第十八話 ギルド支部
「やっと片付いたわね……」
「なんだ? こいつら、やけに強かったぞ?」
戦いが終わった瞬間。
俺はティーエの手を引いて走り始めた。
「リネア! そいつら任せた! ちゃんと拘束しておいてくれ!」
「ちょっと!? テオ!?」
「急ぎなんだ!」
俺たちとの戦いで追手は無力化された。
しかし、あれで最後と断定できない。
この隙にギルドハウスに向かうのが一番だ。
「テオ! あとで説明してもらうわよ!?」
「ああ! あとで!」
そう言って俺はティーエと共にギルドハウスに向かったのだった。
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ギルドハウスに駆け込むと、俺はすぐにギルドの中を見渡す。
すでに聖龍姫が迷宮都市に逃げ込んだという情報が入っていたからか、ギルドハウスはてんやわんやだった。
「支部長にすぐに取次を!」
「すみません! 今、忙しくて!」
「はぁ……」
G級冒険者の声は忙しいギルド職員の耳には届かないようだ。
俺はティーエのほうを見る。
ティーエは心得たとばかりに頷いた。
「支部長にお伝えください。聖龍姫が訪ねてきたと言えばわかりますわ」
ギルドハウス内が一瞬、シーンとなる。
ティーエはそのまま首にかけていたペンダントを開けた。
そこには聖龍教の紋章が刻まれていた。
それが証拠となったのだろう。
ギルドハウスの職員の一人が、急いで二階の一室に駆け込む。
すると、二階の一室から慌てた様子で中年の男性が降りてきた。
「せ、聖龍姫様!? よくぞご無事で!」
「ご迷惑をおかけしましたわ。支部長」
「そんな! 我々が至らないばかりに大変な目に遭わせてしまいました! 誠に申し訳ありません!!」
支部長は深く頭を下げた。
正直、ギルドのせいではない。
ティーエが来ることを内密にしていたのは、ティーエの護衛に関しては聖龍教が受け持つからこそ、だ。
誰が悪いかという話なら、聖龍教が一番悪い。
「いえ、わたくしが無事なのは冒険者の方々のおかげです。とくに、こちらの冒険者、テオドール様とそのパーティーの方々が助けてくださいましたわ」
「そうでしたか……よくやったぞ、テオドール君! さすがリネア君のパーティーだ! 素晴らしい!」
支部長は俺の肩に手を置き、労う。
それに対してティーエが口を開こうとするが、それを視線で制す。
別に功績が欲しいわけじゃない。
ここでの立場はすでに確立している。
ティーエの協力が必要なのは、別の迷宮都市に行ったときだ。
またデビュタントみたいに迷宮に挑戦するのに制限があった場合、いちいち評価を上げるのも面倒だ。
しかし、聖龍姫を助けた実績と、その聖龍姫からの推薦があればどこの迷宮都市でも優遇してくれる。
それさえ手に入れば、正直、どういう扱いされても文句はない。
「支部長、すぐに動かしていた冒険者を呼び戻しましょう」
「ああ、ベルナール君、そうだな。頼んでもいいかね? 私は聖龍姫様のお相手があるのでな」
「お任せください」
そう言って支部長はティーエを伴って奥へ向かっていく。
代わりにギルドハウスの指揮を執り始めたのは眼鏡の男だった。
見た目は若いが、眼鏡の奥の目は冷たい。
「ご苦労だったな。呪印憑きのわりには良い仕事だ」
「それはどうも」
なかなかの言いようだ。
たしか、支部長補佐のベルナールだったか?
かなりのやり手で、実質的な支部の責任者と言われている青年だ。
すぐに冒険者たちを呼び戻し、防御を固めるのは良い判断だ。
「お前はパーティーと合流して、パーティーメンバーを連れてこい。今はとにかく防御を固めたい」
戦力を散らしている余裕はないからな。
気持ちはわかる。
しかし。
「彼女の話では外で護衛が戦っています。俺たちのパーティーは援軍に向かいます」
「駄目だ。ここの防御が第一だ」
「助けられるかもしれないのに、ですか?」
「そうだ。聖龍姫様の護衛なら、聖龍姫様の無事を一番に考える。我々の考えもわかってくれるだろう」
「では、援軍は出さないと?」
「都市の安全がわかってからだ」
筋は通っている。
しかし、少し違和感がある。
俺たちはたしかに都市内最強のパーティーだが、俺たちが抜けたところで、ここには多くの冒険者がいる。
援軍として派遣するくらい許容できるはずだ。
少し考えこんだ後、俺は頷いた。
すでにアリスを向かわせている。
何かあればアリスが対応するだろうと思ったからだ。
ただし。
「では、彼女の身辺警護は俺たちが引き受けます」
「なに?」
「一番強い奴らが傍にいるべきでは?」
「勝手に決めるな。そういうことは我々が決める」
「なるほど……ティーエ!! 護衛につくなら誰がいい!!??」
大声で俺は奥にいるティーエに呼びかける。
すると、奥からティーエが顔を出した。
そして。
「もちろん……テオ様ですわ」
「決まりだな。誰かリネアたちに伝令を。ギルドハウスに集合と伝えてください。俺は聖龍姫様の護衛につきますから」
「呪印憑きが護衛について何ができる……?」
「さぁ? けど、彼女のご希望です」
そう言って俺はベルナールに笑いかける。
すると、ベルナールは一瞬、怒りの表情を浮かべたが……すぐに冷静さを取り戻して、踵を返してどこかへ行ったのだった。