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第十九話 ギルドの裏切り者



「それで? 道端で会った女の子が聖龍教の巫女……聖龍姫様だったと?」

「恐ろしいことに、そうだった」


 ギルドハウス内の一室。

 そこにリネアたちと俺、そしてティーエがいた。

 護衛は俺たちに一任しろということで、ほかの者は追い出した。

 誰も信用できないからだ。


「テオ様はもちろん、皆様にも命を助けていただきましたわ。感謝いたします」


 椅子に座るティーエは丁寧に頭を下げた。

 それを見て、リネアはため息を吐く。

 本質的にティーエが悪い人物じゃないと気づいてしまい、文句がいえないんだろう。

 俺たちのパーティーにとって、ティーエは率直にいって邪魔でしかない。

 トラブルの原因にこそなれ、益にはならないだろう。

 広く先まで見れば益もあるが、現状は益がない。

 しかし、悪い人物ではない。

 それだけリネアにとっては何も言えないのだ。


「はぁ……人助けはいいことだものね……しょうがないわ」

「ありがとう。助かるよ、理解してくれて」

「当然だぁ……あなたのような……〝美人〟を助けない男は……男じゃない」

「また始まりましたね」


 ジャンが芝居がかった様子でティーエの下へと向かっていく。

 それを見てミシェルが冷ややかな言葉を発する。

 発作か何かだと思ってるんだろうな、この様子だと。

 ただ、ガロンもリネアも呆れている。

 美人を見ると口説かずにはいられないというのは、ある種、発作と思ってもいいのかもしれない。


「俺の名前はジャンと申します。高名な聖龍教の巫女様がこんなお綺麗だとは……あなたの美しさを例えるなら……星空の中でも一際輝く一等星だ。あなたという星明りを求めて、皆、聖龍教に入るのでしょう。俺も思わず入教してしまいそうです。ああ、俺の場合はあなたの美しさに魅入っているだけですが……」

「まぁ、お上手ですわね。ジャン様も素敵でしたわ。その弓の腕でお仲間の皆さんを助けていらっしゃるのですね。射抜けないモノなどないのでは?」

「はっはっはっ……美人なうえに褒め上手だ。射抜けないモノないと自負していますが……あなたの心はまだ射抜けないようだ」

「そうですわね。わたくしは聖龍教の聖龍姫ですから。殿方との恋愛はできない立場です。しかし……神話の英雄のように何でも射抜く弓使いならば、射抜かれてしまうかもしれませんわね」

「なるほど……頑張ります!」

「絶対に無理だって言われてること……理解してんのかな?」

「理解してないんじゃないかな。たぶん、脈ありって思ってるよ」


 俺とガロンは小声で会話する。

 神話の英雄にならないと無理って言われたなら、普通ならあきらめるべきだ。

 そこでチャンスがあると思うあたり、ジャンの頭がお花畑とみるべきか、ティーエのあしらい方に難があるとみるべきか。


「それで? テオ、どうしてわざわざ護衛に立候補なんてしたのかしら?」


 ジャンが満足気にティーエから離れたのを見て、リネアが本題に入る。

 俺にしては珍しいと思ったんだろう。


「まさか、彼女を安心させるためだけ……ってことはないわよね?」

「それもあるけれど……聖龍姫の予定が黒龍教に漏れてた。聖龍教の内部から漏れたと思うより、冒険者ギルド内から漏れたと思うほうが妥当だろ?」


 俺の言葉にリネアとミシェルが少し険しい表情を浮かべた。

 ガロンは自然と扉のほうへ移動し、ジャンも静かに弓を手元に引き寄せた。


「ギルド内に裏切り者が?」

「わからない。裏切り者がいるのか、あまりにも口が軽いのか、どちらにせよギルド内を疑うべきだ」

「疑うべきは誰?」

「支部長か支部長補佐だろうな。彼女の来訪を知ってた人物に絞られる。本人たちじゃないにせよ、その周りの人間が黒龍教の関係者かもしれない」


 いくら親しくても、聖龍姫が来るなんて重大情報を簡単に漏らすとは思えない。

 だから怪しむべきは二人のどちらか。

 そして。


「支部長補佐は俺たちが聖龍騎士の援軍に向かうことを却下した。聖龍姫の護衛がここに来ることを避けたかったんじゃないかって……勘ぐってしまうような?」

「周りを固めるというのは妥当な判断だと思いますが?」

「冒険者がここに何人いると思ってるんだよ。外回りの防衛に俺たちがいたところで大して変わらない。だから、援軍に志願した。けれど、却下された。それならと直属での護衛を志願したが、それも却下された。結局は無理やり意見を通したけれど……怪しむには十分だ」


 俺の説明を聞き、リネアとミシェルが納得した表情を浮かべる。

 そして。


「それで? テオはどうするべきだと思ってるの?」

「何事もなきゃ待機だけど……いざというときは逃がす準備をしておこう。もしもギルド内に裏切り者がいるなら、ギルドハウスに逃げ込まれた場合の策もあるだろうし」

「逃がすにしても、どこに逃がすのですか?」

「そこそこ安全な建物ならどこでもいい。相手が黒龍教で、聖龍姫を本気で狙ってるなら敵のほうが戦力は上だ。聖龍騎士が無事に都市へたどり着いてくれることを祈って、こっちは動くしかない」


 そうは言いつつ、俺は無事だという確信があった。

 アリスを援護に向かわせているからだ。

 いくら黒龍騎士が強いといっても、聖龍騎士も同等レベルで強い。

 さらにアリスは迷宮攻略者の中でも上位の強さを誇る。

 アリスが加勢すれば負けることはないだろう。

 だからこそ、援軍が来るまでティーエを生かし続ける必要がある。

 援軍が来ればほぼ勝ちだからだ。


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