表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

第二十二話 虚偽の依頼



 聖龍教の本拠地。

 聖都とよばれるそこで、金髪の聖龍騎士は壁に広がった影を見て、足を止めた。

 白い鎧を身に纏い、貴公子然としたその聖龍騎士は、誰もが羨む理想の騎士だった。

 そして影が窓の形をとったのを見て、口を開く。


「淵王か」

『気づくのが遅い』


 開口一番、自分への文句。

 影の窓に映った黒い鎧姿の男を見て、聖龍騎士はため息を吐いた。


「君くらいだ。私に遠慮なく文句を言うのは。要件があるなら早くしてくれるか? 私はこれでも忙しい」


 そう言って聖龍騎士、エドワールは呆れた表情を浮かべた。

 しかし。


『余裕を見せるのはやめろ。状況はわかっている』

「……やはりその件か。君も関わっているのか? 聖都は大混乱中だぞ?」

『関わっているといえば関わっているな。今、騒動の近くにいる』

「近くにいる……だと?」


 エドワールは淵王から発せられた言葉を受けて、目を見開く。

 それはさすがに予想外だったからだ。

 そして表情が明るくなる。

 絶望的な状況が一気に希望に溢れる状況になったからだ。


「いますぐ聖龍姫様を助けてほしい! 聖龍教団は礼を惜しまないぞ!」

『そうしたいのは山々だが、こちらにも事情がある。聖龍教団として正式に俺へ依頼を出せるか?』

「教団として正式に……? それには時間がかかる……」

『正式な依頼が欲しい』

「……それがない場合は……?」

『動くに動けん』


 淵王の言葉を聞き、エドワールは押し黙る。

 聖龍教団は大きな組織だ。

 そこからの正式な依頼という形をとるには、時間がかかる。

 たとえ聖龍騎士のエドワールでも、だ。


「後日、正式な依頼を出すでは駄目か?」

『駄目だ』

「……」


 エドワールは深く息を吐く。

 そして空を見上げる。

 今こそ、忠誠心が試されている。

 聖龍への、そして聖龍姫への。


「淵王……聖龍教団として君に依頼を出したい。これは〝正式〟な依頼だ。どうかデビュタントにいる聖龍姫様を助けてほしい」

『たしかに……正式な依頼だな? 教団の上層部は承知している。そういう認識でいいか?』

「無論だ」


 エドワールによる独断。

 それしか手がなかった。

 聖龍姫のために、エドワールが教団からの正式な依頼と偽り、淵王に依頼した。

 そうすることで淵王の格は落ちず、淵王が現地に向かった理由ができる。

 淵王は何も悪くない。

 聖龍騎士からの依頼だ。疑う余地はない。

 責任はすべてエドワールにある。

 いくら聖龍騎士でも懲罰の対象だ。

 それでも良いと思える忠誠心がエドワールにはあった。


「全て任せたぞ、淵王」

『任された』


 話が終わると同時に影の鏡がなくなる。

 向こうの様子は気になるが、エドワールは気にするのをやめた。

 淵王にどうにもできないならば、誰にもどうにもできないからだ。




■■■




「嘘でしょ……?」


 追手を振り払い、ミシェルと共に逃げていたティーエと合流したリネアは、空に浮かぶダークネス・ドラゴンを見てつぶやく。

 思い出されるのは故郷を荒らした憎き黒龍。

 心の奥に隠した憎悪の炎がリネアの中で大きく燃え上がる。


「リネア! どうしますか!?」


 ミシェルの問いにリネアは少し考えこむ。

 そして。


「走って! 憩いの泉亭まで!」


 自分の中の復讐心を抑え込み、指示を出す。

 そのまま、三人はダークネス・ドラゴンには目をくれず、憩いの泉亭へと走っていく。


「ついたわ! 中に入って! ティーエさん!」


 リネアはティーエを憩いの泉亭へと入れる。

 中にはウォルターがいた。


「何事ですかな?」

「彼女を匿ってください!」

「お二人は?」

「……私たちは戦います」


 リネアの言葉にミシェルもうなずく。

 このままダークネス・ドラゴンを放置しては、都市がめちゃくちゃにされてしまう。

 故郷の二の舞だ。

 それをさせないために強くなった。

 それに。


「大丈夫。安心して、あなたは絶対守るから」


 狙われるティーエはかつての自分たちと同じ。

 そのときに大丈夫と言ってくれる人が欲しかった。

 あの時は現れなかったが、そうなろうと努力してきた。


「行きましょう、リネア」

「うん!」


 声を掛け合い、二人は出ていく。

 その後ろ姿を見ながらティーエはつぶやく。


「……わたくしは無力ですわね……」

「無力さを知るのもまた、一つの強さかと」


 そういうとウォルターはティーエに椅子をすすめる。


「あなたにできることは信じることだけ。ご安心ください。我が主がいざとなれば動くでしょう」

「あなたはテオ様の……部下なのですか?」

「はい。しかし、主の命があるまで私は戦いません。ですので、ここにいてくださると助かります。防衛程度なら問題ないでしょうから」

「……わかりました。大人しくするとしますわ」


 そう言ってティーエは静かに椅子に座る。

 それと同時に迷宮都市デビュタントが大きく揺れたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ