべてのモンスターが凍り付いたのだった。